「 戻 る 状 況 」
「さようなら。」
そう呟くように精霊様は言った。
「待って!」
私はすがる様に姿の見えない精霊様に必死に声を掛ける。
「もう、だめ、み、たい・・・・・・」
もう微かにしか聞こえない声。
「だめ、諦めないで!!」
そういいながら、私は実体の無い精霊様に手を伸ばした。
その私の手がギュッと力強く握られた。
「シータっ!」
そしてその声で目が覚めた。
目の前にはカイトがいた。
私の手を握って。
・・・・・・夢だったんだ・・・・・・。
私はホッと胸を撫で下ろす。
「大丈夫?
うなされてたよ。」
カイトが心配そうに私を覗き込む。
そんなカイトの顔色が少し悪いように見えた。
「ううん、大丈夫。
精霊様が地に落ちていく夢を見てた。」
私がそう言うと、カイトは私をそっと抱きしめて、額にそっと唇を当てた。
「そうか。
でも精霊様はちゃんと眠りにつけたんだ。心配しなくて大丈夫だよ。」
カイトの言葉に、私は頷く。
「うん。良かった。
・・・・・・カイトにも解かったんだね。」
「あぁ。いつもの様に精霊の気が穏やかに消えていったからね。
魔物も集まってきている訳ではないし。
・・・・・・・けど、やっぱり今までみたいに精霊の守りがあるわけじゃ無いから、もう城の窓の外に普通に魔物が居るけどね。」
言われて私はカイトから体を離した。
「もうここまで魔物が?」
「あぁ。けど、この場所に呼ばれて集まってきているわけでは無いから、通りすがりって位だよ。
ただ、避けてはくれないから、危険な場所になってしまっているけれどね。
けれどそれでも望みは有るんだから。
世界が平和になったら、この城は再びやり直せるはずだよ。」
私の顔をジッと見つめながらそうゆっくりと話すカイトに、私は再び頷いて見せた。
「うん。そうだよね。」
そう言った私の頭をカイトは優しく撫でてくれた。
部屋の中はとてもちらかって居た。
部屋に用意されていた小さい机意外にも会議に使う用の大きな机が持ち込まれていて、そこには本や地図や、良く解からない紙が散乱していた。
小さい机には果物が少しと水差しが置いてあり、私が目覚めるのをカイトがこの部屋で色々調べ物をしながら待っていた事が伺われた。
「私、どの位寝てたの?」
そう聞くと、カイトは1日と答えた。
「1日!?」
私はその答えに驚いて聞き返す。
今まで意識を失って一日で目を覚ましたことが無いからだ。
けれどそんな私の言葉に、カイトは頷いた。
「今回は早かったね。
けど、正直助かるよ。早くここを出発したかったから。
これ以上魔物が増える前にここを出てファストと合流したい。」
カイトの言葉に私の胸がドキッとした。
ファスト兄様。
今頃はまだ旅の途中のはず。
もう私とカイトが居ない事に気が付いているはず。
絶対に心配してる。
私は兄様の心を思うと、切なくって、悲しくなってきてしまった。
・・・・・・なにより、私は、カイトと、キスをしてしまった。
今回は一方的ではなく、お互いに求め合って・・・・・・。
もう直ぐ結婚・・・・・・そんな時に。
「・・・・・・シータ・・・・・・」
そんな私の心の動きに気が付いたのか、カイトが遠慮がちに私の肩にそっと腕を回した。
けれど私はその腕から反射的に逃げてしまった。
一瞬カイトの動きが止まった事に気が付いた。
カイトだって私の心がカイトに向いているという事に、あの時に解かったはず。
けれど、今私は兄様の名前を聞いただけで、カイトを拒絶してしまった。
・・・・・・あの時はもう追い詰められた状況で、自分の気持ちを止める物が存在しなかった。
けれど、状況が戻った今、私は確かに兄様の婚約者なんだ。
未来は確実に存在し、私はその未来を兄様と約束している。
私は思わず俯いてしまう。
そんな私の隣で、カイトは私の肩に伸ばした腕をそっと下ろした。
「さぁ、出発の準備をしよう。」
そういってカイトは私に背を向けて机の上の物のいくつかをカバンに詰め始めた。
「はい。」
私はそう一言返事を返すと、旅の準備を始めた。




