アットン城攻防戦
この世界には大小さまざまな国々がひしめいている。
その中でこの世界の趨勢をきめるであろう三つの国があった。
一つは鉄器をふんだんに使い、重厚な戦術でこの世界に覇を唱えんとする
アイゼンハルト帝国。
二つは広大な領地とそこからもたらされる膨大な特産品を持つ農業国家
ルーデンドルフ共和国。
三つは教典を手に世界を宗教で統一せんと教義を広め、屈強な聖騎士を従える宗教国家 ベイゼル教国。
この三つの国に小国は従い、時に抗っては滅び、併呑と独立を繰り返していた。
その中で今回ガルが雇われていたのはアイゼンハルト帝国だった。
孤児ゆえにどこの国と決めることなく諸国を放浪し、いつしか甲化工兵として戦場を渡り歩くこととなった。 初陣のときはまだほんの子供だった。
兵士としてはもう20年、甲化工兵としても10年以上のキャリアを持った。
そんなガルをアイゼンハルト帝国の将官は喜んで雇い入れた。
ガルを雇った将官が平民出身だったことが好意的に映ったのかもしれない。
同じく雇われた甲化工兵も顔なじみが多く、命の危険がいつも通りあることを除くとルーデンドルフ共和国の所有する幾つかの城を攻略して終了する運びのはずだった。
簡単に言うと将官は罠にかかったのだ。 平民出身の将官は貴族から多大な恨みを買っていた。 賄賂嫌いで有名な将官だったので袖の下を要求する貴族を捻りあげたのだろう。 後詰に抜擢されたのが貴族の私兵ということで嫌な予感はしていたが。
そして作戦当日、後詰に到着するはずの兵が到着しない。 それどころか城の警備兵がこちらが寡兵になったのを知っていたように城から出撃して反撃を開始した。
ガルは裏切りの臭いを敏感に感じ、将官に撤退を進言するよう早馬を出したお陰で全滅を免れたのだ。陣を払い遁走する将官は思い切りがよく手際が良かったのも幸いした。 なかでも将官が逃げるために自分の鎧を農民に売り、その代わりに見当違いの方向に逃げた、や皆死んだと言うようにしたり、わざとややこしい道を逃げたりと追撃手を煙に巻くような方法を駆使していたお陰で地の利が相手にあるにも関わらず甲化工兵のような鈍足の兵も逃走に成功していた。
「あのオッさんは兵を惜しむ良将だからな、最悪捨石になってもいい。」
ガルはそう言うと鎧を脱ぎ、急所を鉄板で防御した革鎧に着替える。
矢と魔法の雨を潜り抜ける攻城戦とは違い適度なところで離脱を考える殿では機動力が肝要である。
武器は攻城戦に使うウォーハンマーではなく 片側がハンマーに改造された肉厚のハルバードだった。盾は嵩張らない大きさのランタン・シールド。
「しかし、捨て身のアンタとやりあうルーデンドルフの軍はカワイソウだな。」
仲間の一人が笑って言う。 かなり手際よく逃げたが相手は潰走したとおもっているらしい。 内応が早めにバレたことすら気づいてないんだろう。
「いいさ、奴らが終わったとおもっているなら・・・。」
教育してやる、とガルは獰猛な笑みを浮かべて言った。
仲間達は最初はジョークで言っていたがガルの笑みと素振りが放つ刃風を浴びると本気でそう思うようになっていた。