「 通 じ 合 う 心 」
出発の日の朝。
私は一杯のお茶を勧められた。
私はそのお茶を受け取ると、気付かれないように袖へと流した。
旅に出る準備は既に整っていた。
私は皆が出発して1時間後に精霊と話を始めるという段取りになっていた。
兄様は皇女と同じ馬車に乗り、カイトは私に付いていてくれるという設定。
けれど、もし本当に精霊と話をさせるつもりなら、絶対に兄様が私を置いていくはずが無いし、その話の後にどうやって逃げるかの話も全く無い。
私は自分が眠らされて連れて行かれる事を確信していた。
だから今日出される物には手を付けないと決めていた。
そして私は怪しまれないようにソファーで寝た振りをした。
そんな私の体はフワッと抱き上げられ、ゆっくり運ばれた。
カイトの香り。
ごめんね、カイト。
私は心の中でカイトに誤りながら自分が下ろされるのを待った。
そして暫く後、私は馬車の荷台に作られたベッドにそっと横たえられた。
そしておでこにそっとキスをして無言で立ち去るカイト。
私は一生懸命涙を堪えた。
そして、私は暫く様子を伺い。そして体を起こす。
辺りはバタバタと落ち着かない様子で、私の事を気にかけている人は居なかった。
私は布団の中に回りにあったほかの布団を詰めて人が寝ている様な膨らみを作った。
そしてその荷台からそっと抜け出す事に成功した。
数台先の馬車の外に兄様を見つけた。
・・・・・・ごめんね、兄様。
無事に戻れたら直ぐに合流するから。
そう心で誤りながらも、私は兄様を諦め、旅に出た日の事を思い出していた。
私は諦めないと心に誓いながらも、心の隅で再び兄様を諦めようとしている。
私はそんな自分の心を振り切る様に頭をブンブン振った。
そして再び辺りを見渡す。
・・・・・・カイト。
カイトの姿を見たいと思った。
カイトの香りがまだ私の心を包んでくれていた。
カイトの体温がまだ私を暖めてくれていた。
けれどカイトの姿は見つけられず、私は兄様とカイトに見つからないように急いで城に戻った。
精霊様、一緒に頑張ろうね。
私は自分のいた部屋に再び戻ると、バルコニーで下の様子をこっそり伺った。
兄様と皇女の馬車の姿は既に無かった。
そして次々に出発していく人々。
・・・・・・結局カイトの姿を見る事が出来なかった。
もう二度とカイトに会えないかもしれない。
「カイト・・・・・・。」
私は思わずその名前を声に出した。
その瞬間、ドアが開く音がして、私はびっくりして振り返った。
そこには肩で息を付くカイトの姿があった。
「ここに居ると思った・・・・・・。」
そう言いながら大きい歩幅で近づいて私をギュッと抱きしめた。
「一人でなんか行かせないよ。」
そう耳元で呟いたカイトの息がとても熱く、私の心を強く揺さぶった。
「どうしてここが?」
私の動揺ごと抱きとめるかの様にカイトは更に私を抱きしめる腕を強めた。
「シータの考えなんか、お見通しだよ。
・・・・・・本当は俺達に騙されていて欲しかったんだけどね。」
切なげな声。
私はカイトの気持ちを知り、胸が熱くなった。
もしかしたらもう二度と会えないと諦めていた。
それだけ危険な事をする。
それは十分解かっていたから。
そんなカイトに今、私は抱きしめられている。
再びカイトの香りと体温と愛情に包まれている。
思わず見上げた私にカイトは覆いかぶさる様にキスをした。
「一人でなんて、行かせない。」
熱い、唇。
私はその唇に、押し寄せる程の幸せを感じていた。
そして、私は気が付いた。
カイトが私にとってとても大きな存在だと言う事に。
カイトが、好きだという事に。
私たちは寄り添うようにゆっくりと精霊の所へ向かった。
精霊に何と話をしたらいいか話し合いながら。
カイトへの気持ちに気が付いたけれど、その事には触れなかった。
けれどカイトから体を離す事が出来ずに、私は抱き寄せられるがままにカイトに体を寄せて歩いていた。
「正直に。
この国から皆が出て行った事を話したい。
嘘は付きたくない。」
私の言葉に、カイトはそっと頷いた。
「解かってる。
けど、その理由を先に話そう。
皆が生き残る為なんだって。
それが少しでも希望にならないかな。」
「そうだね。私だったら、皆が生き残れるなら嬉しい。
ここで自分が皆を苦しめてしまうよりも、よっぽど。」
私の言葉にカイトはギュッと私を抱く力を強め、私の頬にキスをした。
「そうだよな。それが希望に繋がったら。
・・・・・・もしかして眠りにつけるかもしれない!
・・・・・・もし眠りに付いたら、世界が落ち着いた時、再びここで国を立て直せるかも知れないよな。城も土地も残り、他の場所に避難しているとは言っても、この国の人間も残っている。」
カイトの明るい口調。
私の心にも光がさしてきた。
「なんだか、上手く行く気がして来た。」
そして私たちは精霊の所へと着いた。
遠いような、短いような二人の道のり。
さっきまで途絶える事無く続いていた会話がピタッと止まり、カイトはゆっくりと腰を下ろす。
「シータ、頑張れ。」
そう言って差し伸べられた手を取り、私はカイトの腕に体を横たえる。
もう二度と目が覚める事は無いのかも知れない。
考えないようにしていた考えが一瞬頭に浮かび、私はカイトの首に手を回し、ギュッと抱きしめた。
「頑張るからね。」
自分に言い聞かすようにそう言った。
言いながら、意識がうっすらとし始めた事を感じる。
自然とカイトに回した腕から力が抜け、カイトから体が少し離れた。
そんな私を今度はカイトが抱きとめる。
「信じてる・・・・・・・愛してるよ。」
もう重くて開かない瞼。
けれどカイトのキスの熱さを感じた。
私も、カイトが、す、き、・・・だ・・・・・・よ・・・・・・。
キスの熱の中、私は心の中でカイトにそう告げた。




