「 精 霊 -ケート- 」
「着いたな。」
町を抜けて、カイトが振り返ってそう言った。
何時の間にか私の胸元から顔を出していたクーも、頷く。
「悲しい風景。」
馬から降りて私のところへ来て、私に手を差し伸べながら、悲しそうな顔をしてカイトはそう言った。
目の前には、確かにたくさんの人達が住んでいたであろう大きなお城。
そして、確実に人の気配を感じられない大きなお城が聳え立っていた。
沢山の木々は折れたり、根っこごと倒れこんでいた。
花はおろか、草さえも存在しない。
魔物対策であったであろう、沢山の崩れている大きな壁。
そして、昼間なのに暗いその空間に、絶え間なく吹き付ける冷たい風が、とても物悲しく音を成していた。
「こんな場所に一人でいるのか・・・・・・。」
かなり離れた場所から私たちは精霊の気配を感じ始めていた。
気配が有るという事に、私は心の中でホッとしていた。
ここへ通じる道が余りにも荒れ果てていて・・・・・・もしかしたら・・・・・・と思わずにいられなかった。
そんな私をカイトはギュッと抱きしめて励ましてくれていた。
そんな中、ハッキリとした精霊の気配を感じられた時、私はとてもホッとした。
そして進むに連れて強くなるその気。
私は当たり前の様に想像していた。
精霊がいるという事は、人々が居て・・・・・・。
その人々を、精霊は見つめている。
けれど、違った。
この目の前の荒廃した城。
この場所に、人の気配は感じられなかった。
こんな場所に精霊が一人で・・・・・・。
何を感じて、何を思って、ここに一人でいるんだろう。
「シータ。」
声と同時にクーが私の目の端をザラッと舐めた。
「早く行こう。
俺達の胸の痛みよりも強く悲しい痛みを抱えている精霊の所に。」
クーは真っ直ぐ先を見つめている。
カイトに視線を送ると、カイトは力強く頷いた。
そして私の手を握ってくれた。
カイトの温かく、そして力強い手。
そして胸に感じるクーの体温。
私には味方がいる。
きっと大丈夫。
どんなに精霊様の心が傾いていても、みんなの力で支えてあげる。
待っていてね、直ぐに行くから。
気配は城から少し離れた・・・他の建物よりも遥かにボロボロで、そして小さな聖堂から感じられた。
その隣にはとても大きな聖堂が建てられていて、きっとこの小さな聖堂はこの城が廃墟になる前から使われていなかった様に思われた。
中に足を踏み入れると、想像とは反対に中は意外と小奇麗で、つい最近まで人がここに出入りしていた事を教えてくれた。
「大丈夫か?」
小さいカイトの問いかけに、私はしっかりと頷いた。
「カイトやクーが一緒だから。」
そして私は精霊の意識の中へ入っていった。
眩い光。
けれど、色は・・・・・・微かなグレー。
そして、空気がとても冷たくって。
「精霊様・・・・・・。」
掛ける声も、自然と震えた。
この空間。
その全てが精霊の心。
「心で負けるな。」
突然の聞き覚えの有る声に私は振り返る。
そこには、細く柔らかそうな金髪の少年が薄い紫のマントを体に洋服の様に上手くひだを付けて巻きつけた15、6歳位の少年が立っていた。
「俺達が一緒だろう?」
クー・・・・・・!?
その言葉と、その声で、私はその少年がクーの本当の姿なのだと一瞬で理解した。
少年の姿をしたクーはゆっくりと私の方へ歩み寄り、私の隣に立つと、優しく私の肩を腕を回し、優しく抱き寄せた。
その瞬間、私はクーの体温を肌で感じた。
そして、いつも感じているその温度のおかげで、心と体の震えを止める事が出来ていた。
私を見つめる緑の水晶の様な輝きを見せる瞳が、私を優しく、強く励ます。
私はその瞳に強く頷いて見せた。
「精霊様。」
そして再び声を掛ける。
「ケート。」
そんな私の隣で、クーは一つの名前を口にした。
「この精霊の名前だ。
唯一名前を持っている。」
小さく私の耳元で呟く。
「ケート。」
優しく、真っ直ぐな声が、この空間の中に響いた。
広いのか、狭いのか、何も解からない空間。
「久しぶりに呼ばれた名前。
その名前を知っているのは、神のみ。
けれど、この声には聞き覚えがない。
・・・・・・お前は、誰だ?」
そんな空間の中、心に声が届く。
決して耳ではない、心に。
暗く、地の底から響くその声が、私の心をザラッと重く撫でた。
「俺は神の子、神の使い。
神の命により、お前を助けに来た。」
私の心の不安を感じたのか、それともクー自体が不安を感じたのか、クーは私を抱く腕にグッと力を込めて、そう言った。
「我を救いに?
それは無理な話だ。
我を救う事など出来ない。
我を救う事の出来る只一人の人間ケイトが死んだ。
その瞬間から、我は只人間に復讐だけを続ける存在になったのだ。」
ケイト?復讐?
「話を聞かせてくれないか?」
クーの問いかけに、ケートは暫くの沈黙を見せた。
けれど、少し声のトーンを下げて、ポツポツと話を始めた。
その内容は、とても寂しく、とても悲しい話だった。




