「 魔 法 の 種 」
木々の隙間から私は二つの視線を見つけた。
深い闇の様な二つの視線は、私たちを真っ直ぐ見ていた。
魔、物・・・・・・
「きゃーっ!」
悲鳴を上げるよりも早く魔物はその木々の隙間から姿を現した。
体が大きい。
人間の大人の大きさの2倍程あるその魔物は、その体の大きさに不釣合いな程大きく太い手と足。
そしてその手と足に付いた太く鋭い爪の存在が一瞬で私の動きを封じ込めた。
兄様は私の悲鳴で魔物の姿を確認した。
そんな私に、魔物は何のためらいも無く飛び掛ってきた。
そして兄様と二人で馬に乗っている私に爪を引っ掛けて私だけを馬から落とした。
「キャーッ!!」
もの凄い衝撃で私は地面に叩きつけられた。
私が前に乗っていたせいで剣を抜くのが一瞬遅れた兄様はそれでも直ぐに馬から飛び降り剣を抜き、地面に落ちた私に駆け寄る。
私の悲鳴か、魔物の姿を確認したせいか、私達より少し前を進んでいたカイトも異変に気が付き駆け寄ってきた。
「シータ!!」
私の名を呼び駆け寄る兄様に、私は自分の前方4m程先を指差す。
「クーが!!」
私は落ちた拍子にクーから手を離してしまっていた。
「私は大丈夫。クーを早く!!」
悲鳴にも似た声で私は届かないクーに腕を伸ばす。
「大丈夫か?」
それでも兄様は私の肩を抱き、その場で私の無事を確認する。
その瞬間、魔物が再びもの凄いスピードで近づいてきた。
けれどその魔物は私達ではなく、クーに向かった。
「クー!!」
私が悲鳴を上げるのと、私から離れ、兄様が体でクーを守るのとが同時だった。
「キャーッ!!」
「ぎゃーッ!!」
私の悲鳴と、駆けつけたカイトによって真っ二つに切り裂かれた魔物の叫び声は同時で。
さっきまで静かだった森にこだました。
「兄様っ!!」
私は血まみれの兄様に駆け寄った。
駆け寄ると、兄様の背中には魔物の爪でえぐられた傷が見えた。
肉と骨が見え、それが傷の深さを私に教えた。
「ファスト!!」
魔物に止めを刺したカイトも兄さまに近づく。
「ミスった。すまない。」
瞳も開けられず、小さい呟きの様な言葉が私達の耳に届く。
「やだっ、目を開けて!!」
私は兄様に抱きついて懇願した。
むせ返る様な血の匂い。
とめどなく流れる兄様の血。
そこに混ざるとめどなく流れる私の涙。
「兄様、兄様っ!」
兄様の血の気のうせた顔からは、絶望しか感じられなかった。
そんな私が兄様を呼んだその時、カイトが私を強い力で兄様から離した。
「カイト?」
びっくりしてカイトを見たけれど、カイトはそんな私に見向きもせずに、兄様の背中の切り裂かれた服を思いっきり裂き、傷口を露にし、そこに両手をかざした。
「ファスト・・・・・・頑張れ・・・・・・」
カイトの行動が全く理解できず、只、只、見つめていた私の目の前で、兄様の傷口に翳されていた両手が強く光りだした。
「カ、イト?」
私は驚き思わず声を上げる。
「あれは、魔法だ。」
そんな私の隣で、いつの間にか目を覚ましていたクーが口を開いた。
ま、ほう?
いつだったか先生から聞いた事が有る。
先生の話していた伝説の中に、そんな名前の物が有った。
人間の力では決して出来ない事を、強い想いを不思議な力と変え、それを叶える事が出来るもの。
「けれど、この者一人の力では到底足りない。
この者のが天空の国の王族であるとすれば、種を持っているはず。
その種をお前が使う資格があれば、この傷ついた男を助ける事が出来るかも知れないけどな。」
兄様を助ける事が出来るの!?
・・・・・・話の内容が今一理解できなかったけれど、確かに兄様を助ける事が出来るかも知れないと言った。
私は、兄様を救う事が出来る種を持つと言われたカイトを見た。
カイトも私を見つめる。
「カイト、その種を持ってるの?」
問う私をカイトは見つめる。
けれど直ぐに首を振ってクーに視線を移す。
「そこまで俺の事を知っているなら、種を使う資格の意味も知るはず。
残念だがシータにその資格は無いんだ。」
苦しそうに吐き出すように話した言葉に、私は縋るようにカイトの背中を掴んだ。
「資格って何?
私に出来ることなら何でもするっ!!
持ってるなら私に種を頂戴!!」
私は叫んだ。
「やれるもんなら俺だってお前にやりたい。
けれど、種を受け取るには俺と気持ちが通じ合っていなくてはならない。
種を与える人間と受け取る人間の心が深く通じ合っていなければ、与えられた人間は死んでしまうんだ。
‥‥‥カイトを選んでいるお前には、その資格が無いんだよ。」
血を吐くように絶望をカイトが吐いた。
「俺の国は天空にある。
その国の皇子は魔法の力と魔法の種を持って産まれる。
そして大人になり、心を通じ合わせた人間に種を与える。
するとその種を飲んだ人間も魔法を使える様になるんだ。
但し、魔法の力は諸刃の剣。
悪い使い方をされない為か、心が通じていなかったり、悪い心で魔法を使おうとすると死んでしまうんだ。
だから使えないんだ。」
兄様に手を翳したままカイトはそう言った。
私は言葉を失う。
既に血の気の無い兄様。
そして、それに負けないくらい血の気の失せて来たカイト。
私には何も出来ないの?
私はクーに視線を送る。
まだ大分苦しそうな顔のクーはそれでもゆっくり立ち上がってカイトに近づいた。
「俺にはお前達二人の心は繋がっていると感じてるぞ。
俺を助けて目の前で死んでいく人間を見捨てると言うのも目覚めが悪い。
俺は魔物を近づけなくする力がある。
今は大分力が弱っているが、お前達3人位なら守ってやれるぞ。」
クーの言葉に、カイトは私を見つめる。
私はカイトに手を差し伸べる。
「後戻りは出来ないぞ。」
頷く私にカイトは腰に下げた荷物の中から小さい種を取り出した。
「口に入れるだけでいい。」
言われた通り私はそれを口に入れた。
種はその瞬間姿を消した。
私の胸でとても熱い物が産まれた。
「手をっ!」
カイトの言葉に、私は手を差し出す。
その手をカイトに掴まれ、兄様の傷の上に持っていかれた。
「ファストの傷が治ることを念じるんだ。」
焼けるように熱い胸に、私は悶えそうになりながらも、強く願った。
兄様、助かってっ!
兄様、兄様、助かってっ!
自分の手から光が放たれ、カイトの光と合わさり、とても大きな光となった。
これが、魔法。
初めて触れるはずの魔法。
けれど初めてでは無い様な感じもした。
そしていつの間にか私は意識を失っていた。




