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Femme Fatale

「忠興シリーズ」第三弾です。実は最初の話の忠興公は本人ではなかったのですね(笑)。

 ボーイズラブや百合といった同性愛モチーフのフィクションがもてはやされ、さらには現実世界での性的マイノリティの地位向上が課題になっている今だからこそ、異性愛というものについて真剣に考える必要があると思います。水と異性をタダだと思うな。

 俺は、夢の中で細川忠興になっていた。雲一つない青空の下、俺は九曜紋の直垂ひたたれを風になびかせて、一人菜の花畑を歩いていた。

 多分、ここはあの世だ。

 忠興である俺はたま、すなわち忠興の正妻で、明智光秀の娘であるガラシャの事ばかりを考えながら、一人で歩いていた。途中で誰かとすれ違っていたような気がするが、俺はそいつらの事など気にしなかった。


 俺はなぜか、ラファエル前派のダンテ・ゲイブリエル・ロセッティを思い出した。

 不実な才子、ロセッティ。奴には二人の「ファム・ファタール(宿命の女)」がいた。一人は、「友人」ウィリアム・モリスの妻ジェーン。もう一人はロセッティ自身の妻リジーだった。

 ロセッティはジェーンに対する道ならぬ思いゆえに、リジーを失意のどん底に突き落とし、自殺同然に死なせてしまった。そんな奴の後悔の念が生み出した傑作が『ベアタ・ベアトリクス』だ。


 男が女を求めるのが「地獄」につながる。女は、男の脳髄の奥深くに眠る「地獄」を引き出して、男に見せる。


 キリスト教的な価値観からすれば、確かにガラシャは「聖女」なのだろう。しかし、当人の旦那である忠興にとっては「ファム・ファタール」ではなかったのか?

 そう、いわゆる「悪女」だけが「ファム・ファタール」ではない。男が女を求める限り、そして男が女を憎む限り、女は男に対して「ファム・ファタール」であり得る。男にとって女は恐るべき「迷宮」だ。途方もない底なし沼、男が見たくないものを否応なく見せる「深淵」。

 女は男にとって、女神にも悪魔にもなり得る。だからこそ、男は女に惹かれつつも憎むのだ。それが異性愛の男の…あるいは男の異性愛の「業」だ。



「ああ、何だ。夢じゃん…」

 俺は目を覚ました。ここにいるのはあくまでも俺だ。細川忠興でもなければ、荘子でも蝶でもない。

 しかし、夢の世界から現世へと意識が切り替わる、曖昧な時間。その間は自分自身が何者かよく分からない。

「意識と無意識の混ぜ合わせ」

 夢の中で細川忠興になっていた俺が追い求めていたガラシャは、現世では誰なのだろうか?

 遠い昔の片思いの相手か? それとも、これから出会うかもしれない見知らぬ誰かだろうか?


 最近、ある男性作家が妻への暴力事件で逮捕されたけども、俺はそいつに忠興の小説を書いてもらいたい。何しろ腕の良い小説家だ。つぶすのは(つぶされるのは)惜しい。俺はそいつが書く物語を読みたいのだ。

 男と女の「地獄」の物語を。

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