「 再 会 」
「どうやって王宮に入るの?」
私は自分の服を見下ろす。
とてもクル王国の皇女だとは信じてもらえないだろう。
「いつも通りさ。」
そんな私に、カイトは何でも無いという様に城の正面入り口から城へ向かう。
「ちょっと!」
呼び止める私の言葉を、“しぃッ”と静止して、背筋を伸ばし、堂々と門番に近づいた。
カイトのそんな姿には、着ている服なんて関係なく、威厳が感じられた。
私もそんなカイトの後ろで、真剣な表情に切り替える。
不安そうにしてたら怪しいものね。
「ここの学者に用があってきました。」
カイトの問いかけに、思わず門番も姿勢を正して軽くお辞儀をした。
「失礼ですが、どちら様でしょうか。」
「私はカイトと申します。
クル王国に仕える学者です。
今日は見聞を広める為に参りました。」
クル王国の学者!?
びっくりするほどスムーズにカイトがでたらめを話すのを聞きながら、私も真剣な表情を崩さないようにがんばった。
「学者様ですか。
あなた様を城に入れるにはシュウ様に確認を取らなくてはいけないので、少々お待ちいただけますか?」
すごい、門前払いじゃなかった。
うちの王国にもこうやって入ってきたの?
無事に帰れたら、もっと警備をしっかりする様に言わなくっちゃ。
そう思える位、私達はすぐにシュウという学者に出会う事が出来た。
王宮の応接間に私達は通された。
少し小ぶりの作りのその部屋は、王以外の重臣が使う為の物のようだった。
そして、そこには髭をたっぷりと顎に蓄えた老人が立っていた。
「こちらが、クル王国の学者のカイトと申す者です。」
私たちの姿を確認すると、その学者は少し怪訝そうな表情を浮かべた。
「そこに控えておれ。」
私達を不振に思ったのか、案内役の兵士を部屋に留める。
「私がこの国の学者、シュウと申します。
そなた達は何者だ。」
兵士の紹介を全く信じていないシュウの言葉に、私はドキドキした。
どうするの、カイト?
そんな私の前で、カイトは堂々と、そして優雅にお辞儀をした。
「はじめまして、私はカイトと申します。
この世界の異変を感じ、その異変を調べる為に旅をしている者です。
今回こちらに伺ったのは、ここの南に位置する湖の解毒の方法を調べる為です。
それと、その湖の周りの者に課せられた高額の税金について王と話をするためです。」
きっぱりと言い切ったカイトの言葉に、私はサーッと血の気が引くのを感じた。
身元も身分もハッキリしない私達がいきなりこんなに失礼な事を言って大丈夫なの?
いきなり引っ立てられたって文句も言えないのよ。
そんな私の心を更に鷲掴みにするかのように、シュウは兵士の方に視線を送った。
「もういい。仕事に戻りなさい。」
そう言ってシュウは、私達を応接室のソファーに進めた。
「もう少し話を聞こう。」
カイトの不思議な力。
これが本当の王族の風格という物なのだろう。
「まずは身分を明かして貰いたい・・・・・・のだか、先ほどからの貴方の言動からみて、それは諦めたほうが良いのだろうか。」
そう聞くシュウに、カイトは頷いて見せる。
「出身地・身分の話はいたしません。
必要なのはこの世界の安定の為の話。
私達は湖の精霊を助けたいのです。
それは、この国だけでは無く、全ての世界へと広がる不穏な波紋の内の一つを消す事になるのです。」
そう言って、カイトは以前私に話してくれた精霊と世界についての話をし始めた。
そして、湖の精霊が数日の間に消えようとしている事。
眠りに付く為に、精霊に未来への希望を見せたいという事。
その為に湖の解毒と、不当に高い税金の改正が必要なのだという事を伝えた。
・・・・・・けれど、シュウはそんなカイトの前で、絶望に似たため息を深く付いた。
「私もあの湖の解毒の方法を調べようといたしました。
けれど、あの湖が自分に反抗する民の仕業だと聞いて、王は激怒いたしました。
そして、解毒方法を調べようとしていた私に気が付かれて、その必要は無いと。
・・・・・・そう言ってこの城の毒に関する本を全て処分させてしまいました。」
えっ!?
驚きを隠せない私の目の前で、カイトは深いため息を付いた。
「けれど、あの湖をそのままにしておく事は出来ない。
そこで私は一番近いクル王国に密かに使いを送りました。
返事はまだ来ていません。
今日来るか、明日来るか、1ヶ月後にくるか・・・・・・もしかしたら、自分の国の問題じゃないからと相手にしてすら貰えていないかもしれません。」
ガックリと肩を落としたシュウに、私は思わず身を乗り出した。
「そんな事はありません!
ち・・・・・・クル王国の王はそんな人ではありません。
必ず使いは帰ってきます。解毒の方法を持って!!」
私が声を荒げてそう叫んだその時だった。
応接室の扉がバンッと大きい音を立てて開いた。
びっくりして振り向いたその先には、なんとファスト兄様の姿が有った。
「・・・・・・シータ・・・・・・」
私の名を呼んだ声も確かにファスト兄様の物だった。
見開かれた瞳。
驚きの表情。
そして、すぐにそれはとても熱い熱をはらんだ。
「シータ」
再び名を呼ばれた時、私はファスト兄様の胸の中にいた。
「無事でよかった・・・・・・心配したんだぞ。」
久しぶりのファスト兄様の声。
そして、抱擁。
兄様との未来を振り切って出発したカイトとの旅。
私は信じられない思いで兄さまを見上げた。
「本当に・・・・・・兄様?」
そんな私をファスト兄様は更に力を込めて抱きしめた。
「もう離さないよ。」
私はファスト兄様の背に腕を回す。
ファスト兄様の存在を強く確認するかの様に。
何も考えられなかった。
解かるのは、この懐かしく愛おしい兄様の逞しい胸だけだった。
「そろそろ、話を進めさせてくれ。」
ファスト兄様の後ろでカイトの声がした。
一気に現実に戻された私は、あわてて兄様から体を離した。
「ごめんなさい。」
少し恥ずかしくて、私はファスト兄様の背中に少し体を隠してカイトを見た。
そんな私にカイトは視線を合わせずに、ファスト兄様に視線を向けていた。
「湖の解毒方法についての解答を持ってきたのだろう?
事態はあなたが考えているよりも切羽詰っているんだ。
さぁ、早く解毒方法を教えてくれ。」
「解かった。」
カイトの言葉に、ファスト兄様は私の腰に腕を回し、自分の隣に立たせた。
そして、どうしたらよいか解かりかねている様子のシュウに視線を向けた。
「失礼いたしました。
クル王国第一皇子のファストと申します。
我が国第一皇女シータと客人カイトがお世話になっているようですね。
・・・・・・あなたがわが国に使いを派遣したシュウですか?」
すでに状況を理解しているファスト兄様。
「はい。私がシュウ。この国の学者でございます。
皇子様直々においで下さるとは、大変恐縮でございます。
シータ様にも、皇女とは存じませんで、大変失礼いたしました。」
そう言って深々とお辞儀をしたシュウに、ファスト兄様は気にするな、と声を掛けた。
「まずは状況の説明を。」
ファスト兄様の言葉で、カイトとシュウの説明が始まった。
二人の話を黙って聞いていた兄様は、二人の話が終わったと見るや後ろに待たせていたクルの兵士に手を差し出した。
「本を。」
そんな兄様の手に兵士はパッと一冊の本を手渡した。
「この国の土に粘土は含まれているか?」
そう言って机の上に置いたその本のタイトルは「毒とその解毒方法」という物だった。
タイトルもとってもこの状況にぴったり。
「この本によると、粘土を毒の入った水に混ぜると毒性が薄まるらしい。
もともと薄ければ薬となるフランセントなら、完全に除去しきらなくても大丈夫だろう、と、うちの学者も言っていた。」
あ、先生の事だ。
「丁度あの湖の正面の山で粘土質の土が沢山取れます。
かなり幅の広い粘土の層が何層か有ったはず。」
さすが、学者様。
「では、人を使って山から土を運ばせよう。」
そうファスト兄様がそう言った瞬間、私とカイトとシュウは一斉に顔を見合わせた。
「王の許しを貰ってからでないとまずい。
もっと怒らせて、更に大変な事態になってしまうかも。」
「よし、俺が王に会おう。
シュウとカイトは城にある使えそうな道具を確認し、王の許可が出次第持ち出せる様に。」
シュウとカイトは頷く。
それを確認したファスト兄様は、次に私に視線を移す。
「お前は、どうしたい?」
真っ直ぐの視線。
瞳の奥で、不安げな影が小さく揺れている。
私を心配してくれているいつもの兄様。
けれど、いつでも私の心を優先してくれるいつもの兄様。
「私もカイトと一緒に行くわ。」
ごめんなさい。私はもう既に歩き始めたの。
「解かった。」
小さいため息。
そして直ぐに私から視線をはずした。
「カイト、俺が王と会っている間シータを頼む。」
「解かった。」
短く答えたカイトの返事を聞くと、ファスト兄様はシュウに案内の兵を呼ばせ部屋を出た。
「俺たちも行こう。」
そして私達も準備の為部屋を後にした。
ファストはシータと再会。
きっと色んな意味で不安だったはず。
けど、自分の背にまわったシータの腕に、一つの不安を解消出来たと思う。
それでも、やっぱり不安だよね。




