無職と出会い2
「あのぅ…注文し過ぎでは…?」
マックに着いた途端俺の腕を引っ掴み、ダッシュでカウンターへ、そしてメニューを穴が空きそうなほど凝視。
俺の財布の事情も考えず計3品セットメニューを注文しやがった。
「1つは家に持って帰る分だよ。妹が待ってんだ。こいつが可愛いやつでさぁ…!」
「待て。いや、待ってください。なんで俺が妹さんの食事代まで払わないといけないんですか!?」
「1人だけ飯抜きじゃ可哀想だろ。それに手ぇ痛かったしな〜」
手をひらひらさせながら言い放つアマ。
「俺だって痛かったわ!そして微妙に話噛み合ってねぇ!」
突然敬語を辞めた俺におっかなびっくりの女はまぁまぁと俺をなだめつつコーヒーを注文した。
「これでも飲んで落ち着きな。」
「それも俺の金じゃねぇか…(泣)」
もうどうだっていいわ…(泣)
そして俺たちは注文した品を持って1番手近な席につく。
「名前すら知らない奴に飯奢らすとか、カツアゲ同然じゃね?」
「人聞きの悪いことを言うな。元はと言えばお前が私の手を踏みつけてきたのが悪いんだぞ!」
「あれは事故だ事故。ちゃんと謝っただろ。
本当に悪かったとは思ってるよ。」
「うん。飯奢って貰ったし、許す。まぁ私も本気でぶん殴って悪かったな。」
お互い謝罪を終え飯を食い始める。
俺の飯はぬるくなったコーヒーと分けて貰ったポテトだけだが…。
「私は冨樫日和ってんだ。よろしくな。座右の銘は一期一会だ(笑)」
「あんまりいい座右の銘じゃないな。俺は佐藤凛。多分、今後関わることないけどよろしく。」
「随分冷たい自己紹介だな。これも何かの縁だ、楽しくやろうぜ。凛(笑)」
冷ややかな目で冨樫を見る。艶やかな黒髪を肩まで伸ばして白い肌がより互いの色を際立たせていた。くりくりの眼に高い鼻。乱暴な言葉遣いがかなり勿体無く思える程なかなかの美少女だった。
「なんだ?もっと奢らして欲しいのか?コンビニ行くか?」
「行かねぇよ!どんだけ食う気だ!」
「冗談だよ(笑)妹待ってるって言っただろ。」
時計を見ると時刻は7時半。
「お腹空かせてんじゃないか?駄弁ってていいのか?」
「まぁ大丈夫だろ。今日あいつ多分、バイトだし8時ぐらいまでなら。」
「バイトしてんのか。今妹さん何歳?」
「18。もうすぐ大学生だな。」
「は!?」
18歳大学生の妹。つまり、冨樫は18歳以上。
全く見えない。中学生か良くて高校生ぐらいだと見積もっていたのだが…。
「冨樫…お前今何才?…。」
「女性に年齢聞くなよ。失礼だな。21だ。」
空いた口が塞がらない。
俺は高卒で会社に就職したので現在20。つまり目の前のちびっ子は俺より歳上。驚きはしたものの内心安心した。
良かった…。女子中学生にボコられてたら、俺一生立ち直れなかった…。
「悪い。冨樫のこと中学生か高校生ぐらいだと思ってたわ。」
「もう1回地面這わせてやろうか?」
ギロリと睨まれ黙り込む俺。
「私身長低いからなぁ…21で150って泣くわー。」
「身長と言うか。童顔だろ。若く見えるんだから、いいんじゃね?」
「中学生って若すぎだろ…。」
そんな世間話を適当にしつつ、時間を確認すると時刻は8時半になっていた。
「そろそろ帰るわ。8時回ってる。」
「俺車だから送るわ。夜道危ないし。」
「私お前より強いぞ(笑)大丈夫だって。」
「長話付き合わせたお礼だ。乗ってけよ。」
「じゃあ、ありがく乗せてもらうな。」
そんなこんなで車を走らせ自宅付近まで送った。最初は不審者と恐喝犯の悪いところを併せ持つ嫌な奴だと思ってたが、話して見るとなかなか気のいい奴であまり嫌悪感は残っていなかった。
最後に彼女が言ったことが妙に頭に残っている。なんでもない普通の言葉。
「凛。もしどっかで見かけたら声かけろよ!またな!」
何かが胸を締め付けた気がした…。
多分気のせい。