研究と生きた男、異世界へ
頑張ります!
~とある世界 とある研究所 とある二人の会話~
足並みを揃えて歩く二人の研究者達。聞こえてくるのは、上司の愚痴のみ。
「そういえば、所長のお作りになっていた薬・・・今日が確か試作予定日でしたね」
「あの死神の異名を持つ所長の事です、どうせまたえげつない毒薬でも作って、鼻歌でも歌いながらまた捕虜の軍人を実験体にして実験に使ってボロボロに・・・・・・全くいい加減にしてほしいものです、あの実験で一体何人死んだことか・・・」
「全くよ・・・だいたいあの人は国がどうとか、未来がどうとかを考えているのかさえ怪しいぐらいです。あの薬が少しでも外に漏れれば大変な事になる事を、理解した上で行っているのでしょうか?・・・・・すいません、分かっていても聞きたくなるんです」
「彼の行動は異常ばかりですが一番国に貢献しているのも彼なのは間違いありません。愛国心だけはあるようなので」
ーウォン・・・ウーウォン・・・・
とある研究所の内部を赤く染め上げ、音を鳴らす警報器。それが意味するのは危険、この研究所で起こる事と言えば兵器の暴走か、薬漏れによる被害のみ。
「今日って所長が実験する日・・・・・・・大変だわ!早く逃げないと私達も巻き込まれる!」
「心配するほどのことでしょうか?私達が理解出来ないものだとしても、彼の作っているのは毒薬というカテゴリの中にあるもの。ならばシェルターなどの隔壁でコチラまで毒が入りこんでくることは無いと思のですが・・・」
「そんな事なら警報なんてならないわよ!!」
「高い声で怒らないで下さい・・・ただでさえ耳が警報のせいでキンキンしているのに」
彼らは安全地帯まで無事避難を済ませた、しかし彼らは後に知る事になる。
・・・・・この日を境に、とある男が研究所から消えたという事を。
死んだというわけでも無く、失踪したというわけでも無く。忽然と。形跡もなく研究所から消滅したという事を。
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~ 謎の部屋 ~
気付いた時には既に俺は白い箱の中にいた。箱なのかどうかは分からないが、まあとにかく白に塗りたくられた正四面体の中に閉じ込められているようだ。
そして俺の下を見ると百七十センチぐらいだろうか・・・俺よりも頭一個分背の小さい青年が俺に向かってだろう、丁寧な土下座をしている。どうしたのだろう、謝る事はあっても土下座される覚えは無いんだが・・・
「まずはすまないと謝らせてくれ、どこで間違ってしまったのか君の作った毒は、人類が絶滅してしまうほど危険性に溢れた物でね。それで僕達の世界で急遽会議となった結果、君は天罰を受けた」
あの世界とか言われている辺りここは元いた世界とはまた違った世界と考えれば納得できるか・・・いつの間にそんなマヌケに俺はなったんだ、んなわけあるか。
「・・・はぁ、それでここはどこら辺だ、俺の服には逃げられないように国が極小の発信機をプレゼントされている、お前らが怪しげな宗教団体とかなら今すぐ近くの川か海に俺を流す事をお勧めするぞ」
空の上って事は流石に無いだろうし、流されていればその内にみうちが見つけてくれるだろ。まあここで殺されて沈められなければの話だが。
「僕達は君たちの所でいう所のGODってやつ。宗教団体からは崇め奉られる側だし、ここは死と生の狭間のような場所だからいくら君の世界の発信機が凄くてもここまでは無理だぜ」
うはーオカルトだな、てことは俺は死んでる設定じゃないか、こりゃまいったな。あははははははははは・・・・・・・・・・・笑えねえよ、今の状況考えたら全く笑えねぇ。
気がつけば棒立ちのまんま白い空間の中にいたんだぞ、それで神々しい衣装の青年からあの世だこの世だ言われてる状況。別の組織に洗脳でも受けているのか、今の俺にはなぜかこの話を信じてしまう。
「へぇ、神様、それで俺はどうなるんですか?」
取りあえずコイツの話には乗る、ボロを出せばここから帰る手がかりが掴めるかも知れない。
「・・・・・・・・まあぁ、いいや、これから君には二つの選択肢を授けようと思ってる。さぁ選んで」
1:体はこのままで、僕の選んだ世界に行く
2:誰かの子供として、僕の選んだ世界に転生する
ほうほう、どうやら俺には選択肢は二つしか用意されていないようだー、しかもどちらにせよコイツの選んだという世界とやらに行かなければならないようでー、とっても困ったなー。
「・・・・僕は君の心が分かるからね」
・・・コイツ中々危ない奴だな、ここまで中二病をこじらせた奴は俺も初めてみた。かなり残念な茶番だが付き合ってやるか。
「あっちの体に適用してないと、この体で行ったっていきなりお釈迦になる可能性もあるしな、2で」
「僕もそれがいいと思うよ、次に君に僕からいくつか加護をあげる」
(君が毒を作ったのが悪いんだけど、消したのは僕だからね。内面の魂は綺麗な子なのにそれを覆う人格はどうしてこう・・・破綻しているんだろう)
「ああ、ありがとう。ところでどんなものか聞いても良いか?」
この茶番、いつまで続ければいいんだ?この茶番いい加減に飽きてきた。
「君、少し疑り深い性格のようだね、じゃあいまから見せるこれを見てくれたら信じてもらえると思うよ」
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<<ステータス>>
名前:騰蛇 陽葉
性別:男
称号探究者
年齢34歳
レベル30
HP:100
MP:0
攻撃力:60
防御力:60
素早さ:90
賢さ:360
器用:80
幸運:1
通常スキル
・薬学12
エクストラスキル
・毒薬作りの才能
ユニークスキル
なし
<<地球での34歳男性の平均ステータス>>
HP:100
MP:0
攻撃力:100
防御力:80
素早さ:80
賢さ:110
器用:80
幸運:10
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今度は謎の技術を駆使したホログラムか、写っているのは何だ?俺と同い年の男性との平均ステータス・・・忠実に出来てるな、笑いが出てくる。これによると俺は攻撃力とかは無くて逃げ足と頭だけがいいと、ふざけるのもここまでくれば傑作だな。
「コレってマジなのか?」
「マジマジ、ホント。僕神様。理解した?」
「まだ時間はかかりそうだが一応・・・・だ」
「そういえばこれ見て僕思ったんだけど、生まれる世界間違えてたんじゃない?陽葉くん」
「失礼な奴だな」
「いや今僕も初めてこのステータスを見たけど、これは明らかにおかしいよ。賢さの数値も異常、持っている才能はたったの一つ、そして一般的な生活スキルはここには出ないが一つもない。つまり君は普通なら料理をしたり洗濯をしたりするようなごく一般的な事が一つも出来ないという事になる」
「そうだが?逆にそれでなにが言いたい」
「・・・まあ、そのことについては良いとしても薬学のスキルレベルを見てみなよ。12にだって、ウケるだろ。スキルレベルが12ってのは、芸術に例えるとピカソとかゴッホとかそういう教科書に名前を刻まれるぐらい凄い人達が持ってるスキルレベルと同じなんだよね。それが毒薬づくりばっかりしていたオッサンのスキルレベルが12って・・・やっぱ面白いだろ?」
さっきの丁寧な土下座を返してもらおうか、なんだコイツ。さっきの誠心誠意の土下座の面影は何所へ行ったんだ?
「俺は何もかも諦め、そして捨てた、全てを研究に捧げた。おかげで嫁どころか女性に声をかけた回数でさえ片手で足りる」
「・・・少し君の事が可哀想に思えて来た。童帝とか称号につけてあげようか?」
(次の世界では少しでも女の子に振り向いてもらえるようにしてあげよう・・・)
「やかましい、まあ次の世界ではいろいろなことをしてみたいとは思っている」
(あちらの世界の毒もどんなものがあるか楽しみだしな。)
「そして次に行く世界アトリアでの平均ステータスをみせるね」
(コイツ毒の事しか考えて無いのか・・・まああちらに行けば少しは恋も目覚めるだろ)
アトレアが惑星名で良いのか?
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<<アトリアでの一部を除いた成人男性平均ステータス>>
HP:200
MP:100
攻撃力:125
防御力:100
素早さ:80
賢さ:80
器用:80
幸運:10
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「こんなところかな、転生する君には限界突破と毒薬生成、あとスキルが習得しやすくなるようにしてあげよう。」
(限界突破はその世界なら成り上がるには必須スキルになる、そして毒薬生成に関してだけど僕は無からスキルを創造することは出来ない。君の記憶からスキルを作るとこんな危ない物になってしまった。もう少し何かスポーツとかやっててくれたらもっと違うスキルとかにも出来たのに)
限界突破レベル1
人間としての壁を超えることができるようになる。
毒薬生成レベル1
作った毒薬の品質がレベルによって一段階上がる事がある
毒を薬にもでき薬を毒にもできる
(毒薬生成のスキルのレベルアップは普通のスキルアップの千倍大変だからね、絶対にレベルアップ出来ないようにしてないと後々大変そうだし。それでも毒を使わせてあげるだけ感謝してほしいな)
「それと僕からの加護を君に、これで言葉に出さなくてもある程度顔で何とかなると思うから」
加護:カティウスの加護
スキル成長が平均の10倍早くなる
体つき顔つきにプラス補正がつく
「わるいな、なんか色々貰ってしまって」
このスキル成長とか限界突破とかいうのは別に必要の無い気がするが体つき顔つきが良くなるのは嬉しいな、しかも補正は極大と、これって無茶苦茶イケメンで筋肉に引き締まったハンサムになれると、素晴らしいな神様。初めて宗教に入ろうかと思ったぞ。
「僕は君を殺したんだからこのくらいしないとね」
(ほかのスキルは十倍速く上がっても、毒薬生成に必要な経験はその百倍だからね、せいぜい毒の事で行き詰ると良い)
「ちょっと待て・・・俺はそれでも何故生まれ変わる事を許された!?」
「後々分かるさぁ~」
「おい!」
――――――――――――頑張ってね――――――――――――
「ま・・・・・て・・・・・・・」
朦朧とする意識のなか、カティウスの背後にいつの間にか立っていた神達は鋭く冷たい目で俺を見ていた・・・。
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「分岐はしたから、とりあえずこれで彼の元の世界は救われた。・・・・・残ったのは後始末だよ・・・明陽・・・・」
残された神の中で――――――何かが呟いた。