「 兄 の 心 」
王宮の門。
私達は伝令の兵から王の了解の連絡を受け、急いで使えそうな道具や火薬を門の外へ運ぶ様に兵に命令を下した。
そして私達は門でファスト兄様を待った。
カイトはどんどん集まる兵に色々指示を下す。
シュウは兄様の持ってきた本を一生懸命読む。
そして私はただファスト兄様が城の入り口から姿を現すのを待っていた。
「あ、来た。」
城の入り口の兵が、敬礼をして、入り口が大きく開き、そこから体格の良い立派な服をまとった男性と、その隣に並んで歩くファスト兄様の姿を見た。
きっとあの人が王様。
「カイト、シュウ。」
私が声を掛けると、二人は直ぐに私の所まで来て並んだ。
そして、だんだんと近づいて来た王様を私はジッと見た。
ゆったりとしたマントを肩に掛け、堂々と歩いてくる王様。
年は50位かな。
税金云々の話や、湖の解毒をさせなかったりという話を聞いていたから、漠然と悪いイメージだったけれど、見る感じそんな雰囲気は感じられなかった。
私は大分近づいた王様に挨拶をしようと、スカートの裾を軽く持ち上げ、それと同時に軽く膝を曲げようとした。
その瞬間、足に感じた“流れる空気”の感触にビクッとした。
そしてそこで私は自分の服装の軽さに気が付いた。
旅に出てから来ている普通の町の人間の服。
豪華な旅をすれば襲われるからと言われ、私はずっとこんな感じの服を着ている。
それはとても動きやすいし、とても気安くて私はとても気に入って着ていた。
けれど、これからよその王と会おうとしている、今、それがとても恥ずかしく感じた。
思わず掴んでいたスカートから手を離し、棒立ちとなった。
「・・・・・・気が利かなかった。すまない。」
隣でカイトが小さい声で呟いた。
「先に馬車で待っていてかまわないよ。
後の事は大丈夫だから。」
私の様子に気が付いたんだ。
カイトが悪いんじゃないのに。
これは私が選んだ道なのだから。
そう思ったら、なんだか一気に吹っ切れた。
「ありがとう。大丈夫よ。
これは私が選んだ道なんだから。」
それを聞いたカイトは眩しい物でも見るように私を見つめた。
「シータはどんな格好をしていても綺麗だよ。」
慰めだとすぐにわかるその言葉。
けれど、その言葉は私の心を心地よくくすぐった。
「はじめまして、クル王国第一皇女シータと申します。」
私の目の前で歩みを止めた王に私は堂々と挨拶をした。
そんな私の様子をジッと見つめた王は、小さくため息を付いた。
「わたしがこのグラド国、国王、フーケだ。
この度は、わが国の問題に巻き込んで申し訳ないと思っている。」
頭を下げて、そう言った王様の態度に、私はとても誠意を感じた。
カイトに視線を送ると、カイトも小さく頷いた。
そんな私達の様子を見て、フーケ王はカイトに視線を移した。
「そなたがカイトか?」
隣でカイトが挨拶を交わす。
「すまない……頼む。」
王様の言葉に、カイトは力強く頷いてみせる。
次にフーケ王はシュウに視線を送る。
「お前の言葉をもう少し意地を張らずに聞いていれば良かったのだな。
・・・・・・湖の解毒の作業の全権限をそなたに託す。
どうかこの国が沈まぬよう、力を尽くして欲しい。」
全てが動き出した。
私達は王に見送られ、湖に向かって出発した。
馬車に乗ると、まず、兄様が王様との話し合いの結果を報告した。
「王は解毒作業の了解と、その為の備品、人員の派遣を直ぐに約束した。
税に関しては、どうしても国庫が瀕迫している為ゼロには出来ないものの、当面の間は増税する前に戻すそうだ。
湖が回復したら上げると言っていたが、町の様子を見ながら、無理が掛かり過ぎない様に気を配ると約束した。
今のグラド王国の状況を見れば、これ以上の条件はないだろう。
王は今回の精霊の話できっかけが出来てよかったと言っていた。
頭に血が上って解毒作業を禁止した物の、余りに急激な状況の下降に焦り始めていたらしい。」
その言葉に、シュウが小さく鼻をすするおとがした。
「早く国が落ち着くといいな。」
ファスト兄様の言葉に、シュウはありがとうございますと頭を下げた。
「ファスト様、ご迷惑をお掛けしている中申し訳ないのですが、解毒作業の総指揮をお願いいたしてもいいでしょうか。」
シュウの申し出に、ファスト兄様は快く了解した。
「準備できた道具や人員に対して聞きたい。」
兄様の言葉に、今度はカイトとシュウが答える。
そうしてその話を聞き終わるとファスト兄様は山での作業経験がある兵を探させ、馬車によんで、その兵に山での作業の方法や注意点等を細かく聞いた。
そして次に各隊の隊長を呼びそれぞれに役割を伝えた。
そして湖に付く前には全ての手筈が整っていた。
ひと段落付いて、兄様をフーッと深い息を付き、そして私の方へ視線を送った。
さっきまでの真剣な、少し厳しくも見える表情が消えていた。
それは私へ想いの温かさを感じられる、切ないほど甘い光を宿した物だった。
私はそんな兄様に思わず見とれる。
・・・・・・私が好きになった人。
・・・・・・もう二度と会えないと諦めた人。
・・・・・・けれどそんな私の元を追ってきてくれた人。
私は溢れそうな幸せを感じた。
再開してから、めまぐるしく過ぎた時間でこの時私は始めて兄様との再会への幸せを心で深く感じる事が出来た。
「怪我や病気はしなかったか?」
兄様の問いかけに、私はしっかりと頷いて見せた。
「大丈夫。私は元気よ。」
兄様は?
そう聞こうと思った瞬間、私はある事を思い出した。
それは兄様に出会えた余りの幸せに、忘れていたとてもとても大切な事だった。
「兄様は・・・・・・城を出てきたの?」
思わず声が震える。
もしかして、直ぐに戻るの?
それとも、私みたいに置手紙を置いて出てきてしまったの?
そんな私の肩を兄様はそっと抱き寄せた。
「心配しないで。
国にはまだ王がいる。
それにジノとジルも。
父上と母上にはきちんと話をして納得して貰ったよ。
世界が無くなったら元も子も無いんだからね。
・・・・・・なにより俺にはお前が必要なんだ。」
ジッと見つめる瞳。
時期王様なのに。
一瞬そう思った。
けれど、それすらも口に出せないほど兄様の視線は真っ直ぐで、揺るぎ無い意思を感じた。
大好きだ、と、語りかける兄様の視線の先で私は幸せで胸がいっぱいになった。
「クル王国の第一皇子と第一皇女が婚約したという噂は本当だったのですね。」
そんな私たちの目の前で、発したシュウの言葉に、一瞬で空気が変わる。
私はびっくりしてシュウを見る。
だって、正式発表はしてないはず。
そんな驚く私の前で、シュウは笑顔を見せた。
「国の国益に直結する皇子、皇女の結婚を身内でしてしまうなんて、ありえないとうちの王は言って信じていませんでした。
勿論私もです。」
「うちの王と女王とその皇子は、かわいい皇女をよその国に嫁がせたく無いと思う程に、その娘に首っ丈だったんですよ。」
その言葉に、私は恥ずかしくなって思わず俯いた。
「そのようですね。本当に素晴らしい皇女様です。」
シュウの楽しそうな声。
ファストも軽く笑い声を立てる。
私はカイトの様子が気になり、少し盗み見る様にカイトを見た。
カイトは何の表情も浮かべずに、窓からの景色をジッと見ていた。
つられて私も窓の外を見る。
そして、窓の外に広がる湖を確認した。
「おしゃべりの時間は終わりだ。」
カイトの声一気に広がる緊張の空気。
そしてまもなく馬車は止まり、ファスト兄様は颯爽と馬車を降りる。
続いて降りた私たちの目の前には、沢山の兵が整列をして命令が下るのを待っていた。
その兵たちにファスト兄様は打ち合わせ通り命令を下す。
そして兵達は足早に作業を開始した。
そして、私達。
「俺はここで指示をしていかなくてはいけない。
シュウは湖の畔で様子を見て兵や町の人間に指示をしてくれ。」
シュウはファスト兄様に返事をすると、湖の畔に向かった。
「俺達も湖へ出発する。」
カイトの言葉に、ファスト兄様は頷く。
「シータを頼む。」
ファスト兄様の言葉に、今度はカイトが頷いて見せた。




