御身の仰せのままに
「すまない」
「いえ。この命は、御身に捧げたもの。それが最善であるとするならば、仕方の無いことでしょう。願わくば、これが終止符とならんことを」
「……っ。必ずや決着をつける。お前は安心して逝け」
「了解しました。これより作戦行動に入ります」
戦とは、常に犠牲を強いられるものである。犠牲は尊い。だが本人からすれば無意味だ。
ここにも、自らの仕える”姫”のため。そして人類のため。平和への道標として……犠牲になる一人の男がいた。
◆◆◆
俺に与えられた任務は、ヤツの心臓部の破壊であった。手段問わず、生命活動の停止が最優先事項。自らの命を賭して実行せよ。と。
”姫”はこの命令を出す為に前線にいた俺を、わざわざ司令部まで呼び戻した。命を落とす事が決まっている作戦の発令は中央司令室、顔をみて口頭で行う。それが彼女なりのけじめなのだろう。
ノックはきっちり三回。
「平川であります」
「入れ」
「失礼します」
簡易作戦室とはいえ、総司令部だ。中はそれなりに頑丈なつくりのようだった。外観と室内の広さを鑑みるに、ヤツらの攻撃でも破壊は容易でないことは推測できた。
しかし、俺の感情は総司令、つまり”姫”をみてからは驚きと戸惑いに支配された。
いつも無表情。
若干16歳の才媛、加えて類稀なる美貌の持ち主。
才媛の名は伊達ではない。むしろ、それ以上ともいえるだろう。その高度な演算は、彼女の周辺に起こる事象全てを予期できる程であった。つまり、どんな事も彼女の想定の範囲内なのだ。目の前に皿が落ちてこようが、無反応を貫くことができる。それ故に総司令の座に就いているといっても過言では無かった。しかし、その美貌が忠誠心を高めていたのもまた事実。俺たち男は単純なのさ。
そんな彼女が、だ。泣いていた。きっと堪えているつもりなのだろう。いつも以上にきゅっと結ばれた口が、彼女の意思を表していた。それはもう唖然とした。だが、それを指摘する俺では無い。何せ紳士だからな、はっはっは。
「平川少佐。……(ry。以上が作戦内容だ」
長い。そして複雑だ。
だが、人類の脅威とも言えるヤツに止めを刺そうとしているのであるから当然なのだが。
……命令を簡略化すると、ヤツを殺せ。死んでも殺せ。といったところか。
口を開いた彼女の声は震えていて、目じりからは涙が溢れていた。
それでも。それでも彼女は言葉を詰まらせること無く、言い切った。本当に強い人だ。
……でも、こうして泣く顔は年相応の少女のようで。
なんだか可愛いな。
命令を聞いた俺の返事も、勿論決まっているわけで
「拝命いたします」
俺が聞く最期の命令はなんだか驚きに満ちたものだった。
勿論内容が、ではなく、彼女が、であるが。
一方の死ねと言われた俺はといえば、そりゃあ平然としていたことだろう。
17歳にしては考えられないほどの死線をくぐってきたと言える俺にとって、死は身近な存在であった。
そりゃあ死にたくは無い。でも、”姫”に頭を下げられたら、断れないよなぁ。
その後、何か言葉を交わした気がするが、何せ相手は泣いている少女だ。いたたまれなくなった俺は、ご尊顔を存分に堪能した後、立ち去った。
ドアを閉めた後、無駄に優れた聴覚が嗚咽を捉えた気がする。だが、まぁ気のせいだろう。
そういうことに、しておこう。
結果として、作戦は成功。
ヤツの心臓部を貫手てつかみ出したからな。そして俺共々数百のレーザーに焼きつくされた。
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