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「棺の精霊- そ の 心 -」


 夜が明け、精霊と話をする時が来た。

「体調は大丈夫そうだな。」

 私を覗き込むカイトに私は頷いて見せる。

「うん。」

 私の返事にカイトが満足げに微笑んだ後、私達は朝食を取って、棺に向かった。

 棺の前に3人並んだ時、カイトが兄様に視線を送った。


「前にも話した通り、シータは精霊と話を始めると、意識を失うんだ。

 いつもは俺が支えているけど。」

 そこまで言った所で、兄様は私に手を差し伸べる。

「俺が支える。」

 そう言って、私の手を取って、カイトを見る。

「どうしたらいいんだ?」

 その問いかけに、カイトは一瞬視線を伏せた。

 けれど直ぐに真剣な表情で顔を上げると、その場に座った。

「意識は急に無くなるから先に座っていた方がいい。

 そして直ぐに体を支える。

 本当にあっという間に意識を失うから、気をつけて。」

 言われてカイトの隣に兄様は座った。

 そして私の手をゆっくり引いて私を胸に抱く。


 私は意識を集中・・・・・・しないとっ!


 けれど、その兄様の胸に抱かれた状態に。

 そしてそれをカイトに見られているという状況に胸がドキドキして来てしまった。


 どうしよう。


 カイトにもこんな風に抱かれていたんだ。

 いつも手を引かれている途中から既に意識は無くなって来ていて、はっきりとこんな状態だと自覚した事は無かった。

 ・・・・・・瞳を閉じる。


 兄様の顔をこんな近くで見る事も、こんな風に兄様に抱かれている姿を見ているカイトの瞳も見る勇気なんて無い。


 ・・・・・・精霊様、精霊様・・・・・・

 そして心で呼びかける。

 ・・・・・・精霊様・・・・・・???・・・・・・




「・・・・・・シータ・・・・・・」

 何度精霊様を呼んだ後だろう。

 兄様の声が聞こえた。

 私はそっと目を開ける。

「-?-」

 状況を理解出来ない私は、私を呼んだ兄様をジッと見つめ、兄様の次の言葉を待った。

 兄様はそんな私をジッと見つめる。

 何かを知ろうと探ろうとするように。

 兄様も私と同じ気持ち?

 そんな私に兄様は小さくため息を付いて見せた。

 そして私から視線をずらした。


「カイト、代わってくれ。」

 悔しげな口調。


 兄様らしくない口調。

 いつでも皆から頼りにされて、それに見事に答えていた兄様。

 大勢の兵の前でも、友の前でも、家族の前でも、欠けた所を持たない兄さま。

 そんな兄様がこんな悔しそう様子を見せるなんて・・・・・・初めてだった。

「ごめんなさい。私が集中しなかったから。」

 とっさに誤った私に、兄様はいつもの優しい顔を見せた。

 そして、私に返事を返さないままに、再びカイトに視線を送る。

 その視線を受けて、カイトは私に近づくと、私に手を差し伸べた。

 

 一瞬躊躇する。

 兄様を見る。

 兄様は私に小さく頷いて見せる。


 それを見て、私はカイトの手を取る。

 体がゆっくり持ち上げられて、そんな私から兄様が体を離す。

 そしてその場に座ったカイトの胸に私は引き寄せられた。


 優しく握られた手がゆっくりと引き寄せられ、私はドキドキして来てしまった。


 駄目、駄目!

 私はそんな自分の心にストップを掛け、そして意識を精霊へと向けた。

 精霊様、精霊様・・・・・・

 そして直ぐに私の意識は遠のいていった。


 カイトの胸の温かさを徐々に感じながら。








「君は、誰?」

 はっきりした声に、私はゆっくり目を開ける。

 視界一杯の薄い茶色の光。

 色は薄いけれど、光は今までより強め。

 けれど、桜の木のそれよりも弱い。


 今までの経験で、私はこの光こそ精霊の“気”の強さと比例しているのだろうと考え始めていた。

「私はシータ。

 あなたを助けたいと願う者の一人。」

「俺を?」

 はっきりと性別を示唆する言葉。

 精霊に性別が有るの?

 ふと気が付いたその疑問を私はとりあえず捨て置く。

「ええ。

 この町はとても頑張ってる。

 貴方も。

 それがとっても伝わって来ている。

 ・・・・・・けど、とても疲れてきているのも感じるの。」

 私の言葉に、ほうっと息を吐く音が聞こえる。

「精霊の“気”が読めるんだな。

 その胸の印からも精霊の“気”を感じる。

 そんな人間に会った事が無いよ。

 不思議な少女だ。」

 そう言われて、私は桜の精霊との話をした。


「これから世界の状況はどんどん悪化して来る。

 私は今まで地下に沈みそうな精霊たちに、悪い物になってしまう前にと眠りを進めてきた。

 世界が平和になって、精霊たちが苦しまなくていい世界になるまで。

 けれどごめんなさい。

 今の貴方に私は何を勧めたらいいか解からないの。

 眠れば地下に沈む事は無い。

 けれど、確実に精霊の守りの力は無くなる。

 今この町はとてもぎりぎりの状態で・・・・・・そんな中、貴方の守りの力が無くなったらって思ったら・・・・・・。

 けれど、これ以上貴方に負担がかかって、貴方が地下へ沈んで、マイナスの“気”を放出したら、この町はきっと消えてしまう。」


 湖の精霊よりも少し状況を理解しているらしいこの精霊は、私の話に“解かっている”と悔しそうに呟いた。

「だから私は貴方にどちらを勧めたらいいか解からないの。」

 暫くの沈黙。

「けど、俺は同じリスクを負うなら、自分の力で頑張って行きたい。

 それに俺が眠りに付いた方がそのリスクは早く訪れる。

 なら、俺はこの町を守って行きたい。

 目が覚めたときに町が無くなっていた・・・・・・なんて、耐えられない。」


 はっきりと言い切った言葉。

「けど、途中でやっぱり自分が眠りたいと思っても、眠るには心を落ち着かせなきゃいけなくって・・・・・・逼迫した状況じゃ、そんな気持ちになんてなかなかなれないと思います。。

 それでも‥‥‥?」


 これは最終確認。


 きっと気持ちは変わらない。

 さっきの話し方で、私はそう感じた。


「・・・・・・ああ。」


 やっぱり。

 なら、私も心で応援していこう。


「がんばってください。この町が生き残れる事を私も祈っています。」


 私の言葉に、精霊は“ありがとう”と答えた。




 精霊との話が一区切り付いた所で、私は“あの人”に付いて聞いてみた。

 けれど精霊はその存在を知らなかった。

 そうこうしている内に私は自分の意識が薄れていくのを感じた。

「さようなら。そろそろお別れみたい。

 意識が薄れて、いく・・・・・」

 私がそう言うと、精霊は“他に質問は無い?”と聞いてきた。

 なので、私はさっきの疑問を聞いてみた。

 精霊の性別の話を。

 私の質問に、精霊はクスッと小さく笑った。

「俺は、小さな町の、棺がここに来る前からあった小さな神殿に居た。

 それがある日壊された。

 俺は自分が地下に沈んで行くのを感じた。

 悲しかった。

 この小さな町を守っていけると思っていたのに、突然それを絶たれてしまったことが。

 この町を守りたかった・・・・・・

 そう思っていたとき、ここに英雄と呼ばれる男の棺が運ばれてきた。

 その英雄には強い意志が有った。

 町を守りたい。

 きっとそう願いながら生涯を終えたんだろう。

 俺はその意思に引き寄せられた。

 そして俺はその英雄の意思とだんだんと同化していった。


 自分が移動出来るなんて知らなかったし、自分が人間の残留意志に同化出来るなんて思っていなかった。

 けれど、俺はこうしてこの棺の英雄と同化して、更に力を付けた。

 そして町は大きくなっていった。

 俺は精霊でもあり、英雄でも有るんだよ。


 ・・・・・・役に立てる話だといいけど・・・・・・・」


 最後はぼやけて聞こえた。

 そして私とこの“英雄の精霊”との話は終わった。

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