「 ファストとカイト 」
次の日の昼前に、兄様はクーと一緒に城に到着した。
「元気だったか?」
久しぶりの兄様の胸元にはまだ包帯が除いて見えた。
「私よりも兄様はもう本当に大丈夫なの?」
挨拶の抱擁の中での私の質問に、兄様は私を直ぐに体から離して頭をクシャッと撫でた。
「俺は大丈夫だよ。
カイトの両親のおかげだな。」
そう言ってカイトに視線を送る。
「これから頑張って貰わないとだからな。」
そう言って二人で苦笑い。
「早速で悪いけど、応接室に資料を用意して、旅の荷物も作ってある。
今日は作戦を立てて、明日早いうちに出発したい。」
カイトの言葉に、兄様はしっかりと頷いて見せた。
兄様は今の状況を確認して、カイトと二人で旅に出る話を聞いた。
私とクー二人を残すという話の部分で椅子を鳴らし立ち上がろうとした。
けれど、ジッと考え込んで、その先の言葉を飲み込んだ。
「無理はするなよ。
ケートの側に居ることが必要だとしても、俺達が帰って来るまでは心に入っていくなよ。
あと、この城から出ないこと。
城の中でもこの建物と、ケートの所それ以外には行かないこと。
古そうな食料には手を付けるなよ。
とにかく、何をするにもクーから離れるな。」
・・・兄様らしい別れの言葉に、クーはおろか、カイトまで呆れた顔を見せた。
「解かってる。
兄様も気を付けて。」
了解の意を示すまで、絶対に兄様は出発しない。
私は兄様に力強く頷いて見せた。
「早く帰ってくるから。」
「うん。」
・・・やっぱり別れは寂しい。
旅に出て、兄様、カイト二人と同時に離れるのは今回が初めてだ。
そんな私の心に気が付いたのか、兄様は私の肩を抱き寄せ、額にキスをした。
「おい!そんな所で十分だろ。」
そんなカイトの言葉に、兄様は嫌な顔をしてカイトを振り返ると、もう一度私の額にキスをして、兄様は私から離れた。
「油断も空きも無い。」
ため息を付きながら、カイトは私に歩み寄った。
「しかも、俺からの話の殆どをファストにしゃべられたし。」
そう言いながら、カイトは私を抱き寄せた。
「とにかく、かえって来た時、無事な姿を見せてくれる事。」
ちょっとふてくされ気味なカイトの声に、私はおかしくなって思わず笑い出した。
見えないカイトの背後からも兄様の小さな笑い声、そして、私の背後下の方からも、小さな笑い声が聞こえた。
「いってらっしゃい!」
泣かなくって良かった。
私はここで待っていよう。
帰ってきた二人を、同じくらい元気に迎えられる様に。
旅をするのが久しぶりの様に感じる。
つい1ヶ月弱、オーマ王国で過ごしただけなのに。
それだけあのオーマ王国が今まで過ごしてきた世界とは違うものだったと改めて感じた。
カイトはあの国で育ったんだ。
そして、色んな国を旅して回って。
豊富な知識に、驚異的な精神力、体力、そして決断力。
今まで出会ってきたどんな国の王にも引けを取らない位の人間的大きさを感じる。
今まで大切に育て、愛してきたシータも、カイトになら任せられると本気で思えた。
「このまま休まず進みたい。」
俺の前を走っていたカイトが、少しスピードを落とし、俺の横に馬を付けて俺の顔色を伺いながらそう聞いてきた。
実際傷を庇うせいで普段よりも体に負担が掛かっていた。
息も軽く上がっていた。
しかし、かなり城から離れたはずなのに魔物の気配は消えず、まだ休む場所には適していないと感じられた。
「ああ、行こう。」
俺は力強くそう答えると、カイトに大丈夫だと視線を送った。
カイトはそれを確認すると、大きく頷いて再び俺の前へと馬を進めた。
先頭を走るのはとても疲れる。
暗くなった道を、目的地までの道を馬を走らせたままの状態で瞬時に判断をしながら進まなくてはいけない。
しかも、魔物までいる。
出来る限り魔物との接触を避けて、時には遠回りし、時には接近戦で戦った。
本当なら交代で先頭を変わるべきなのだが、今の俺の状態では、とてもそれをこなすことは出来ない。
いや、もし、俺の前を走る存在がカイトで無ければ、俺は代わっていただろう。
けれど、カイトだから。
俺は先頭を任せる事が出来るんだ。
それが最適だと解かるから。




