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「湖の精霊-眠り-」

「町の人間が増えてきたな。」

 ボートを精霊のいる岩にくくり付けながら、カイトは湖畔を見てそう言った。

「山の方でも作業が始まった様だな。」

 そして今度は山に視線を送る。

「霧が少し晴れてきてるよね。」

 昨日ここに来たときには、湖畔も山も見えなかった。

 今日はうっすらだけど見える。

「けれど、精霊の気は確実に消えようとしている。」

 ボートを固定し終わったカイトが私を見つめそう言った。

 私は頷く。

「そうね。」

 そう言って精霊に気持ちを向け始めた私の手をカイトはそっと掴み自分に引き寄せた。


 薄れていく意識の中、自分が暖かい物に包まれて行くのを感じた。


 私、カイトの胸の中なんだ。


 そうゆっくりと思いながら、私は意識が遠のいて行くのを感じた。








「ありがとう。」

 その声で私はゆっくり目を開ける。

 視界いっぱいの青い光。

 けれど、それは昨日よりも薄れて見えた。

「町の人々と城の人間が力を合わせてくれているのが見える。

 町の人間は、あんなに城の人間を憎んでいたのに・・・・・・」

 静かだけれど、嬉しそうな声。

「そうよ、みんなが力を合わせてこの湖を元の状態に戻そうとしている。

 王様だって、税の見直しをしてくれた。

 そのうちこの湖の毒も少しずつ薄まるのよ。」

 私は精霊に向かってそう言った。

「だから何も心配しないで。

 貴方が眠りから覚めた時には全て元通りのはず。」

 だから、何も怖がらずに。


「あり、がとう。」


「・・・・・・うん。」


「‥‥‥これ、が、眠り、なのかしら。


 意識が、少しずつ、薄れて、行く・・・・・・」


「きっとそうよ。


 さぁ、心を静めて。」


「え、え・・・・・・」


「おやすみなさい。」


「――――――」









 月明かりの指す部屋の中。

 ぼんやり天井のヒビを見つめる。

 またカイトが運んでくれたんだ。

 ボーっとする頭でぼんやりと状況を確認する。


 ・・・・・・喉が渇いた。


 私は窓際の机の上に置かれた水を確認すると、ゆっくりと体を起こした。

 そしてゆっくりと立ち上がった。

 瞬間、私は足に力が入らずよろけて転んでしまった。

 ガタッと夜の静かな部屋に思いの他大きな音を立ててしまう。

 その瞬間、隣の部屋からこちらへとバタバタと近づく足音が聞こえた。そして私の部屋の扉が叩かれた。


「シータ?」

 重なり合う様に聞こえたファスト兄様とカイトの声。


 そして、私が返事をする前に扉は開かれた。


 そして、床に座り込む私を見つけて驚く二人。

 そして、先に一歩を踏み出したカイトの腕をファスト兄様が掴み動きを止めると私に駆け寄ってきた。


「どうしたんだ?」

 心配そうな瞳が私を見つめた。

「お水が飲みたくて・・・・・・」

 私は窓際のお水に視線を送る。

 それを見たカイトが窓辺まで行き水を手に私に近寄る。

 私はファスト兄様に抱きかかえられて再びベッドへ。

 そんな私に、兄様とベッドを挟んで反対側に来ていたカイトが私に水を手渡してくれた。

「おなか空いてる?」

 カイトの言葉に、全く感じない食欲を伝える為私は首を振る。

 そんな私を見て、カイトはゆっくり頷いた。

「じゃぁもう少しお休み。」

 私はその言葉を聞き、再び横になった。


「大丈夫なのか?」

 心配そうな兄様の声。

「大丈夫だ。精霊との話はとても体力も使う様で、前回もこんな感じだった。

 次の日にはケロッとしてるはず。」

 私はカイトの声を聞きながら再び深い眠りに付いた。







 次の日の朝、私はいつもより早めに目が覚めた。

 気持ちのいい朝。

 私は昨日お風呂に入れなかった事を思い出した。

 お風呂に入りたいな。

 私はベッドから起き上がりながらそう思った。


 ・・・・・・けれど、カイトは私が一人で行動する事を禁じていた。それは、宿屋に入ってからも同じだと念を押されている。

 窓べまで歩く。

 まだ日が昇り始めたばかり。

 兄様もカイトもまだ寝ているはず。


 そう思い直ぐに入りたいお風呂への気持ちを断ち切ろうとした時、とても小さく扉が叩かれた。

「はい。」

 相手を確認しなくちゃ扉は開けてはいけない。これもカイトの決めたルール。

「シータ?」

 ファスト兄様の声に、私はびっくりして扉を開けた。

「おはよう。」

 私の挨拶の声に、兄様は直ぐに返事を返さず、ジッと私を見つめた。

「おはよう。」

 暫くして兄様はホッと息と吐いて私に挨拶をした。

「顔色もいいな。

 体調はどうだ?」

 兄様の質問に私は大丈夫と答えた。

 それよりも、お風呂に入りたい。

 私の答えに、兄様は優しく微笑んでくれた。









 お風呂から上がったら、部屋でカイトが荷物をまとめて待っていた。

「体調はどうだ?」

 兄様と同じ質問に今度は“おなかがすいた”と答え、私達は食堂に向かった。

 食堂で私は今日この町を出発して更に北を目指す事を聞いた。

 ファスト兄様に何度も聞かれる体調に、私は同じ数だけ大丈夫だよと答え、カイトは同じ数だけため息を付いた。



 そして3人になった旅は始まった。

三人の旅。

そんなに甘くない現実の中でも、気持ちは育つのです。

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