番外編 伝説の冒険 第参話
いつも二千文字らへんキープなんですが、今回の話は二倍の四千文字ぐらいになってます、次からは二千文字に戻すつもりなので、今回だけ。
冒険者としてまだ入ったばかりの頃、つまりEランクであり一人で生きるのにも大変な時だった。それまでイザヴァルは二人分の食費や寝床を確保するため、薬草採集からEランクでしか受けられない依頼を効率良くこなし何とか生計を立て二人で生きていた。
「私お料理なら出来るかもしれませんわ!」
そうアルーナが言ったのは、イザヴァルが仕事終わりに宿屋に帰ってきたところだった。
「・・・・・・・・・・・・ああ、人間誰でもやってやれない事は無いからな」
「なんですのその長い沈黙は!?私だって邸の中で多くの美味しい物を食べてきた身、そんな私なら美味しい物が作れて当然ですわ」
イザヴァルはアルーナの言葉に哀れだと思ったが、表情には決して出さず、その代わりにいくつか条件を出した。まず一つ目にある程度生活に余裕が出来たら。二つ目にアルーナの着ているその貴族ですよとアピールするかのごとく服を庶民用の服装に変えるという事。そして最後に自分のいない所で料理をしない事の三つだった。
「それは条件に入れられなくても私自身で何とかするつもりでしたの、流石に私がお父様から狙われの身であるとしても、このまま部屋に閉じこもってイザヴァル様に養ってもらうのは心ぐるしいですわ・・」
「少し待っていてくれ、すぐアルーナに料理をふるまってもらうために私も頑張るからね」
「イザヴァル様・・・」
イザヴァルは内心猛烈に色々な物と戦っていた。まずはアルーナが自分で少しでも役に立てていると思える事、彼女は宿屋に隣接している食事処で皿洗いを体験するも皿は割るわ接客は偉そうだと大変評判で、まずそういった家事関係の事はアルーナには任せられないとイザヴァルは思った。
そして今回よりにもよって金のかかる料理に手を出すと言い始めた。きっと彼女の中では素材を切って鍋で煮込めば何とかなるとか思っているのだ。それに調味料も高い、そんな余裕は私達には全くない、と。
頭の中で思考が加速し、必要な情報を脳内からかき集め一つの答えにたどりついた。第二の問題である、住居、第三の問題である衣服や衛生面の問題。それらすべてをひっくるめて答えにたどり着いた。
「少し出てくる、もう暗いから部屋に鍵をかけて寝るんだよ」
「それではイザヴァル様が入れませんわ、私も起きて待っています」
「夜更かしは良くない、私は朝に帰ってくる予定だからその時に起きて待っていてくれ。頼めるかな、アルーナ」
「はい・・・お気をつけて、イザヴァル様」
「ああ、行ってくるよ」
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「さてと、こんな綺麗な満月の日にはきっと魔物も元気に森の中を徘徊しているんじゃないかな?」
村付近の比較的安全な森の中を一直線に進み、Bランクで進む事が許される地域へと足を踏み入れさらに進む。明かりも無く、ただ月の光だけが今のイザヴァルにとって唯一の明かりとなっていた。そんな危険な状態ともいえる状況で彼の目の前に現れたのは数頭の魔物。
「あれは・・・Cランク程の魔物か?暗くて良く見えないがここら辺にいるんだ、それくらいにはなると思いたいね」
相手の魔物は黒く、体長一メートル三十センチほどの大きな虎の群れ。普通に戦えばイザヴァルは肉片へと変わり美味しく魔物に頂かれる事になるだろう。しかし彼は考える、そういう当たり前の事をスキルとして持つ彼は、その考えを人間の考えのその先へと昇華される。
「サタン君の行っていたバタフライ効果と言う奴を試す時が来たな・・・彼が言うには小さな一つの出来事で将来に大きな影響を及ぼすかもしれないものという事らしいが。そんな遠い将来の事は言ってられなくてね」
グルルルル、バウバウ!
「地形情報、天気、湿度、温度それら全てを頭の中に叩き入れる」
イザヴァルは魔法で横幅一センチ、深さ数メートルの穴を掘る。消費MPは5、基本的に剣士タイプのイザヴァルには消費MPがたったの5であっても半分の量であり、体への反動は大きい。一瞬で半分のMPを使う魔法をイザヴァルは使った事が無かった事もあり、よろめきそうになるが決して魔物から視線を放さず、一定の間合いを取り続ける。
グルルルル・・・
「とてもお腹が空いてそうな音を鳴らすじゃないか、私は少し不安になってきたぞ、後もう少しだ。もう少しで君たちは私の生きる糧となるからな、そのままじっとこちらが油断するのを伺っていろ・・・」
そのまま対峙し続ける事、数分。こらえきれなくなった一頭の虎がイザヴァルへと襲いかかり、それにつられ他の四頭の虎もいっせいにイザヴァルへと左右同時方向から襲いかかる。
「さて、この木の中、人間の私が君たち相手にどれほど逃げ切れるかな」
イザヴァルは地形の把握は勿論、初め歩いてきた道の土の感触とその周りの土から、周辺一帯の土に含まれる水分の量の把握をし、それを利用して上手く虎達を交わす。
時にはMPを一使い木のに水を集中させ、手で押し、木を倒して虎の突進を交わし、木を飛び越えてくれば手持ちの細剣で一体づつ的確に足と顔を傷つける。
そうして長い間持ちこたえ、イザヴァルの残りMPが二になった頃、イザヴァルの張った罠がようやく作動する。あの細い穴から大量の水があふれだし、辺りの土もドロドロと水を含み、辺りはぬかるみへと変わる。そうして出来た沼に虎達は気付かぬ間に足をとられ、一頭は沼から近くにあった木へとよじ登り、遠くへと逃げていったものの、残りの四頭は見事に膝までつかり、後は沼に沈み溺死を待つのみ。しかしそれは虎がそのままであればの話。そんな事をしてはせっかくのCランクの魔物をみすみす沼の中に沈める事になってしまう。
「持ってくれよ、私のMP、一MP魔法、水分分散」
イザヴァルは数秒間のみ自分もはまっていた沼の水から、自分の周りのみ水を分散させ、抜け出せるように這い出ると、助けを求める虎達の鳴き声も静まり還り、夜の静けさが戻っていた。
「・・・頭がフラフラするのがだんだん引いて来た・・・私の体に変化でもあったか?」
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名前:イザヴァル・ワイズバッシュ
性別:男
職業:放浪公爵
称号:公爵家長男 欲する者
種族:人族
年齢:15歳
レベル40
HP:500
MP:30
攻撃力:250
防御力:240
素早さ:180
賢さ:170
器用:200
幸運:17
通常スキル
・細剣4 ・身体能力強化5・
エクストラスキル
ユニークスキル
・何故? レベル3
加護:メフィストフェレスの注目
スキル説明
何故?
レベル1 よく考える
レベル2 周りの把握と自分自身の把握
レベル3 地形情報、天気、気温、湿度、一日に一度対象一体の情報を完全入手
メフィストフェレスの注目
貴方は今欲望がありますね?私と取引をしませんか?
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「レベルが上がっていたのか・・・それになんだ、このメフィストフェレスというのは」
「お呼びかな、この儂を」
「・・・!?貴方がメフィストフェレスか、呼んだつもりは全く無いんだが、まあいい、この加護と言うやつは何だ」
「何だ・・・と言われましても、加護は加護です。あなたの今後の力になるものですよ。しかし私の場合は少し加護を本当につける場合は契約が生じますがね、うぇっへっへっへっへっへ」
「契約?」
出された契約は三つ、一つ目はこの加護をつける間、他の加護はつかなくなる。二つ目、時々直に会って自分の生活をメフィストフェレスに報告する。三つ目、イザヴァル(契約者)が死ぬと、その魂はメフィストフェレスのモノとなる。
「加護の内容は?」
「契約内容を聞いてその反応、儂の契約者として相応しい」
(いつも考えが愚かな人間ばかりで部下にしても使い物にならんからな、こういう珍しいタイプの男は願ってもない、最高の部下候補だ。早く儂の部下にならんかのぉ、ぐぇっへっへっへっへっへっへ)
「おい、メフィスト。加護の内容を言え」
「かってに儂の名前を略さないでくれますかね・・・まあ良い。加護はあなたに儂の魔力を貸してやるというモノです」
「魔力を?」
イザヴァルが聞くにそれは果てしない物だった。普通人間の魔力は個人のモノであり、それを同行できるのは自分しかいなかったのだ。しかしメフィストは二人の間に魔力の繋がりを作り、自分で使う事が出来なかった普通の魔法を使えるようにすることが出来るといった。
「試しに少し儂の魔力を分けてやろう」
契約をしたつもりは無いと思いながらもステータスを開くと、MPが十五万という数字の表記に内心冷や汗をかく。
「どうだ、少し驚いたか?儂はあなたにとっていま一番欲しているMPを貸す加護を与える、その代わりあなたがもし死ねばその魂は私のモノとなる。どうです?死んだ後の事なんて今はどうだっていいでしょう?さぁ、早く契約を、うぇっへっへっへっへ」
「いくつか聞きたい事がある」
「何でしょうか」
「魔力は本当に好きなだけ使っても問題無いんだな?」
「はい、私は魔力を使うアテが無いので好きなだけ使って下さい」
「それと、もしも魔力が足りなかった場合どうすればいい?」
「私の魔力は一京ほどありますので、ご心配なさらずどんどん使って貰って構いません」
「・・・最後に一つ、この契約はメフィスト、貴方から破棄することは出来るのか」
「可能・・・でございますが、まぁ破棄したところで何も良い事は私にはございませんので、途中で加護が切れる心配はございませんよ」
「加護はメフィストからなら切れるのか、分かった。その契約受けよう」
「これから短い人の生涯よろしくお願いします、契約者。うぇっへっへっへっへ」




