「 行き場の無い想い 」
「見つけた!」
最初に気が付いたのはカイト。
その直ぐ後に、私も道の先に隊列の最後尾を見つけた。
声と同時にカイトは馬の足を更に速めた。
そしてどんどん追い抜く人々を抜けて、先頭から少し後ろを進む兄様達の乗った馬車にとうとう追い付いた。
「ファスト!」
馬車の隣に馬を着け、カイトは大きな声で兄様を呼んだ。
馬車の窓から、すぐにファスト兄様が顔を見えた。
驚きの表情が私とカイトに順番に何度も向けられた。
「止めてくれっ!!」
そしてファスト兄様の声で馬車は止まり、兄様の手によってドアが勢い良く開け放たれた。
「無事で、よかった・・・・・・」
言葉の途中から私は兄様の腕の中に居た。
痛いほど強く抱きしめられて、私は涙が流れた。
嬉しくって、切なくって、申し訳なくって、再会を純粋に喜べない事が、悲しくって・・・・・・・。
私の涙を感じた兄様は、更に私を抱く力を強めた。
眩暈がする程の抱擁の中、私は意識を失ってしまった。
これは体力のせいなのか、それとも心のせいなのか・・・・・・。
「悪い、起こしちゃったな。
・・・・・・ずいぶん顔色が悪い。
もう少し休んだほうが良い。」
「あぁ。そうさせてもらうよ。
正直起き上がれる自信も無い。」
「無理しすぎるからだ。
そんなに無理するようならシータは任せられないぞ。」
「・・・・・・あぁ、解かってる]
気をつけるよ。」
「・・・・・・もう休め。」
兄様とカイトの声が聞こえ、私は意識を取り戻していた。
兄様の言葉で会話は終わったようで、少しの沈黙の後私の上に影が落ちた。
兄様の視線を感じる。
きっと目を開けようとすれば開けられるだろう。
けれど私はジッと目を閉じたまま兄様の影をただ静かに感じていた。
どの位兄様は私を見つめていたのだろうか、暫くして兄様は立ち去って行った。
そして私は瞼をゆっくり持ち上げる。
そしてゆっくり視線を巡らせた。
場所は荷馬車の中。
色々な布団が回りに見えて、出発時にカイトによって運ばれた荷馬車と解かった。
そして布団の山の向こうに、膝から下の足が見えた。
カイトだ。
兄様は顔色が悪いと言っていた。
確かに旅の途中で何度かそう思った。
やっぱり無理をしていたんだよね。
私と一緒だから、余計な負担も掛けてしまっていた。
私はどうしてもカイトの様子が気になって、そっと、そっと、体を起こすと、カイトの顔が見えるところまで移動した。
―――――っ!
思わず息を呑んだ。
旅の中、カイトや兄様が疲れた様子は何度も見た事があった。
けれどそれでも私よりも体力のある二人は、限界という言葉には程遠い感じだった。
そんなカイトは、今、目の前で、見た事の無いほど衰弱しきった様子で横たわり、そして‥‥‥私を見つめていた。
目の下には、はっきりとクマが見え、顔色もとても悪かった。
けれどそんなカイトの目だけが強く。
私を真っ直ぐ見つめていた。
「俺の話を聞いて欲しい。」
真っ直ぐに見つめられた状態で、私は逃げることも出来ず。
けれど、体が震え出すのを止められなかった。
「ここへ座って。」
そう言ってゆっくりと体を起こす。
見た事の無い程辛そうな様子に、私は胸を締め付けられ、思わずカイトに腕を指し伸ばし、カイトの体を支えた。
「俺が、怖い?」
私の手の震えに気が付いたのか、そう言ったカイトの言葉に、私は小さく首を振った。
「違う。怖いのは私の心。」
そうか。
そう小さくカイトは呟いた。
「話を聞いてくれるか?」
逃げられるわけ無い。
私はカイトから少し離れた場所に座った。
けど、私は真っ直ぐカイトを見つめる。
震える両手をギュッと握り締めながら。
「気付いている様だけど、俺はある国の第一皇子だ。
俺の国の王は代々皇太子の内に旅をして、結婚相手を探すんだ。
ある事情から、本当に想い合える相手でなくては俺の国は滅んでしまうから、政略結婚なんて出来ないし、妥協も許されない。
俺の旅は、結婚相手を探す為の物では無かったけれど、漠然と、きっとこの旅に出たら運命の相手が見つかる。そんな気がしていた。
そしてお前を見つけた。」
カイトの視線が熱く、私を捉える。
「俺はお前を俺の国へ連れて帰りたい。」
余りのカイトの言葉の熱さに、私は眩暈がした。
思わず吸い寄せられそうになり、私はそれが辛くって涙がこぼれた。
「・・・・・・けど、シータ、お前にはファストがいる。
ファストが居て、国には家族もいて・・・・・・俺はその全てになりたいけれど、お前は俺を選ぶ事が出来ないんだよな。」
涙が止まらない。
カイトは私の気持ちを全て理解していた。
私のカイトへの気持ちと、兄様への気持ち。
カイトの深い愛情が私の心を熱く震え上がらせる。
カイトの胸に飛び込みたい。
カイトが好き。
カイトが好き。
カイトが好き。
カイトの国に行って、カイトの生まれ育った環境全てを見たい。感じたい。
そしてそこで二人で笑い合いたい。
「そんな目で見つめないで。
騙してでもお前を連れて行きたくなるよ。」
少しかすれたカイトの声。
切なげな瞳。
その全てが私を好きだと言っている。
「私だって、カイトが、好き。」
言うつもりの無かった言葉が私の口から発せられた。
とても小さな囁きの様な声だったけれど、それでもカイトの耳には届いた様で、カイトは私に引き寄せられる様にして私を抱きしめた。
痛いほどの力が私を包む。
その痛みが、私に兄様の腕の中を思い出させた。
ビクッと私の体が震える。
私は自分が抱きしめられるべき腕が“これ”では無い事を知っているんだ。
「・・・・・・やっぱり拒むんだな。」
小さいカイトの呟き。
けれどカイトは私を放さなかった。
「旅が終わるまで時間が欲しい。
今直ぐ諦める事が出来ないから。
それにまだまだ俺達は頑張らなくっちゃいけない事が残ってる。
それが終わった時、もう一度告白していいか?」
その時、私はどんな気持ちでその言葉を聞くのだろうか。
私は真っ直ぐに兄様を想っていられるのだろうか・・・・・・。




