第一章 第二話 勇者の伝説
暗い森を抜けてしばらくすると、巨大な樹木が見えてきた。
その麓こそが、世界樹の里である。
「ねえ。なんで世界樹の里なんかに用があるの?」
セリナが尋ねた。
「最古のエルフの集落の一つだと、母上が言っていたのを思い出した。
中でも・・・」
レイストは、妙な記憶を頭から引っ張り出すような表情を浮かべる。
「女王という人は、トラルティア建国期から生きているんだそうだ。」
「・・・・・・」
セリナは、絶句した。
それはそうだ。
エリティアの武勇伝は、夫であるグレイスのそれと共に伝わっている。
セリナのような獣人にすら伝わっているほどに・・・
「あのエルフ年齢が精神年齢の、母上が、妖怪でも思い出すかのように言っていた記憶がある。
よっぽどコワイ目にあわされていたんだろう・・・」
母譲りの金髪を、ぼりぼりと掻き毟りつつ、レイストは、ためいきをついた。
「これ、なんだろう・・・」
セリナが、一箇所だけ空間が歪んだ場所を見つけた。
「ゲートだな・・・」
レイストは、手を触れてみる。
「結界のほころびだ。これのために、誰も入れない。」
「う~・・・なんて頑固な連中・・・」
レイストをここまで連れてきたといっても、セリナは迷わずにここに来れたのは、人狼という種族がエルフほどでないとはいえ、森に強い種族だからである。
「道を示せ・・・コンパスよ!」
コンパスが光り、空間の歪みが消える。
そこには、生垣が左右に連なる道があらわれた。
「!!」
唐突に、矢が降り注ぐ。
レイストとセリナは、それを察知して左右に飛び、着地する。
「な・・・何するのよ!」
いつのまにか、そこには、弓を持ったエルフの女弓兵がいた。
女弓兵は、軽く会釈をすると、こう告げた。
「トラルティアの騎士レイスト様ならびにセリナ様。女王がお待ちです。
どうぞこちらへ・・・」
女王の城は、巨大な樹木の幹に設置された、これまた巨大なログハウスのような建造物だった。
女王は、見た目四十代の女性に見えた。
「さて・・・あなたの用件はわかっています。
かつて、世界を闇で覆った魔王デラルが復活し、再び世界に侵攻を始めようとしています。
とはいえ、あなたの先祖も無益な殺生をしたものです・・・
人間とは、ここまで主張や何やらで殺し合いができるものなのでしょうか・・・」
レイストの先祖・ティアムルのことだろうか・・・
レイストは、女王を直視できなかった。
ティアムルは、西トラルティール兵をその一撃で三個小隊をバラバラにしたと伝えられている。
自国の英雄とは、敵国には鬼と認識されるもの・・・
「とはいえ、あなたの先祖と私はいわば盟友・・・
デラルとの戦いの顛末・・・
あなたに見せましょう・・・」
レイストたちの周囲の景色が変わる・・・
空は闇・・・
人間の兵が、魔物に斬りかかり、
エルフの魔導師が、魔法を放ち、
獣人の格闘士が、魔物を打ち砕いていた。
だが、兵たちの物言わぬ死体が山積みになっていた・・・
ずたずたになっているだけなら、まだいい。
首がないものや、両腕がないもの、両脚がないものさえある。
いずれも、血で染まっている・・・