番外編 伝説の冒険 第弐話
イザヴァルの話です。
走る事数分、走るのに自身があると豪語していた割にはさして早く逃げているわけでも無かったアルーナを見つけたイザヴァルは、アルーナが遠くにみえるほどの近さまで追いついていた。
「この広い森の中を痕跡があったとはいえ見つけられて良かった・・・アルーナ!、止まってくれ!」
イザヴァルの声が届くとアルーナは足を止めず走りながら後ろを振り返った。当然ここは森の中であり、木も乱立しているわけで、それも極当たり前に起こる事。そう、アルーナは木に勢いよくぶつかりその衝撃で軽くのけぞり、やがてフラフラとしながらも地面に倒れる事だけはお嬢様としてのプライドが許さなかったのだろう、気合いで踏みとどまった。
「イタイ・・・・貴方!見てないで早くこちらへ来なさい!」
「自分の怒りを人に向けて発散させるのは適応規制のあらわれだ、思春期のお嬢さんには無意識に出ても仕方の無い事だが、それを此方へと向けるのは勘弁してもらいたい」
「何難しい事言ってるのよ!わけが分かりませんわ、それよりもほら、手」
手が汚れたので拭けとアルーナはイザヴァルに命令しているつもりのようだが、当然イザヴァルはそれが分からない、頭の上にハテナマークが浮かんでいる状態だ。
なにせこの森の中を甚平でうろちょろとしていたとしても忘れてはいけないのが国でもっとも位の高い貴族の長男であるという事だ、お世話をしたことなどあるはずもなく挨拶か何かかと勘違いし、汚れたアルーナの手を、少ない魔力とMPで綺麗にしてから握手をした。
「庶民で魔法を使える事は褒めて差し上げますわ、しかし私と握手をするなどこんな時が無いと一生無い事よ?私の心の広さに感謝しなさい」
「こらこら、親の地位があってこその今の自分だろう、余り人を下に見るものじゃない。そういった考え方は後の生き方に支障をきたす事になるぞ」
「わたくしに説教をされている気ですの?見た所近い歳頃の様ですが随分と上から目線で物事を言う人ですわね」
「これから二人で旅をするんだ、言いたい事を言えないのは苦痛になるぞ、早いうちに言っておいて損は無い。アルーナも私に言いたい事があればさきほどのように言ってくれ、なるべくの善処はする」
「二人で旅って・・・何を言っていますの?」
イザヴァルは盗賊から聞いた情報をアルーナに話し、アルーナが辛い心境を顔に出すかとおもいきや意外とあっさりと納得してしまった。
「なるほど・・・もう行動に移されたのですね、お父様は」
「アルーナはもしかしたら正妻の子では無いのか?」
「何故それを!?」
「それが私のユニークスキルだからな・・・おっと、私は余り口が軽い方では無いのだが・・・君の口の軽さがうつったかな?まあともあれ、君はもう自分の領地に足を踏み入れない方が良い。顔馴染みに出会うと最悪アルーナが生きている事がバレてしまう。そうならない為にも君は私の旅につきそわなければ生きていけない身となったわけだ」
「私だって一人で・・・」
「何かできるかな?」
「・・・・」
「今丁度一人旅に寂しさを感じていた頃だったんだ、私と共に来てくれるか」
イザヴァルはここで嘘を吐く、イザヴァルはこれまでに一度も寂しさなどを感じた事が無かった。必要無いと四歳で理解した。寂しさとは孤独によって生まれる自分の存在意義を定義する材料が不足するために起こる人として成長するのに必要な事なのだという事。では逆に存在意義を誰かが定義してくれていたのであればそれはもう必要ないのではないかと。
「で・・・ですが私が貴方にしてあげられる事なんて何も・・・」
彼女が今閉ざされた道に立っているような気がイザヴァルにはした、自分にはあるものが彼女には不足していると、いや、自分に必要の無いものを彼女は求めているのではないのではないかと。
帰る家が無いという事から生まれる孤独感、自分の存在意義に必要な材料の欠乏、それをイザヴァルは自分なら埋められる自信があった。
自分の必要とさえしなかったものはこれほどまでに簡単に補えるという事を証明したかったのかも知れない。
自分にはステータスという誰しもに与えられた証明だけでいい、それで満足しないなら私がその証明をしようと、そういった気分にイザヴァルはさせられた。
「何かしてくれる気だったのか?それは少し驚きだな、その気があるなら私が教える」
「色々とお返し出来るように頑張りますわ、その・・・貴方名前は?」
「ん?そういえば言っていなかったかな、私はワイズバッシュ家長男、イザヴァル・ワイズバッシュ。旅の剣士だ、よろしく頼むよアルーナ」
「こここ・・・公爵様だったのですかあああああああああああああ!?」
たまにこういう雰囲気の違う感じのが書きたくなります。




