追憶 世界を呪うまでのプロセス②
ウォルストの家は、トラルティアの外れにある郊外にあった。
「予選敗退・・・何を考えているのあなたは!」
ウォルストの母親は、彼を怒鳴りつけた。
考えているも何も無い。
相手が強すぎた。ただそれだけ。
「・・・・・・」
「何を黙っているの!」
黙っているのではない。返す言葉がないのだ。
パーン!
母親の平手打ちが、家中に響いた。
「学校でも満点がとれず、騎士学校を主席で卒業できず、青銅騎士にもなかなか昇格できず・・・見なさい!あなたを負かした、エミアという騎士を!あの歳で白銀騎士じゃないの!」
無理を言えという話だ。
満点をとらずとも、トップにいればいいだろうと普通は思う。
騎士学校を卒業し、任官すれば、それだけでエリートである。
確かにエミアは、その常識を越えたエリートではあるが、それでも努力は怠っていない。
だが、この母親のような親はそれを知らない。否、認めない。
「いつもいつも黙って!いいかげんにしなさい!」
怒りと嫉妬、憎悪に任せてウォルストを折檻する母親には気づいていない・・・彼のやり場の無い怒りが渦巻いていくのを・・・
「そうしていつまで黙りこくっているの!えっ!」
気づくと、母親の右腕が斬り飛ばされていた。
ウォルストの右の手刀が、鮮血を滴らせていた。
「母上・・・私は、あなたの理想には沿うことはできない。」
「な・・・何を・・・」
ようやく、母親は気づいた。息子が、悪魔として覚醒したことを・・・
次の瞬間、母親は、左腕、両脚を切断されていた。
「私はあなたを、愛情をかけて育ててきたのに・・・」
「残念だ。私には『それ』は伝わってこなかった。」
ウォルストは、無表情で印を結ぶ。
彼の右手に、火球が生じる。
思念詠唱。無詠唱とも呼ばれる技術である。
その日・・・
四つあった、ティアムル分家の『本山』の一つが、消滅した・・・