夢の中でドラゴン退治
猛然と大地を揺らしながらドラゴンがこちらへやってくる。
たしかにドラゴンは攻撃力を含めかなりの脅威だが、意外なことに地上での移動速度はよろしくない。 少なくとも馬なら楽に逃げ切れるし人間でも足に自信だあれば距離を保って逃げることくらいはできる。
無論、俺は逃げるつもりはないしこの装備じゃ無理だ。
「ガァアッ!」
雄叫びを上げて前足を振り上げる、爪で攻撃に移るつもりらしいが、そこが俺のねらい目だ。 振り下ろされた爪をハンマーで思いっきり殴った。
「ギャウッ!」
ドラゴンの爪はそのまま武器に加工できるほど硬いがその分だけ衝撃が加わると痛むらしく大型のハンマーなら筋力が伴えば攻撃を弾き返すことができる。
大したダメージにならないと思うかもしれないがコレが意外と痛い。
爪にデコピンするだけでも結構痛いのに金属製の尖ったハンマーではなおさらだ。
「クゥ・・・ルルル・・・。」
今の一撃でドラゴンはだいぶ怯んでいるようだが、まさかまだ子供なのか?
ドラゴンの中ではサイズは中型のクラス、体高が4から5メートルくらいだがどうにも獲物に対する経験が浅いらしい。 特に俺みたいな反撃してくる敵と戦うのは初めてかもしれない。
「ウオオッ!」
試しに大声を出してみる。 するとドラゴンビクッとして怯えたように地面に伏せてしまった。 疑惑は確信になった、コイツは子供だ、しかもよちよち歩きといって差し支えないレベルの経験しかもっていない。
「・・・俺が悪かった、もう痛めつけたりしない。」
「クルル・・・」
頭を撫で、爪のひびに傷薬を塗ってやると敵意を完全になくしたのか鼻先を体にこすり付けてきた。 敵意が無いことを知らせるコミュニケーションである。
ドラゴンは知能が高いが人間に慣れていれば街角の一角で居眠りするほど暢気なやつもいる。 天敵の居ないドラゴンは警戒心が薄いせいもあるが基本温和で野良でも食料や光物を献上すると巣を通り抜ける許可をくれるくらいだ。
このドラゴンは誰かにけしかけられたと見て間違いない。
「まさかドラ助・・・ドラゴンを退けるとは・・・。」
また女の声だ、ってかドラ助? ペットか?
ドラゴンの頭を撫でながら考えているとふと気づいた。
ドラゴンの足跡が途中で不自然に途絶えている。 足の前半分だけの足跡とは不自然極まりない。
もしかしして其処になにかあるのかもしれない。
装備からこそこそとあるものを用意する。 それは魔物除けの臭い袋。
激烈な悪臭でモンスターはおろか人間するら遁走するほどの便利グッズ。
鼻のいい獣人なら一吸いで失神させる威力を持つ。
その昔賢人が戦争を中断させる為に臭い袋を戦場に撒き散らし、本当に戦争を中断させてしまったという伝説の兵器でもある。
「コレをお見舞いしてやる・・・。」
臭い袋は二つの薬草と水を入れて混ぜると効力を発揮する。 臭い出すまでのタイムラグは10秒、直接嗅ぐと人間でも鼻に激痛が走る。
良く混ぜ合わせて・・・と、くらいやがれ!
袋の口を軽く縛って不思議な壁に目掛けて放り投げる。
すると壁に吸い込まれるように袋は消えた。 どうやら壁は幻術かなにからしい。 そしてパチャっと地獄の釜の蓋が開く音が聞こえる。 臭い袋が発生したガスで破裂した音だ。
「キャァァァ! なにこれ! 臭い! 鼻がぁぁぁぁ!」
案の定壁の向こうから女性の悲鳴が聞こえる。 先ほどの壁から白いキトンを纏った新緑の髪を持つ麗しい女性が転がり出てきた。
臭い袋に刺激物を加えた特性臭い袋を喰らったのだ。 鼻も目も無事ではない。
涙と鼻水とよだれで美人が台無しなんてレベルじゃない状態になっている。
「うぇええん・・・。」
さすがに哀れになってきたのでなけなしの酒を頭からかける。
酒のアルコールが薬草の反応を止め、臭いを悪臭から甘い花の香りにしてくれる。 臭い袋は昔カクテルを作ろうとした際にできた失敗作だったのだ。
ハンカチも貸してやりたかったがあいにくと綺麗なのがない。
勿体無いが止血用の布で顔を拭くように言ってやる。
「うぅ・・・すびばせん。」
「気にしないでくれ、それとそれは返さなくてくれていい。」
拭いたあとに丁寧に鼻までかみやがった。 まあ、使い捨ての布だが。