ネル先生との会話
俺と背丈は同じぐらいだろうが・・・俺と同じく実年齢は違うパターンの人間だろう。目つきを一度見れば判断できる。それに公爵邸に一室を借りようと思えばそれだけで彼女がウチと関わりがあることは明白だ。彼女が前にクレウスから聞いたネルという魔法使いだろう。
「・・・んん」
「やっとおきましたか・・・おなたがお父様のご友人のネルさんですか?」
「そう・・・なんでわかったの・・・?」
どうやらこの幼女が本当にネルで合っているようだ。
「いえ、お父様のご友人はすごい人ばかりですから」
「そう・・・君はクレウスのとこの坊?しっかりしてんね」
「ありがとうございます」
(この広い邸の中だと俺だけが子どもと言うことは無さそうだが、親に顔が似ているのか?)
「早速だけど私の弟子にならない?」
藪から棒になんだ、と本来なら言いたいところだが・・・条件さえよければむしろこちらとしてもあり難い申し入れだ。こちらはこの世界の道具と言うのを一通り知っておきたい。
「と、いいますと」
「そのままの意味・・・魔法や薬学について君は知る・・・・でも私の技も引き継ぐ・・・うぃんうぃん」
「技の継承・・・ですか。どのくらい時間がかかりますか?」
「早くて五年、長くて・・・十年・・・てとこ」
「月に一度ぐらいなら大丈夫ですよ」
俺は別に教えて貰わなくても機会なら幾らでも作る事が出来る。ここで態々下手に出ることもないだろう。
「それは困る」
流石に表情を曇らせたか。どうせ殆どの時間を自分の研究室に閉じ込めて研究ばかりさせる気だったんだろう。俺の研究者教育マニュアルにも同じ事が書いてあるから予想がつく。勝手に外出しようとすると、『君は初歩も出来ていないのに、何所に行くんだい?』と止めれば良い。向上心のあるものであればあるほどしっかりと働いてくれるはずだからな。
特に俺のような無垢な子供は丁度良いと思ったのだろう。奴隷に等しい・・研究所の家畜、所畜と次からは言うことにしよう。この幼女は可愛い顔をして俺を所畜として働かせる気なのだ。
「しかし僕にも勉強以外に武器の練習と他の楽器やらの習い事が多くありますから・・・余り時間がないんです」
「一週間に一度は・・・」
一週間に一度って、ネルさん、その一度から研究所生活が始まるんだろう?ソースは俺だ。俺ならそうする。
「・・・・」
「むぅ・・・」
「どうします?」
「じゃあ準弟子でいい・・・だから・・・遊びに来て・・・ね?」
服の袖を掴んで涙をためるネルさん。しかしその眼はもともと黄色だったものが濁ったような色をしている。心が汚れていると目も濁ってしまうものだ。光の角度を変えても分かる汚れがな。
「長い時間は付き合えませんから。それで宜しければ、どうぞよろしくお願いします。ネル先生」
「む・・・むずがゆい」
弟子をとるのは今回が初めてなのだろうか、しかし俺は自分にとって利益を生む存在には例え幼女でも礼節をもって接する。慣れて貰おう。
「慣れてください、では初めに何をしたらいいですか」
「部屋のルール・・教える・・・この部屋は危険なもの・・ある・・・許可なく触っちゃ・・・め」
「分かりました」
勿論触らない、俺も自分の研究室に人が入ってくると余計な物には触れて欲しくない。そこは同じ研究者として分かっているつもりだ。
「あと・・・教えても・・・あまり使わない方が・・・いいよ・・・?」
「はい」
「守れるなら・・・大丈夫・・・明日も・・・きて・・・ね?」
「暇があればお邪魔します」
(そういって俺は、部屋を出た)
新しい器具が部屋をぐるりと見ただけでも幾つかあった。いずれその器具の使い方も教えて貰える日が来るだろう。そう思うだけで、心から喜びが炭酸水のように泡立っているのが分かった。
弟子になりました。




