「 旅 立 ち 」
ファスト兄様には何て言おう。
他の人には旅の目的を書いた置手紙を置いて行こう。
直接話せば、絶対止められるし、そうなると決心が鈍ってしまう。
ファスト兄様にはそういう訳には行かない。
旅に出る決意をしてから、私は何度かカイトと旅について話を重ねた。
旅には次女を連れて行く事は出来ないから、自分の事は自分でやって行かなくてはいけない事。
精霊が弱っている場所に行く事になるので、常に危険である事。
勿論、命の保障は無い。
それだけの覚悟をしなくてはいけないときっぱり言われた。
確かに私もそう思う。
ファスト兄様に、私の帰りを待っていてなんて言えない。
大好きなファスト兄様には幸せになってもらいたい。
私が幸せにしてあげたかった。
二人で一緒に幸せに暮らしたかった。
涙が頬を伝う。
旅を決意してから、私はこの国の大切な人々を思うと、涙が止まらなくなってしまう。
永久の別れかも知れないと考えるからだ。
特にファスト兄様の事を考えると、息も出来なくなるほど胸が締め付けられる。
けれど、この大切な人達を守りたい。
この大切な人達の住む、この世界を守りたい。
だから旅に出ない訳にはいかない。
そっと指で唇に触れる。
ファスト兄様のキス。
幸せだった時間。
「・・・・・・ファスト兄様」
「準備は出来たか?」
夜、カイトが私の部屋へやってきた。
「ええ。」
私はかばんを肩に掛けると、カイトに歩み寄る。
私は部屋を振り返る。
机の上には手紙が2通。
一つは大好きな皆へ。
そしてもう一つは大好きなファスト兄様へ。
・・・・・・結局私は直接兄様に別れは告げられなかった。
絶対に兄様は私の旅立ちを許してくれないと思ったし、直接別れを告げる勇気が無かった。
「さぁ、夜が明ける前に出来るだけ進みたい。行こう。」
カイトに言われた通りの物のみを入れたかばん。
終わりの見えない旅に出るにはとても不安な位少ない中身だったけれど、それでも肩に掛けると、とても持ち応えがある。
きっとこれが私の限界の荷物。
「さようなら。」
私の心が皆に伝わります様に・・・・・・
「親愛なるお父様、お母様へ。
庭園のさくらの木の精霊の気を感じられなくなった事に気が付きましたか?
心配しないで下さい。
さくらの木の精霊は決して消えた訳では有りません。
眠っているだけなのです。
世界で精霊が消えている。
その事について私はさくらの木の精霊と話をしました。
そして、精霊から一つの可能性を貰いました。
精霊は私の胸に精霊の友の証を刻んでくれました。
それは、私が他の精霊達に会う為の物。
私はその証を持って、他の精霊に会いに行きます。
そして、その出会った精霊が消えないように頑張って来ます。
大好きな皆と、皆の住むこの世界を守る為に。
大好きな皆と離れるのはとても寂しいけれど、私は大好きな皆や、この世界の為に自分に出来ることがある事を誇りに思います。
いつでも勝手な私を許して下さい。
大好きな兄様、先生、ククル、そして、城の皆。
いままでありがとう。
行って来ます。
シータ 」
「大好きなファスト兄様へ。
何も言わずに旅立つ事をお許し下さい。
事情はもう一通の手紙に書いてある通りです。
本当は兄様にきちんとお話をして行きたかったけれど、どうしても顔を見てさよならが言えませんでした。
私を生涯の伴侶として選んでくれたファスト兄様。
ありがとう。
けれど、どうか私の事は忘れて幸せになってください。
この言葉を記す事は、私にとってとても苦しく切ない決断だったけれど、大好きなファスト兄様には幸せになって欲しいのです。
私に愛を教えてくれてありがとう。
ファスト兄様へのこの気持ちは、私の力であり宝物です。
あと、この国をよろしくお願いいたします。
大好きなこのクル王国を。
さようなら。
シータ 」
とうとう旅立ちです。




