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カバレロドラド、一世一代の不覚

 苻堅(ふ けん)、中国・五胡十六国時代の前秦の第3代皇帝。383年に淝水(ひすい)の戦いで東晋軍に惨敗した。2年後、予後不良。

 俺がもし仮にあのレースの後、予後不良になっていたら、俺は「馬版苻堅」と呼ばれていただろう。よりによって、あのレースの再現が今年の初夢かよ? 縁起でもねぇな。

 そう、今は新年を迎えたばかりの真冬。見学客はほとんど来ない。この時期の北海道日高に来る旅人は、暖かい季節と比べると稀だ。去年来たあの知人も、今のご時世ならば、そう簡単にはここには来られないはずだ。ましてや、俺の現役競走馬時代の担当厩務員であり、恩人であるあの人も。

 春になれば種付けの時期だ。それまでは英気を養うべし。


 G1レース6勝の偉業よりも、あのレースの大失態の方がよっぽど語り草に、というかお笑い草になる。それがこの俺、カバレロドラドという馬だ。何をやっても「まぁ、ドラドだし」の一言で片付けられる、名馬にして迷馬というのが、世間における俺の評価だ。

 あのレースの前、俺は舞い上がっていた。

 前人未到、いや、前馬未到の記録に挑戦。これで俺は伝説の馬になる。競馬界関係者たちが俺に注目していた。

 それがどうだろう? 隣のゲートに入っていた後輩馬がガチャガチャ雑音を鳴らしていた。何だ、てめぇ! 俺様を何だと思ってるんだ!


 頭の中が真っ白になった瞬間が、長く感じられた。


 俺は後輩馬に対してブチ切れて、ゲートで立ち上がった。その数秒のロスによって、120億円ほどの馬券が一瞬でただの紙くずと化した。俺は慌ててヤケクソで駆け出したが、かろうじて一頭を追い抜き、ビリにはならなかった。

 俺は悪い意味で伝説の馬になってしまった。仮にこれで、その後のレースで予後不良になっていたら、俺は馬版苻堅になっていたのだ。幸い、最後のレースも無事に走り抜き、今、ここで種牡馬として大切にされている。無事是名馬。

 去年はG1を勝った娘がいるが、俺はここで宣言する。

 大予言! 俺の血を引く奴がダービー馬になる!

 あ、具体的な世代は言わんぞ。当然、どの肌馬(おんな)の血を引くかも指定しようがない。予言とはそういうものだからな。ハハハハ…。

 さて、また一眠りしよう。悪夢を描き変えたい。何の夢を見たいか? 恩人の厩務員さんと遊ぶ夢? かわいい肌ちゃんに種付けをしている夢? いや、夢の世界なら何でもありだ。若い頃に戻って、日本ダービーで優勝するのだ。


 まあ、それが一番の心残りだったんだな。

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