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「湖の精霊-出会い-」

「何か、感じる。」

 少し手前くらいから、うっすらと空気が変わっている気がした。

 その気が本当に少しずつだけど強くなって行く。


「もしかして、精霊?」


 旅を始めて1週間を過ぎようとしていた。

 身分がばれると襲われるからと馬車に乗らずに直接乗馬での旅。

 もともと馬に乗る事は出来たけれど、こんな1日中乗り続けた事なんて無かったし、ましてやそれを何日も続けたことなど皆無だった。

 足も腰も限界に近かった。


 けれど、“少し休みたい”そんな事を言ったら、気持ちが折れて旅を続けられなくなってしまいそうで、とても言い出せない。

 そんな私の心が、ほんの本当の少しだけ和らいでいた。


 きっと精霊の“気”のせい。


「お前も感じたか。

 さすがだな。

 気をたどって精霊の場所を特定しよう。」

 優しく微笑みを浮かべながら私に振り返るカイトに私は頷いて見せた。







 精霊の気を感じたという事は、新しい精霊の守護範囲に入ったという事だ。

 という事は、その手前までが城の精霊の守護範囲って事?

 気の中心に精霊が居るとしたら、城のさくらの木の精霊の守備範囲が半径で7日間。

 新しい精霊に会うにも、あと7日間歩けばいいって事なの?


 私がそう聞くとカイトは馬の足を少し緩めて私の隣に並んた。

「そんな事は無い。

 精霊の力はその精霊によって違う。

 基本的に城にいる精霊の力はとても強い。

 ・・・・・・本当は城に居る精霊という言い方も適切では無いんんだけどね。

 それは強い精霊の居る所に、城が出来て行く・・・・・・というものだからだ。

 力の弱い精霊の守護範囲の半径はほんの半日という場合も有る。

 大抵は半径1日。」


 ふーん、そうなんだ。

 さくらの木の精霊はとっても強い精霊だったんだね。

「さぁ、がんばって進もう。」

 カイトの声に、私は自分の気力を再び振り絞って手綱を握りなおした。









「ここだな。」

 深い霧が立ち込める場所にある大きな湖。

 その中心の方から私達は精霊の気を感じた。

「もう日も傾き始めた。

 この町で宿を取ろう。」



 私達は宿に着き、手早く夕食を済ませ、お風呂を済ませた。

 いつもなら旅の疲れのせいですぐに寝てしまっていたけれど、今日はなんだか胸が騒いで眠れなかった。

 とうとう旅に出て初めての精霊へ会える。

 夜の宿の屋上。

 私は湖の方角を向きながら、床に座り込み、夜風に当たる。

 夜の闇のせいで湖は見えないけれど、精霊の気が感じられるのが心地よい。


 ・・・・・・といっても、こんなに近づいているのに、とてもとても弱い。


 もともとこれくらいの気なのか、それとも弱ってきているせいなのかすら私には解らない。

 こんな頼りない私に精霊は心を開いてくれるのだろうか。

 

 私は左胸の印を覗き見る。

 この印を見て、精霊が少しでも心を開いてくれればいいけど。


「山に近づいたせいか。

 ・・・・・・夜は少し冷えるな。」

 後ろで足音が聞こえ振り返ると、そこには夜着の上にマントを身にまっとったカイトがいた。

 言われてみれば、ここに上って来た時よりも体が冷えてきた様に感じられた。

「これを。」

 そう言ってカイトは自分が羽織っていたマントを私の肩に掛けると私の隣に静かに私の隣に腰を下ろした。

 始めて見る月の光の下のカイト。

 霧のせいで月の光はとても弱いけれど、それでもカイトの精悍な体を十分綺麗に映し出していた。


 それが私の胸をドキドキさせた。


 そして、その胸の鼓動と、このマントの重みは私にとってとても大切な人を思い出させた。

 夏の暑い日差しの中や、冬の寒い日、そして、夜に二人でお話をする時、いつもファスト兄様は私にマントを掛けてくれた。

「ありがとう。でも、大丈夫。」

 私は急に思い出したファスト兄様の思いを振り切るようにマントを自分の肩から下ろし、カイトに返そうとした。

 けれど、そんなわたしに、カイトは再びマントを掛けた。

「どうして?

 誰かを思い出すから?」

 少しかすれた声。

 私はびっくりしてカイトを見る。


「・・・・・・そんな顔をしてたから。」


 少し切なげな瞳が私をまっすぐ見つめる。

「いつも夜はぐっすり眠ってしまうシータがこんな風に夜に外に姿を現すなら、女性用のマントも用意しなくちゃな。

 この辺り位からは昼間は暖かいけれど、夜は冷えるから。」

 

 ほんの少しだけふざけた感じの話し方。


 カイトは直ぐにいつもの調子に戻った。

 私はそんなカイトの変化を不思議に思いながらも、カイトに向かって反論した。

「だって、本当に毎日クタクタなの。

 本当は夕食だって食べたくないくらい。

 食事を取らないとカイトが怒るから、食べてるけど。」

「当たり前だろ。

 食事を取らなくなる様なら俺はお前を連れて行けない。

 ・・・・・・けど、お前はよく付いて来てるよ。

 正直ここまで頑張れるとは思ってなかった。」


 カイトの言葉に、私は素直に喜べなかった。


「そう言ってくれるのは嬉しい。

 けど、頑張れるのはカイトのおかげ。

 食事や宿、それに旅の道筋ぜーんぶカイト任せ。

 私はカイトを信じて付いて行っているだけ。

 ・・・・・・それに、精霊の所へ行って、どうしたらいいかが解らない。

 精霊達に会うためにここまで来たけど、具体的にどうしたらいいのかが解らないの。」


 私はカイトに自分の不安をぶつけた。

 自分じゃ解決出来ないと思ったし、カイトに聞いてもらいたかった。

 そんな私の頭を、カイトはポンポンと優しく叩いた。

「さくらの木の精霊はお前のどんな心に答えてくれたんだ?」

 言われてその時の気持ちを思い出す。

「精霊を。皆を守りたいって思ってた。」

 私の言葉に、カイトの瞳が優しく揺れた。

「その気持ちが有ればいいんじゃないのかな。

 俺にも良くは解らないけど、そんな心を持ったシータにさくらの精霊は願いを託したんだろ?

 とりあえず行く。そして、状況を見る。そしてその後は、シータの気持ちに従おう。

 それで駄目なら、また別の方法を考えよう。」

 真っ直ぐ私に向けられた視線。

「・・・・・・二人でね。」

 私は力強く頷いて見せた。

 カイトと一緒ならどうにかなるかもしれない。

 そう思ったら、心が少し勇気付けられた。


 それはまるでさくらの精霊の近くに居る時のようだった。








「ボート、漕げるの?」

 湖の麓で私達は一層の小さいボートを借りた。

「勿論。」

 そういうと、先に乗り込み、私に手を差し出した。

「おいで。」

 私はカイトの手を取って、ボートへ一歩踏み出した。


「きゃーっ!」

 その瞬間、私はあっさりバランスを崩した。

 そんな私をカイトは一気にボートへ引っ張りいれ、“ドスン”と大きな音を立ててボートに倒れこんだ。

「いてっ!」

 私を抱きかかえるようにして硬く凸凹のあるボートに倒れこんだカイトが小さく声を上げた。

「ごめんなさい。」

 カイトに抱き止められた状態の私は、そう言ってあわててカイトから体を離そうとした。

 けれど、カイトは私の背に回した腕に力を入れて、その動きを制した。

「いいよ。こんな役得があるなら、いくらでも。」

 クスッと笑ったカイトから顔をそむけ、再び腕に力を入れてカイトの上から体を起こした。

「すぐふざけるんだから。」


 言葉とは裏腹に、抱きしめられた胸の厚さに私はドキドキした。

 自分を支えている手も微かに震えた。


 ファスト兄様とこの男の人の腕は、触れられた時の感じがなにか違う。


「怪我は、ない?」

 そんな気持ちを隠すかの様に私はカイトに問いかける。

「怪我をしててもかまわない。」

 もう、また、ふざけて!

 私はムッとしてカイトを見る。

「本当にね。」

 私はそんなカイトの言葉と、カイトの甘く揺れる瞳に自分の心がほんの少しだけ侵略をされた様に感じた。


 





「この湖は数年前までは魚も豊富で漁師や釣り人、あと、夏の避暑地として賑わっていたらしい。

 そんな噂を聞きつけたこの貧乏なここ、ゴウラ国の王がこの湖を利用するものから税を取ろうとした。

 膨大な金額の税だ。

 今までこの湖のおかげで豊かに暮らしていたこの付近の人々は、反対に、この湖のおかげで苦しい生活を送らなくてはならなくなってしまった。

 そして、そのせいで蓄えに蓄えてきた財をどんどん削られ怒った一人の豪商がその腹いせとして、この湖に毒を放った。

 魚が死んだら税が集められない。

 この湖からの税収をとても期待していた王が困る事を期待したんだ。

 毒を放った豪商は、自分の手元に残ったわずかな財を持ち他の町へ逃げようとした所をつかまり処刑された。

 けれどこの湖に依存して生活していたこの町の人間たちは、他へ移る金も無く、この地で苦しんで暮らしている。

 そしてここの税収を当てにしていた王は、国を運営する資金に尽き、自分の娘を金持ちの国へ嫁がせた。

 そして、毒を放たれた湖からは魚が消えて行った。」


「ひどい・・・・・」

 余りにひどい状況。

 確かに昨日泊まった町の人々の生気は弱く、町も錆びれて来ている感じがしていた。

「こんな場所に居る精霊が弱らない訳はないな。」


 胸が苦しい。


 こんな弱い気しか放てない精霊を助けたい。

 この町の人々に笑顔を思い出して欲しい。

 そして、ボートはゆっくりと湖に浮かぶ大きな岩に近づいて止まった。


 ここに精霊が居る。

 カイトは黙ってその岩の出っ張りにボートのロープを引っ掛けてボートを固定した。

 そして私に頷いて見せた。

 それに答える様に、私はその岩に手を添えた。

「・・・・・・こんにちは・・・・・・」

 その瞬間、私の意識がスーッと遠のいた。


 何か暖かい物に包まれるのを感じた。


 これは、精霊の気?貴方の中?

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