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「 ほんの少しの蜜月 」

「眠れない?」


 部屋の窓を前回に夜風に当たっていたら、ファスト兄様が私の部屋へやってきた。

「うん・・・・・・ここの精霊が何を望むのかなって考えてた。」

 私のいる所までゆっくりと歩いてくると、ファスト兄様は私の肩をそっと抱いた。

「体、冷えてるぞ。」

 暖かい兄様の手の温もりが心地いい。

「兄様の手が暖かすぎるのよ。」

 うっすら頬に感じる熱を隠すように私は少しふざけた調子で返事を返す。

 そんな私に、兄様はクスッと笑うと、窓の外に目を向けた。

「精霊の事が済んだら、この町で旅支度を整え直そう。

 これからだんだん寒い地方に入っていくから。

 ・・・・・・この先、いつ町を見つけられるかも解からないからな。」


 買い物?

「今はその事を一緒に考えないか?

 精霊の事は精霊が決める。

 俺たちにどっちがいいか判断が付かないんだからさ。

 体を包むマント、その下に着る長袖の厚手のシャツ。首に巻く厚手のストール、手袋と、ボアの付いたブーツも必要だな。」

 私の肩を優しく抱きながら、ファスト兄様は楽しそうに私を見つめる。

「お前との買い物は久しぶりだな。

 お前が城下町へ脱走し、それを追いかけて、そしてそこで買い物。

 ・・・・・・最後にしたのは婚約の少し前だったね。」

 クスクスと笑いながら兄様は昔の話をした。

 たびたび城を抜け出し私は町へと降りた。

 城で町の様子を耳にしたり、城には無い物の話を聞いたりすると、どうしてもジッとしていられなくなって、私はたびたび町へと降りた。

「だって、町には城に無い者が沢山あるんだもの。」

 私の事を笑う兄様に、私は少しふて腐れて、口を尖らせて言い訳する。

 そんな態度に、更に笑い声を上げて笑う兄様に、私は更にふて腐れてしまう。

 そんな私を見て、兄様は何とか笑いを堪えると、私の額にキスをした。

「ごめん、ごめん。

 けど、俺はそんなシータが好きなんだ。

 町の宝石屋で綺麗な石に見とれたり、雑貨屋で可愛い小物に見とれていたり、パン屋で焼きたてのパンに見とれていたり。

 そんなシータに石を買ったり、小物を一緒に選んだり、こっそりパンを路地の隅でつまんだりするのが、俺も楽しかった。

 そんな俺の隣で幸せそうに微笑むお前が愛しかったんだよ。」


 優しい微笑みに、私も昔を思い出す。


 私を慈しんでくれた兄様。

 私は兄様が城にいる時しか町に出かけなかった。

 “行きたい”と言えば、誰も許してくれない。

 私に甘かった兄様でさえも許してはくれなかった。

 けれど私が抜け出すと必ず兄様が探しに来てくれていた。

 私もそんな優しい兄様と過ごした町での時間がとても大好きだった。


「買い物に行ったら、沢山買おうな。

 持ちきれない分は俺が持つから。」

 また始まった兄様の甘甘病が今日は嬉しかった。

「兄様、大好き。」

 胸に頬を寄せる。

「俺もだよ。」


 そして幸せをかみ締める。


「もっとこっちへ。」

 そして兄様は私抱く腕に力を入れた。

 更に感じる兄様の胸の温もり。

 私は幸せに瞳を閉じる。


「ねぇ、来月が誕生日って覚えてる?」

 ゆっくりとした喋り方。

 うん、覚えてるよ。

 私は瞳を閉じたまま小さく頷く。

 もう旅をして2ヶ月が経つんだ。


「ねぇ、“誕生日に結婚”って約束も、覚えてる?」


 えっ?

 私は驚いて思わず閉じていた瞳を開けて兄様を見た。

「・・・・・・忘れてた?」

 あからさまにがっかりした表情の兄様。

「え、だって、うーん・・・・・・。」

 旅に出た時に諦めて・・・・・・旅で再会出来たのは嬉しかったけど、正直それ所じゃなかったし、私が旅をするだけで一杯一杯だったし、そんな雰囲気でも無かったし・・・・・・。


 止め処なく頭の中に言い訳が思い浮かんだけれど、その全はどう考えてもやっぱりいい訳でしか無く、私は言葉が出なくなってしまった。

 そんな私の様子を見て、兄様はフーッとため息を付いた。

「いいよ。そんなに困らなくて。

 軽くショックだけどね。」

 軽くニヤッとする兄様。

 私は申し訳なく思いながら兄様をギュッと抱きしめる。

 そんな言い方しないでよぅ。


「旅をするだけで一杯一杯だったもんな。」

 私の表情を見て、兄様は再び優しい表情に戻る。

 そして、見つめる先の兄様の瞳に、甘い甘い光が揺れた。


「・・・・・・でも、俺はお前が欲しい。

 旅を続けるとしても、結婚したい。

 お前と一緒に幸せを感じたい。」


 兄様の告白に、私の胸はドキドキした。

 兄様がここまで私を欲してくれている。

 それが堪らなく私の心を締め付けた。


「俺の物にして、いい?」


 返事なんて決まっている。

 私の心は兄様に。

 ・・・・・・兄様の心は私に。

 涙が頬を伝う。


「はい。」

 兄様が私の涙にキスをする。

 そして、そのキスがだんだん唇に近づいて、そして私の唇に触れる。

 キスが動く度に私の鼓動が早くなり、心がギューッと締め付けられる。


 どうしよう。こんな気持ちになった事無い。

 胸が苦しい。

 私は耐えられずに、思わず兄様の唇から逃げて、厚い胸に顔を埋める。


「・・・・・・シータ?」


 急にキスから逃れた私を不思議そうな声で呼ぶ。

 返事をしたいけど、言葉が出ない。

 言葉の変わりに抱きしめている腕に力を込める。


 逃げたけど、逃げたんじゃないの。


 兄様はそんな私の背に腕を回した。

「愛してるよ。」

 そして優しい呟き。

 私の気持ちをいつも理解してくれる。


「・・・・・誕生日の結婚、楽しみにしてるね。」


 本当に、幸せ。


 苦しいほどのドキドキから、心が落ち着く。

 けど、そんな幸せに浸っていた私から兄様は右腕を離し、その右手で私の顎をそっと持ち上げた。

「俺は、今直ぐお前が欲しいんだけどな。」

 甘く、そして悪戯っぽい声。

 そして、誘うような視線。

 さっきやっと落ち着いた心が一瞬で元通り。


 欲しい・・・・・・って、やっぱりそういう事だよ、ね。

 ・・・・・・私だって、知ってる・・・・・・侍女たちの話で。

 その話はとても刺激的で、とても最後まで聞いていられなかったけれど、いつか私もって思ってた。

 兄様と婚約したときは、兄様とって・・・・・・考えたら、私の胸は痛いほど高鳴った。

 胸が、胸が締め付けられて、苦しい。


 そんな私に兄様はキスをした。


 私は瞳を閉じて・・・・・・。

 いつもより長いキス・・・・・・


 って思っていたら、私の顎に添えた手に力が入り、私の口が少し開く形になった。

 と思った瞬間、兄様の舌が私の口の中にゆっくり入ってきた。


 ・・・・・・!!!・・・・・・


 体が固まる。

 兄様はそんな私の顎から右手を離すと、その手を私の頭の後ろに回した。

 そして一瞬唇を離す。

 そして、真っ直ぐ私を見る。


「愛してる。」


 兄様の口にした言葉。

 けれど口にしなくても解かる。兄様の瞳がそう言っている。

 そして、私の頭の角度を少しずらし、そして更に深く唇を重ねた。

 私は自然に兄様のキスを受けやすい様に兄様に回していた腕を離し、兄様の胸にそっと手を添えた。

 そんな私から兄様は唇を離した。

 そして私を見つめる。

 甘い瞳で。


 兄様の瞳を見ると、どうしても痛いほどドキドキして、私は思わず俯いてしまう。

「・・・・・・可愛いよ、シータ。」

 そんな私に、兄様の言葉。

 いつもの“可愛い”とは、絶対に意味が違う。

 そう確信させるだけの含みを持たせた兄様の言葉。

 そして、兄様の顔が再び私に近づくのを感じる。

 けれど私は顔を伏せたまま。

 自分で上げられる事が出来なかった。

 顔は真っ赤なのが鏡を見なくても解かる。

 痛いほど強く打つ鼓動。

 そして、顔を上げない私の直ぐ手前で兄様の動きが一瞬止まる。

 顔を上げるのを待ってる?

 ・・・・・・どうしよう。

 そう思った瞬間、兄様の顔が再び私に近づいて、そして、その唇が私の首に触れた。


 ・・・・・・!!!!!・・・・・・


 体がビクッと跳ねる。

 私の体の動きで兄様の動きが一瞬止まった。

 けれど直ぐに、兄様は私の首に、ゆっくり、深く、何度もキスをした。

 体の中心から痺れを感じる。


「・・・・・・あっ・・・・・・」


 思わず声が漏れる。


 こんな感覚初めて。


 何度も何度も位置を変え繰り返される首への深いキスに、私は体から力が抜けてしまい、思わず体がぐらついた。

 そんな私の体を兄様はグイッと抱き上げた。


「きゃっ。」


 いきなり抱き上げられて思わず小さく声を上げてしまう。

 そんな私を兄様は見つめて。

 けれど、今度は何も言わずにそのまま歩き出した。

 そしてベッドへ私を座らせた。


 えっ!?

 そして、隣に座った兄様が再び私にキスをしながら私の胸元のボタンを外し始めた。

 兄様ならいい。

 私も兄様と結ばれたい。

 ドキドキする心で私はそう思った。

「シータ?」

 兄様の唇が離れ、手の動きも止まる。

 そして、私は自分の両手が兄様の体を押し返している事に気が付いた。


「‥‥‥ごめんなさい。」


 気持ちに心が付いていってないんだ。

 無意識にしていた自分の行動に、私は戸惑いを感じながら兄様に謝った。

 ごめんなさい。もう少し待って欲しい。

 そんな私から兄様は体を離し、胸元のボタンに触れていた手を離した。


「いいよ。」


 そして、私の額に優しくキスをしてくれた。

 それはいつもの兄様のキス。

「お前の気持ちは解かってるから。

 ・・・・・・誕生日迄、待つよ。」

 優しい微笑。それはほんの少し苦しげにも見えた。

「ありがとう。」

 それまでに、心を整えて置くから。


「けど、それ以上は待てないからな。」

 甘く誘う瞳の兄様に、私はドキドキしながらも小さく頷いて見せた。

 待ってくれて、ありがとう。

 大好きよ、兄様。

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