「 想 い 合 う 心 」
「そろそろ目を覚ませ。」
暖かい物が私の頬にスリスリと触れた。
目を開けると、目の前には緑の瞳が私をジッと見つめていた。
「・・・・・・クー?」
私の声に、クーは私の頬をぺロッと舐めた。
ザラッとした感触が私の意識をハッキリとさせていった。
涙が流れる。
相変わらずの苦しみが、私に私の罪の重さを知らしめる。
「クー、私はこのまま死んでしまうの?」
片手を伸ばし、クーに触れる。
その手にクーが体を寄せる。
「大丈夫。但し、自分の殻に閉じこもっては駄目だ。
ちゃんと目の前の現実を見て、シータ。
カイトへの気持ちを見つめて。
自分の想いのある場所を見つめるんだ。」
私の、カイトへ、の、気持ち?
「種の苦しみは、お前がカイトへの気持ちを受け入れれば無くなるよ。
シータ、お前には種を受け取る資格があるんだから。
只、自分の素直な気持ちを受け入れればいいんだよ。」
私の、素直な、気持ち・・・・・・。
「シータ、お前はカイトが好きなんだろう?」
私は、カイトが・・・・・・。
「お前達から愛のオーラを感じるよ。
とても強く、とても純真で、とても綺麗なオーラ。
俺が言うんだから、間違いない。」
私達の、愛・・・・・・。
確かに、私達はそれを感じあった。
お互いの気持ちは、通じ合った。
「けど、私は、兄様と・・・・・・。」
そう。
私は兄様と結婚の約束をしていて。
大好きな兄様を裏切る事は出来なくって・・・・・・。
「うぅっ・・・・・・。」
再び苦しみの波が強くなってきた。
「駄目だよ。お前はカイトへの愛を守るんだ。
お前とファストの立場が逆だったらどうだ?
ファストの幸せを願うだろう。
自分に同情してファストが命を落としたらどうする?」
「そんなの、駄目。
兄様には幸せになって欲しい。」
「そう。
だから、シータはカイトと幸せになって。
カイトの想いに素直になって・・・・・・。」
私は瞳を閉じた。
解かっていた。
兄様が私の想いを無視したりしない事を。
いつでも私の気持ち優先で。
そんな兄様がとても好きだった。
そんな兄様を私も幸せにしたいと思っていた。
けれど私はカイトと出会い、カイトを知り、カイトを好きになっていた。
カイトへの想いを断ち切ろうとすればする程、私の心が辛かった。
・・・・・・心のどこかで知っていた。
この想いは消せないと・・・・・・。
トントン。
扉を叩く音が、静かな部屋の中に響いた。
「カイトが帰ってきた。
シータ、カイトと話をするんだ。」
そう言ってクーは、ゆっくりと開かれた扉の隙間からスッと姿を消した。
「シータ、目を覚ましたの?」
クーと入れ替えに姿を現したカイトが、ベッドに体を起こした私の姿を見て、ホッとした顔をした。
「良かった・・・・・・。」
カイトの瞳に涙が滲んで見えた。
そう思った途端、一度止まっていた私の涙も再び溢れる。
直ぐに私に駆け寄り、抱きしめてくれたカイト。
カイトの胸は温かく、それが私に切なさを感じさせた。
「うぅっ・・・・・・」
カイトの胸の中で身悶える私をカイトは強引に強く抱きしめ、私に押し付けるように強くキスをした。
強く、けれど優しいキス。
カイトの愛が私に流れ込み、私の痛みを少し和らげる。
・・・・・・けれど止まらない涙・・・・・・。
「俺を見て、俺への愛を思い出して。」
願う様に口にしたカイトの言葉。
「・・・・・・思い出さなくっても知ってる。
自分の気持ちだもの。」
カイトが、好き。
「・・・・・・けど、兄様を思うと・・・・・・。」
「ファストなら、もう知っている。
クーが説明していた。
種を飲んで直ぐに死ななかった事が既に、シータの気持ちの証明。
後はそれをシータが受け入れるかどうかなんだ。
それが出来なければお前は苦しみ続けるし、苦しみ続ければ体力も無くなり、死んでしまうと。」
そこまで言った時、廊下からこっちに近づいてくる重い足音が聞こえ、私達はびっくりしてその方向を見た。
ドアには、ドアにもたれ掛かかって立っている兄様がいた。
「兄様っ!」
「シータっ!」
私の声とカイトの声が重なる。
そしてカイトは私から離れ、兄様に駆け寄った。
「すまない。」
兄様はカイトにそう言って支えて貰う。
そして二人は見つめあい、何かの意思を交す。
そして兄様は頷き、カイトも頷き、そしてカイトに支えられた兄様が私の隣に来た。
一歩一歩がとても辛そうで、私は思わず手を貸したい気持ちになったけれど、私の体は重く、動く事が出来なかった。
「大丈夫か?」
心配そうに私の隣に座った兄様の頬に手を伸ばした。
「私より、兄様の方が・・・・・・。」
兄様は優しく微笑んで私の手に自分の手を重ねる。
ドアが閉まる音が聞こえ、見ると、カイトの姿は無く、カイトが出て行った事が解かった。
「俺は大丈夫。寝てれば直る。
お前達のおかげだよ。
・・・・・・俺は、お前の方が心配だよ。」
切なげな兄様の言葉で、私は兄様を見つめ返す。
「クーに聞いた。
・・・・・・俺は、お前が、好きだよ。
だから・・・・・・お前には幸せになって欲しいんだ。
だから・・・・・・婚約は解消しよう。」
搾り出すように言う兄様の言葉は、苦しいほど切なくって、私の心を締め付ける。
カイトから兄様が私の心を知ったと聞いたときに、きっと兄様なら・・・・・・兄様なら、絶対そう言うって解かっていた。
「俺を、見て。」
頬に触れた手が、強く私の心を掴む。
無意識に俯いていた事に気が付いて、私は真っ直ぐ兄様を見る。
「・・・・・・ごめんなさい。」
涙がとめどなく流れる。
「シータ、幸せになってくれ。」
言葉が返せない。
気持ちが決められない。
胸が・・・・・・苦しい。
「シータ。」
私の苦痛に気が付いたのか、兄様は私の頬に触れた手をゆっくり動かし、私の顔を優しく撫でる。
「しっかりしろ。
強くなれ。」
兄様の声、体温、空気、全てが優しく、愛に溢れている。
「・・・・・・私は兄様の愛に答えたかった。」
縋るように兄様にしがみ付く。
「シータ。」
優しく兄様が私を両手で抱きしめた。
「なら、自分の気持ちに正直になって、幸せになって。
それが俺の愛へ答える・・・・・・という事、だ。」
そこまで言うと、兄様は私に体をもたれ掛からせてきた。
「うっ・・・・・・。」
苦しげな声を一瞬上げる。
「兄様っ!」
「す、まない・・・カ、イト、を・・・。」
言われて、私は大きく頷いた。
「カイト!!
カイト、カイトーっ!!」




