神の使徒になってみるか。
「俺は騎士じゃない、それで?」
「・・・私を助けていただけませんか?」
すがるような目つきで頼む女神に嘆息する。 先ほどよりかは遥かにマシだが。
しかしながらこれを足蹴にして断るほど冷血になりきれない自分がいた。
哀れなほど頼りない女神を見ていると自分の半生がよみがえってくるようだ。
しばし考えてから言った。
「いいだろう。」
そう答えた途端に女神の表情がぱあっと明るくなるのがわかった。
本当にわかりやすい奴だった。
ひとしきり感謝を受けると女神は嬉しそうに歌を歌い始める。
遠い神話の歌だろうか、聴いたことのない歌だった。
―――ああ、風よ! 冬を吹き飛ばす風よ! 大地に春を告げ 恵みをもたらし給え!
その歌に釣られるように真っ白な夢の景色がどんどんと変化していく。
地面には青々と草が生え、木々が伸び、花が緑一色の森に色を付け加えていく。
木々は実をつけ、花達は吸い込んだ空気を吐き出すのが勿体無いほど強く、そして優雅に香っている。
――おお、騎士よ! 神に仕えし騎士よ!
歌は留まることなく続き、大地の恵みを讃える歌から楽園を護る騎士を讃える
歌にシフトしていく。
その歌に篭められた喜びの熱情は騎士でない俺の体にも直接響き、その熱量からは想像も付かないような涼やかさで体から疲れや傷を吹き飛ばすような春風の心地よさを感じる。
ただただ美しかった。
まさに神の御業というにふさわしい踊りと歌にあっけに取られる。
詩人ではない俺がこの歌を形容できる日が来ることはないだろう。
ただ、美しいとしかいいようがなかった。
その女神は歌を歌い終えるとまさしく女神と呼ばれるべき美しさで微笑む。
「そういえば私は貴方の名前をしりません。」
伺ってもよろしいですか?とたずねる彼女に俺は膝を突き、頭を下げて答えた。
「女神様、私の名はガル、産まれてまもなく両親と死別した故に私の姓はありません。」
「孤児ですか・・・、それでは貴方の姓を私が与えましょう。」
貴方の姓、それは・・・
俺の夢はそこで途切れた。