「 最 後 の 旅 立 ち 」
出発してからカイトは復習の様に、魔法のコントロール方法を伝えてきた。
・・・・・・魔法の力。
それが心にある。
それだけであえて使わなくても体力の消耗を抑えられる。
はず・・・・・・なんだけど、現実はそう簡単にはいかず、実際旅を再開してみて、意外と難しいという事を知った。
まだ魔法の力を自分の物にしきれていない私は、無駄に体力を消耗していた。
私はだんだんと押し寄せる疲労感に意識が薄れそうになるのを感じていた。
そしてお昼の休憩の時には、私の頑張りも空しく、カイトに回復魔法をかけられる事をになってしまった。
「横になって。」
カイトの言葉に、私はカイトの腕に支えられ、ゆっくり体を横たえる。
「目をつぶって。」
優しいカイトの言葉が、反対に私に緊張感を与えた。
「体の力を抜いて。」
いつも温かだと思っていたカイトの手が冷たい。
そんなカイトの手が、私の胸の桜の印に向かってゆっくり下がってくる。
思わず体がビクッと震える。
そんな自分が恥ずかしい!
カイトだってそんなつもりじゃないのに、一人で意識して・・・・・・。
そんな私の気持ちを知ってか、知らずか、カイトの手が止まった。
その手に、私の心臓の鼓動の速さを感じられそうで。
そのせいで、私の心をすかして見られてしまう様な気がして、私は恥ずかしくって、全身赤く染まってしまっている様に感じた。
「・・・・・・シータ。」
少し咎める様なカイトの声。
私はやっぱり私の心がバレバレなのだと解かり、思わず目を開けた。
目の前に、困り果てた表情のカイトが居て、私はそんなカイトの顔を見続ける事が出来なくって、思わずカイトの首に縋りついた。
「ごめんなさい。」
そんな私の言葉に、カイトは軽くため息を付いて、私の背中をトントンと優しく叩いた。
「頼むから、そんなに緊張しないでくれ。
こっちまで緊張してくる。」
「・・・・・・ごめんなさい。」
カイトの言葉に、更に真っ赤になりながら更に私は謝った。
そんな私の頬にカイトは軽くキスをした。
そして優しく微笑んだ。
「そんなに誤らなくていいよ。
・・・・・・それはそれで嬉しいんだから。」
そして甘い、瞳。
その瞳に心を絡めとられて、私の心はカイトで一杯になった。
この幸せな時間を大切にしたい。
私はカイトを抱きしめた。
「カイトとずっと一緒にいたい。
・・・・・・救われた世界。
その先にある物をあなたと一緒に見たい。
あなたとその先の物を、一緒に感じ、見つけ、育て、守って行きたい。」
「・・・・・・シータ・・・・・・。
俺もその未来を守る為に力を尽くす。
愛してるよ・・・・・・シータ。」
そんな私達の隣で、深い深いため息がつかれた。
「俺の存在忘れすぎ。
二人でいちゃいちゃするのもいいけど、早いとこ回復させて旅を再開しようぜ。
なんなら俺が気絶させてやってもいいぞ。」
その言葉で、私達は一気に現実に引き戻され、私はさっき迄の緊張も忘れて、回復をしてもらった。
「これからはもっと回りに気を使う様に。
・・・・・・あ、そうだ!」
そう言ってクーは私の荷物の中に作られたクーの細かい指示でカイトが作った手作りベッドからヒョイッと飛び出し、私の肩に飛び乗った。
そして私の胸元のカイトが作った隙間からスッと入っていった。
「おいっ!!」
「キャッ!」
私とカイトの声が重なる。
「やっ、クー、やっ!」
胸元でモゾモゾと動くクーがくすぐったくって、私は思わず声を上げる。
「おい、クー、出てこい!」
そんな私の声と、カイトの怒鳴り声にも似た抗議に答えるかの様に、クーは私の胸元からヒョイッと顔を出した。
「うるさいな~。
俺、今からここを寝床にする。
俺がここ、桜の印から漏れる力を抑えといてやるよ。
そうすれば、こんな無駄な時間を使わずにすむからな。」
‥‥‥うっ。
無駄な時間・・・・・・。
それ、はカイトが私に回復魔法をかける時間?
・・・・・・それとも私達が愛を深めあう時間・・・・・・?
思わずカイトを見る。
目の前には、複雑な表情を見せ、クーに物を言えないカイトの姿があった。
そして暫く後、私の胸元のクーに忌々しそうな視線を残して、私を見た。
「クーが悪さをしたら直ぐに外へ放り出すんだぞ。」
かなり本気なその口調に、私はおかしくなって思わずクスクスと笑ってしまった。
「笑い事じゃないんだからな。」
少しむきになったカイトが何だか可愛く見えて、更に笑ってしまい、カイトは本気でムッとした顔になってしまった。
ごめんね、カイト。
カイトの気持ち、嬉しいよ。
それに、新しいカイトを見れたのも嬉しいよ。
「魔物が来ないだろ?」
クーに言われて、私はそう言えばと思った。
「お前の力だろ?」
気が付いていたかの様な口調のカイトに、クーは、“勿論”と得意げに答えた。
「俺の意識がある間は魔物は近寄ってこない。
精霊に似ているだろ?
多分元を辿れば、同じ物か・・・・・・先祖から造られた物なのだろうと父上が言っていた。」
クーの言う父上は私たちから見た“神”の事。
クーはこうやって雑談の中で、少しずつ天界の話や精霊の話をしてくれる。
その昔精霊は天空で神と友に過ごしていた事。
そして今から向かう精霊がこの世界を見つけ、そこに住む人間に興味を持ち、そしてその人間を知る内に、その人間と一緒に居る事を望んだ事。
精霊をとても愛していた神は勿論反対したけれど、それでも人間と一緒にいたいと望む精霊に条件を出した。
もし人間が、同じ人間を傷つけたり苦しめたりする様になったら、その近くの精霊に報いが訪れ、その報いがひどく積み重なった時、その精霊はその重みに耐えられなくなって地に沈む。
そして周りの人間達へと罪を返す為に魔物を呼び、増やし、人間を襲わせる。
その条件に精霊が怯み、人間の下へ行くのを止める事を願っての神の条件。
けれど精霊はそれに怯む事は無かった。
神の世界は変化も無く、退屈だったのだろうと神は諦め、精霊の幸せを願って精霊を見送る事にしたんだ。
そして、どちらかの気持ちが変わり、一方的に約束を反故にしない為に、半分ずつ魔法を分けてそのルールのプログラムである魔法をかけた。
それから小さい精霊はどんどん消えて行った。
神は精霊に何度も帰ってくるように語り掛けた。
けれど精霊は帰ってこなかった。
傷つきながらも、それでも精霊は人間に惹かれ続けていた。
ある程度小さい小さい精霊が消え尽くした後、暫く・・・・・・数百年の間、落ち着いた日々を送っていた。
そしてある日、今から向かうその精霊はある事件をきっかけに、人間に失望し、人間を憎むようになった。
それは余りに突然で、神にはその訳を知る事が出来なかった。
心を閉ざし、小さく、そして、だんだんとハッキリと復讐として魔物を呼んだ。
その精霊は本当に特別で、地下に沈む事も無く、魔物を呼び続けた。
そうやって、自分の力を与えて大きくしてきた城と町を滅ぼした。
それがきっかけになり、次々と周りの精霊は消え、それに導かれる様にこの世界が滅びに向かって行った。
神は愛する精霊を苦しめる人間が憎いと言って・・・・・・。
けれど、そんな人間でも精霊たちは無条件で人間を愛していて。
そんな精霊を・・・・・・そんな精霊だからこそ更に神は愛していて。
そんな父である神を、クーは愛していて。
・・・精霊の気持ち。
・・・神の気持ち。
・・・そして精霊と神と私達の間に挟まれたクーの気持ち。
それらを話し尽くした頃、私達は新しい精霊の気を感じ始めた。
それは悲しく、そして、苦しげなもので、今までの精霊とは違った。
今迄は強い、とか、弱い、とか。
あの桜の精霊ですら、暖かい位しかなかった事から、今度の精霊がそれだけ大きい物なのだと感じさせた。




