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神様の御使い  作者: ファウスト
7/9

夢の後に

「殿か・・・。」


そう言ってアッシュは困ったように腕を組んだ。 甲化工兵は重装備故に敗走すると防御力の高さも相まって殿を任される。  そして普段ならば傭兵如き打ち殺されて当然だが甲化工兵になると話は変わる。

領主や国王の気分にもよるが大抵は騎士に準じた身代金をいただけるのだ。

それほど甲化工兵の戦力と能力は貴重である。


とどのつまり逃げ遅れても命に関わる事態になりにくいのである。 

それ故に手放したくない領主は子飼いの工兵なら馬車で逃がすし、いざというときに装備を捨てて逃げるように言い含めている。

傭兵の場合は生きていればなるたけ助けるし、必要ならば金で命を買う。

捕虜にした側も甲化工兵が居た場合領主の子飼いなら身代金が出るし、傭兵ならば給金と恩赦をちらつかせれば大抵こちらに寝返ってくれる。

それをうらまないのがルールだし、生き残れるだけで優秀と判断できるほど

甲化工兵の歩く戦場は凄まじいものなのである。


しかしそういった中でも必ずしも捕虜になれるとは限らない。 当然だがベテランの甲化工兵は騎乗の騎士でも手強く、下手をすると騎士を逆に人質にしてしまう者もいるほど甲化工兵は曲者なのだ。

そして戦場の宿命とも言うべきか、特定の領主に雇われ続けた為に領内の機密を守るために抹殺されるものもまた多い。


相手にとってハイリスク・ハイリターンで、現実主義的な傭兵や戦術家ならば無理して甲化工兵を捕まえようとはしない。


「殿は俺が務めないと隊が全滅する恐れがあるぞ。」


万全の状態ならばいざしらず、今は皆連日の戦闘でつかれていた。

その状態で追撃の防波堤になるには体力が足りなかった。

軽装の歩兵に追随し全滅を免れていただけでも奇跡に近いのだ。


それに、とガルは呟く。


「俺はどうも女神に見初められたらしい。」


女神に見初められる、それは兵士達の間で広がるスラング。

戦の女神ヴィクトリアは気に入った戦士を見つけると天界に引き上げる為に戦士に現世での名誉と引き換えに死を与える。

不思議な体力の回復はその前触れだろうとガルは言った。


「お前さんが・・・。」


アッシュは一瞬驚いた顔をしたが目を伏せて口をつぐんだ。 同僚の死を見た経験の多いアッシュにはガルの言葉はとても戯言とは思えなかったのだ。

死の間際命は火花のように輝く、まるですべてを燃やしきるように。


「わかった・・・、お前さんがそういうなら・・・。」


そういうとアッシュは腰に差していた短めの刀を抜くとガルに投げて渡した。


「殿は任せる、もしも女神に振られたら返しにこい。」


そう言うと顔を覆って背を向けた。 古い付き合いである彼には死地に望む彼の姿を見るのは耐えがたい事実であったろう。

皆もガルの言うところをアッシュの表情から悟ったのか皆一様に悲痛な面持ちでうつむいた。


「わざわざ俺が殿をするからには逃げ遅れるなよ?」


ガルの言葉に皆は鼻声でうなずく。 皆は今生の別れになるかもと思い思いに別れを告げる。


このような戦況に陥ったのは今から三日前のことである。


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