「 進 行 」
「聞き込みをした結果、これからは宿で泊まれる事は殆ど無くなる。
精霊が消えたせいで、小さい町がどんどん無くなってしまっているからだ。
宿で休めないという事で、とても辛い状態になると思う。
どうしても、の時は俺達に言う事。
それから、これからは王宮を回る。
王宮には、力の強い精霊が居る。だから、消えてない可能性も強い。
そして、この先の旅・・・・・・魔物が出現する。
今まで遭遇しなかったけれど、これからは確実に遭遇していく。
だから対策としては、出来るだけ戦わず退避する。
無駄に危険は冒せない。
けれど、退避出来なかった場合は勿論戦う。
シータはその際、とにかく俺達の指示に従う事。
逃げるか、隠れるか。
そうしてくれないと、返って危険な状態になる。
状況を良く見て、俺達を信じて欲しい。」
そうして私達は再び出発した。
カイトの言葉の通り、勇者の町を出て、3日間、一度も町を見ていない。
ただ、どんどん朽ちて行く森に囲まれた街道を進むだけだ。
町で買いすぎと思える程に調達した食料も、見通しの立たない旅の為に、とても制限しながら食べている。
夜は街道から少し離れた森の中で、獣を避ける為に焚き火を絶やさぬ様カイトと兄様が順番に火の番をしながら休んでいる。
私は食欲が無く、けれど、無理やり口に運ぶ様に夕食をとり、そして、意識を失うかのように眠って・・・・・・そして朝を迎え、無理やり食事を取り、そして重い体を馬に預ける。
そんな繰り返し。
日増しに増す疲労感。
「シッ!」
そんな旅の中、私はカイトの小さい声に、自然と下を向いていた顔を上げた。
カイトの緊張した瞳。
私を見た後直ぐにカイトは“それ”を見て、そして、私も続いて視線を送る。
それとの距離は100m程。
木々の隙間から私もそれの存在を確認した。
私は、始めて、魔物を見た。
今まで見た事が無かったけれど、私はそれを魔物だと認識出来た。
パッと見た目はゴリラの様な感じでとてもゴツイ。
けれど、それは厚い毛皮に覆われていた。
大きさは自分が乗っている馬位。
口は大きく牙が見え、その牙で、サルを夢中で食べていた。
牙で肉を体から引き剥がして食べているその姿は、私の背すじを凍らせるには十分な物だった。
兄様が私と魔物の間に馬を移動させ、カイトと視線を合わせる。
私は魔物から視線をずらし、二人の様子を見る。
二人は指先で何か指示を出し合って、頷き合うと、私を見た。
来た道を戻る。先に行け。
示された手の動きで、カイトの言いたい事を理解した。
私は小さく頷くと、そっと馬の向きを変える。
ヒヒーンッ!!
その瞬間、馬が急に嘶いた。
「駄目だ、気付かれた!」
最初に大きい声を上げたのはカイト。
私はその声を聞きながらも、ドクドクと鼓動する胸を抱えながら夢中で馬を落ち着かせる。
「ファスト、シータを。」
カイトの声がする前に兄様は、私の元へ近づく。
「シータ、付いて来い!」
兄様の声。
私は必死にその声の方へ馬を向け、何とか走り出す。
「ウギャーッ!」
さっきの魔物の雄たけびの様な声が後ろから聞こえる。
こっちに向かっているんだろう。
「カイトッ!」
思わず馬を止め、振り返って私はカイトを呼ぶ。
「この程度の魔物なら大丈夫だ。早く行け!!」
カイトの返事。
「シータ!」
そして兄様の声。
私は瞬時に自分の取るべき行動を決める。
カイトを信じよう。
私は再び馬を走らせる。
カイト、カイト、カイト!!
私が再び馬を走らせたのを確認して、兄様も再び馬を走らせる。
「大丈夫、あの魔物はそんなに手ごわくない。」
そう言った兄様の声に被さる様に、魔物の叫び声が聞こえた。
さっきの声とは違う悲鳴の様な声。
私は思わず体をビクッと震わせ、振り返る。
「終わったな。」
私と同じように振り返った兄様がそう呟いた。
私達の視線の先では、馬から下り、魔物の血で赤く血塗られた大きな剣を手にしっかりと立っているカイトの姿と、その足元で二つに切り裂かれた魔物の姿が見えた。
その二つの姿は、私が今まで眼にして来た全ての物の中で、一番、残虐な物だった。
「キャーッ!!」
思わず悲鳴を上げ、その悲鳴で目が覚める。
目の前では、そんな私を驚いた様に見つめる二人の瞳。
その瞳は驚きの光を直ぐに消すと、直ぐに労わりを見せる。
「大丈夫、落ち着いて。」
兄様が直ぐに私の元まで来て頭をそっと撫でる。
「ごめんなさい。夢を見てた。」
馬の上の私に魔物が突然私に飛び掛って来た。
馬から落とした私を魔物が物凄い力で抑え付ける。
そんな事をしなくても恐怖で私の体は固まっているのに。
そんな私に魔物が粘ついて生暖かく気持ちの悪いよだれを私の首に垂らしながら鋭い牙を私に近づけて来た。
もう駄目だ・・・・・・
そう思った瞬間、兄様が私の上の魔物をけり倒し、私の上から退かした。
驚いた私の視線の先で、魔物が鋭い爪で兄様の体を裂いた。
その瞬間、私は自分の悲鳴で目を覚ました。
「兄様・・・・・・」
私は兄様の無事を確認するかの様に、兄様の体に抱きついた。
そんな私を兄様は優しく抱き返してくれる。
「大丈夫。大丈夫。」
何度も繰り替えす兄様の言葉を聞きながら私は再び眠りに落ちた。




