「 告 白 」
「目が覚めたか・・・・・・」
目の前にはカイトがいた。
「・・・・・・兄様は?」
兄様と合流してから、こんな時、目の前にいるのはいつでも兄様だった。
目覚めたばかりでボーっとする頭で、私は深い意味も浅い意味も無く目の前のカイトにそう聞いた。
そんな私の目の前で、カイトの瞳が寂しげに揺れた。
「俺では頼りにならないか?」
カイトが小さく呟いた。
私はボーっとしていてその言葉の意味が解からなかった。
「・・・・・・えっ?」
私の聞き返しに、今度はカイトの瞳が熱く揺れた。
「・・・・・・俺はお前が好きだよ。
目の前の俺を見て。
目の前の俺の存在を知って。」
思考が一気にはっきりとして、思わず体が固まる。
カイトが私を・・・す・・・き・・・?
そんな私をカイトがギュッと抱きしめてきた。
カイトの温かさに包まれながら、その強さで痛みを感じた。
「・・・・・・好きだ、シータ。」
かすれた声で呟かれるカイトの告白。
何故か私はカイトの腕から逃げる事が出来なかった。
毎日考える。
魔法の事をファストに話そうかどうかを。
ファストに秘密にしている限り、中々シータに魔法はかけられない。
宿に泊まる事が出来ないとなるとなおさらだった。
日増しにシータの疲労は色濃くなり、ファストは勿論、何とかそれを軽くする方法を持っている俺には尚更、その様子がとても耐え難い物だった。
シータの様子がおかしい。
それに気が付いたのは朝食の時。
いつも食事は進みが悪い。
けれど今日はいつもより悪かった。
堪り兼ねて俺が食事を下げようとした。
けれどその前に、ファストがシータの食事を下げた。
俺は少しホッとする。
今まで俺はそれを我慢してきたからだ。
旅を続けさせる為に、気持ちを折らない為に、俺はシータを甘やかさない様にして来た。
そしてファストにあえてその役をさせていた。
二人で甘やかす訳にはいかないからだ。
勿論必要以上の甘やかしに始めは困ったり苛付いたりもしたけれど、今はファストも大分自重している。
けれど、シータの様子が今までの疲労とは違う気がする。
頭の端に、少し寄り道した所に以前世話になった者の家があった事を思い出す。
「顔色が悪いぞ、大丈夫か?」
シータの限界を感じ、俺は声を掛ける。
いつ意識を失ってもおかしくない。そんな様子に感じた。
「大丈夫。」
けれどシータはそう答えた。
その言葉に俺はショックを感じた。
こんな状況になってまでも俺に弱音を吐かないのか・・・・・・
「少し寄り道になるけど、休める場所がある。」
もうシータの意思は聞かない。
シータの返事が俺にそう決めさせた。
シータを心配しての俺の決定に、ファストが反対する訳も無く、シータは無言で従った。
暫くして、馬上で不安定なシータにファストが自分の所へ来る様に声を掛けた。
シータはそれに従い、ファストの胸に身を預けた。
俺は無言でシータの馬をひいた。
ファストの差し伸べた手には答えるのか・・・・・・。
ファストがシータを抱く姿は何度か見ていたけれど、この時、俺は今迄感じた事が無いほどの嫉妬を感じた。
あまりに大きすぎるファストと俺との差がとても悔しかった。
シータが自分に甘えない様にと自分で仕組んで来たせいでも有るのに、こんなにも弱ってさえも自分に頼ってきてくれないという事が、自分の胸を締め付けた。
俺はシータを部屋に運んだファストに魔法の話をした。
どうしても耐えられなかったから。
シータの苦しみを軽減する事が出来るのにそれをしないという事に。
けれど、ファストへの嫉妬心が俺に決定打を打たせたんだ。
そう考えると、自分がとても情けなく、惨めに感じた。
けれど、その話はその前から考えていた事でもあったのだからと自分の心に言い訳をしたりもした。
それが更に自分のプライドを傷つけた。
ファストは驚いた様子を見せたけれど、魔法の存在は人には話してはいけない事で、自国内でしか使うことが許されていないと話すと、それ以上は聞いては来なかった。
ただ、一言、“シータを頼む”と言っただけだった。
人との旅は初めてでは無い。
けれど、ここまで頼りに出来る人間は居なかった。
全てを話さなくても理解する洞察力。そしてそれを行動に移せる実行力。
俺はファストをとても信頼していた。
そんな男が守る女を俺は好きになった。
けれど俺はシータも好きだけど、ファストも好きだった。
その気持ちが今までの俺の気持ちを止めていた。
けれど、俺の中の何かに小さなひびが入ってしまった。
シータのあの状態での“大丈夫”が俺の心を小さく壊した。
シータの部屋に入りベッドに眠るシータの隣に座る。
そして胸元のボタンをいくつか外し、自分の手を滑り込ませる。
吸い付くような肌理の細かい肌。
触れているだけで気持ちいい・・・・・・
いつもなら無理やりにでもそこへ意識が行かない様にしていたけれど、今日はなかなか気持ちがコントロール出来なかった。
ファストへの罪悪感よりも、シータへの気持ちの方が勝っているんだ。
けれど目の前の青ざめたシータを放って置く事は出来ない。
俺は気持ちを一生懸命切り替え、集中し、シータに回復魔法をかける。
シータ、早く元気な顔を見せてくれ。
自分の体力が流れ出て行く感覚を感じながら、シータを想う。
シータの顔色はどんどん良くなっていき、寝息も落ち着いて来た。
・・・・・・シータ・・・・・・
いつもならとうにやめている頃合なのに、俺はシータの胸から手を離せなかった。
胸に触れているせいで、どんどん気持ちが大きく膨らんで行くのを感じた。
今直ぐシータを起こして、抱いてしまいたい。
そして、俺の全てをシータに教えたい。
俺の愛をシータに教えたい。
「ん・・・・・・」
シータが体を少し動かした。
俺はそれに驚いて胸に添えた手を挿しぬく。
そして俺は強く拳を握り締めた。
自分の気持ちを抑えていく自身が全く無くなっていた。
結局目が覚めるまで俺はシータの側から離れられなかった。
ずっと続く葛藤と戦いながら。
そんな俺に目が覚めたシータは開口一番“兄様は?”といった。
俺の心に更にひびが入った。
俺は我慢出来ずにシータへ告白してしまった。
驚きの表情を見せたシータを、俺は抱きしめていた。
俺の気持ちの強さを知って欲しかった。
手の届く所に好きな女の子がいて、その子が自分の目の前で、当たり前のようにほかの男の腕の中にいる。
そんな状況に、耐えられるわけがありません!




