魔族地域 獣人国編(犬) その2 恐怖のフライト
城門から、獣人の国にこれから行くわけだが・・・・俺はどうやって行くつもりだったのだろうか?
海を挟んだ向こう側の大陸が目的地なワケであって当然海を越えていくしかない、あの獣人が此方の大陸に来れたのならば何かしらの道はありそうだがそんなものを探す時間もない。
「すまん二人とも、移動用の劣化竜を捕まえておくことを忘れた」
「あー、なら竜王さんに乗せて貰えば良いじゃないですか。劣化竜より抜群の乗り心地ですよ、きっと」
「あーそれはめいあ・・・なわけあるまい。何故妾が乗せねばならぬ、竜海で良かろう」
「僕は体をウネウネしながら飛ぶので無理です、良いじゃないですかぁー非常事態ですよ、非常事態」
「だから俺は・・・」
ワープすると、言いかけた時背後から温かみを感じる、スキールニルが何か話したいらしい。彼女は発言の許可を得たい時、決まって体を密着させてくる。普段は二、三歩離れた所から見ている癖にいきなり背後からピタッと密着するのだ、ウチのメイドは心臓に悪い。
「許可する」
「アスク様、ありがとうございます。竜王様、少しお話がございます」
「妾か?ふむ・・・・まあ良かろう。妾の竜眼をもってしても見る事の出来ないそのステータスの正体も気になるが、お前さんもどうやらこの世界の住人ではないのであろう?ならば面白い話も聞けるというものじゃ、精々妾が飽きぬよう努めよ」
「かしこまりました」
城から、城下町へ竜王が歩き始めるとそれに付き添うようにスキールニルが隣で歩きながら話を始めた。
会話は竜王の魔法により聞こえず、ただ二人が何かを話しているように見えるだけ。
竜海はと言うと、何やらマジマジとその二人の会話を見て、納得するようにうなずいている。まさかコイツには二人の会話が聞こえているのだろうか。
「分かるのか?」
「少しだけ、魔法にバレないレベルで干渉して音を耳で拾っているんですが・・・アスクさんは聞かない方が良いですよ」
コイツいつの間にそんなテクニックを・・・!
「例えばどういったことだ、俺が傷つかない程度にはなしてくれ」
「難しい注文だなぁ・・・・・えーとですね、・・・・私は付き添いません・・・・・お好きになさってどうぞ・・・・・・関係ありません・・・・・・どうぞどうぞ。てな感じです」
「スキールニルはついて来ないのか、そんな事なら別に竜王と話す事ないだろうに」
「いえいえアスクさん?ちゃんと後から言った言葉も思い出して下さい」
「お好きになさってどうぞだろ、ようは竜王は俺との結婚の話しをしているわけだ、何故かと言うとスキールニルは俺の監視役兼ウチのメイドだから。公爵家に早めの報告をしておくというわけだよ」
隣で聞いている竜海が俺から何歩か離れた気がするのは気のせいか。
「どうしてアンタは竜王さんの話しになると、そう気持ち悪い思考回路に変身するんです?」
「変身?・・・さあな。だが、そうでないとするならどういう意味だ」
「メイドさんが言っているのはアスクさん、貴方の命をお好きにどうぞって意味です」
「俺が婿?」
「・・・・・・」
「どうした」
「いや・・・・・・・まあ大丈夫でしょう、貴方には要らぬ心配でした。二人が戻って来ます、会話を聞いていた事は勿論・・・」
「当たり前だ」
それから、二人と合流するとスキールニルは再び姿を消した。必要無くなればまた監視の役に戻るのだ、真面目なメイドである。
「竜海よ、次同じような事をすればビンタをするぞ」
「ご、ごめんなさいぃ~」
どうやら竜海の盗み聞きは竜王にバレていたようだ。竜の王のビンタ、普通に受ければ気絶では済まないだろう・・・。
「お前は殺すぞ」
俺に向かって何を言ったかと思うと、殺気のこもったただの挨拶だった。しかし俺はその言葉に対して決まった言葉の返し方を知らない。とりあえず口から言葉を放つがこれが正解だと祈ろう。
「ああ、一緒に頑張ろうな」
「あ゛?」
「アスクさん!謝って!」
「言葉のチョイスミスだったか。竜王悪かったな、それならそうだな・・・うん、楽しみだね」
これならどうだ!?会心の一言だ、コレはかっこよく決まった。イケメンボイスをフル活用した最強の一言。これなら竜王も・・・・
「コォォォォ・・・・・」
「竜王さん!町中でブレスは被害が!!!」
「では火柱といくとしよう。・・・・デスクリムゾン」
俺を中心とした魔法陣が下に展開され、気付いた時には火柱が空へと昇っていた。中から見る火柱は美しく、体が焦げている事など気にはならなかった。気付いた時には皮膚の表面が黒くなり、回復魔法で手が付けられないほど綺麗に炭化させられていた。鎧を通してこの攻撃、流石竜王だ。
俺も痛み止めの薬を飲んでいなければ今頃どれほど痛かったか分からない。目は灰が入ったのかゴロゴロとしてとても邪魔だ、目を抉り取ってしまいたいほどに。火柱はもう止まったようだが、竜王の事だ。もう次の手は打ってきているはず。さてさて、次はどうな目にあうのやら。
「少しやり過ぎたか・・・・いや、それくらいでなければな。・・・・ふぅ、思ったよりも早くケリがついた、帰って眠るとしよう」
「竜王、俺が全身火柱に包まれた程度で死ぬと思ったのか・・・そこまで信用されていない事がとても悲しいよ」
竜王は皮膚や鎧が黒くなると、中身まで真っ黒になっているとでも思っていたのだろうか。そうなのだとすればそれはとても悲しい事だ。追い打ちもせず、警戒もしない・・・・ただ死んだと思った相手を目の前に勝ち誇っている。俺の最愛の人はお茶目さんである。
「お前は化け物か、何所に筋肉まで焼けて生きている人間がいる。人間であるならば妾はあの程度で済むであろうと思っておった。実際に今までに挑んで来た強者どもも、全てアレの前に消え失せたよ。骨まで溶かすあの火の中をどのようにして生き残った」
「企業秘密だ」
何もせずただ鎧と筋肉が炎を拒んだだけだが、これ以上の攻撃は竜王の魔力が勿体ないので話題を切り替える。
「そういえばスキールニルが竜王に言いたい事は教えてくれないのか?」
「あ゛?・・・・・妾がお前を乗せてやるというはなしだ」
「な・・・・・なんだと・・・・」
俺が・・・俺が竜王の背中に乗って・・・空を飛ぶ・・・のか。や、ヤバい、火柱よりもダメージが・・・。体内から湧き上がる血を抑えられん・・・!
「アスクさん鼻血・・・・・出てますよ」
「少しダメージが大きかっただけだ、気にするな。ゴフッ」
「いや、口からも血が出るってかなりヤバいですから。内臓ボロッボロじゃないですか、やっぱさっきのガードしきれてなかったんですか!?」
「大丈夫だ、回復魔法をかけている」
「竜王さん、アスクさんを倒すなら恐らく一番有効なのは言葉ですよ、それもとても甘い言葉です。どんな言葉も都合よく頭で変換するアスクさんにダイレクトで甘い言葉を囁けば恐らく死にます」
「馬鹿を言うでない、妾は言葉でも魔法でもない。身体能力での勝負じゃ、それでアスクを叩きのめす」
「ですが今火柱で殺そうと・・・」
「あれは・・・・そう、ちょっとした遊びじゃ、あんなもので死ぬワケがないからの」
「あはははは・・・・そですか」
「そうじゃ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「これが竜の背中か、高いな!!」
「何をはしゃいでおる、子供か」
「一応まだ未成年だ」
「三メートル越えの未成年がどこにいるんですか・・・」
「では行くぞ、竜海、妾を見失うなよ!」
ゴォウ・・ゴゥ・・・
その余りにもその巨体を羽ばたかせるには少ない羽ばたきで竜王を空へと昇った。竜王は何か呟くと羽の後ろにエンジンでもついたかのように猛加速を初め、雲を突き抜けそのまま水平に西の方へと飛んだ。
「あああああああああああああああああああ」
当然俺への配慮はないらしい、そして空気が重たいという初体験を踏まえ速度は更に増していく。兜が仮面のようになり、風を遮断する。しかしこれでは前が見えな・・・・・
「ふふふ・・・落ちるがよい」
「はっ?」
いきなり竜王は速度を落とさず体を揺さぶり始め、俺を振り落とそうとする。竜王はこれが目的でどうやら俺を乗せた様だ。
「手触りの違う鱗・・・それならこの下に恐らく・・・ハハハ・・・あると思ったよ」
竜王の体にびっしりと生えている鱗の中に一部柔らかい鱗がある、その下に少しでっぱりを見せる逆向きに生えている鱗を俺は手触りで認識し、ソコを掴む。
竜王がギャーギャー言っているが、悪く思わないでもらいたい。例え今俺がしがみついている鱗が竜種の感じやすい所であったとしてもだ。




