第一章
トラルティア王国・・・
世界の北東部のトラルティール大陸の東半分を支配する国家である。
かつてトラルティールは、民を優先し資本主義と民主主義を主張した当時の王太子トラルティアの領土であったトラルティアと、保守主義と共産主義を主張した弟ウズドガルドの領土であったウズドガルドに分裂した。ちょうど東西に分かれた形になる。
トラルティア王国は、王が決定権を持つが、議員を民が選挙で選出し、その中から宰相が選出されるという形をとっている。
また、封鎖的なウズドガルドとは正反対にトラルティアは、様々な種族が行き交っており、活気に満ちている。
基本的に封建社会であるものの、底辺の階層の者でさえ一代で貴族になってしまう者もいる。
そんなトラルティアでは、十六年前に当時白銀騎士の階級にあったグレイス・ティアムル(グレイスとは雫の意味)が、大陸を荒らしていた魔獣ガルナードを倒し、勇者と称された。
彼は、この時連れていたエルフの魔導師の少女エリティアを妻に迎え、男児を授かった。
現在、グレイスは騎士団長、エリティアは王立魔法学校校長兼王室錬金術師に就任している。
さて、騎士の基準であるが、王立騎士学校を一定の基準で卒業しなければならない。
とはいえ、貴族だからといって騎士になれる者ばかりではない。
逆に、民間人であっても王家に対する忠義と実力が伴っていれば、騎士になれるということ。
そして、めでたく騎士になったら貴族出であろうと、民間出であろうとまず最下級の鋼鉄騎士とされる。
試験や実績によって、青銅騎士→白銀騎士→黄金騎士→神聖騎士→騎士団長となる。
また、ティアムル家は初代騎士団長ティアムルを祖とする名門貴族であり、優秀な騎士や偉人を輩出する家系としても知られている。
故、二人の息子レイストは周囲から甘やかされるどころか、逆にやっかまれていた。
学校でも『勇者の子』『魔法学校校長の子』果てには、気味の悪いハーフエルフとまで言われる始末。
初代王がいくら努力しようが、払拭しきれなかった差別に翻弄されていたのだ。
そんな周囲を見返そうと彼は騎士学校に進学したばかりか、母から魔法を教わり一流の魔法騎士となった。
レイストが鋼鉄騎士に就任してから暫くして、彼は国王エスト・トラルティアに呼び出された。
国王エストは外見上、人の良さそうな中年男性に見える。
ところが、それはフェイクであり、超優秀な軍人であり政治家であることは臣民の誰もが熟知しているところである。
「レイスト・ティアムルよ。余はそなたに頼みがあるのだ。」
何だろう?と頭をひねりつつ、こう返すのがやっとだった。
「いったい、どういうご用件でしょうか?」
国王ほどの者が、鋼鉄騎士風情に・・・
「エリティアが、『世界を蝕む闇が、現れる。』と予言した。信じたくはないが彼女は、グレイスと共にガルナードを倒した魔導師・・・一笑に伏す訳にもいかん。そこで、そなたに世界を廻り、調査をしてもらいたい。
そして、『闇』とやらが、本当に世界を蝕む存在ならば、打ち倒してまいれ!」
そういうことか・・・
つまり、滅多な者も送れない。
されど、軍も送れないし、温存しておく必要もある。
「ははっ!」
その翌日、レイストは、王都トラルティアを発った。