「棺の精霊-その中の英雄-」
「シータは寝た。
俺は情報を集めてくる。夕食までには戻るから。」
宿に来るなりシータの部屋へ行っていたカイトが部屋へ顔だけ見せ、直ぐに出て行った。
何の話をしていたんだろう。
きっと精霊の話だろう。
けれど何故二人でなんだ。
俺には解からない話だからか?
いや、カイトはそんな事で俺を外したりしない。
・・・・・・けれど、シータの部屋に行くからと言ったカイトからは、二人で話したい・・・というオーラが出ていた。
カイトなりの考えがあって、そうする必要があったのだろうと俺は理解し、そして俺はカイトを見送った。
カイトの事は信頼している。
旅の事にしても、シータの事にしても。
あいつの視線が、シータを追い、シータを見つめる。そんな光景を何度か見た。
あいつはシータが好きなんだ。
それには直ぐに気が付いた。
けれど、それでもシータに関して、シータを傷つける様な事はしないだろうという確信がある。
それだけの確信を持てる位、あいつの視線がシータへの愛情を含んでいるんだ。
そんなカイトに信頼を寄せる純情無垢なシータ。
俺は嫉妬を抑えるのに必死な時も有る。
けれど、シータは俺をしっかり見ている。
シータの瞳から俺は愛情を感じる事が出来る。
そのおかげで、俺は自分を保つ事が出来るんだ。
階下がざわめき、そして、いい匂いが漂って来た。
そろそろ夕食かな。
そう思っていた時に、カイトは帰ってきた。
「収穫は?」
俺の問いかけに、カイトは満足げに頷いて見せた。
「まあまあかな。夕食の時に話をする。
・・・・・・シータは起きた?」
その問いに、俺は首を振った。
「ちょっと様子を見てくる。」
そして、俺は読みかけの本を置くとシータの部屋に向かった。
「シータ?」
俺がノックを控えて小さく声を掛ける。
「・・・・・・兄、様・・・・・・?」
中からまどろみの中のシータの声が聞こえた。
「ああ。」
「入っていいよ。」
シータの少しハッキリしてきた声を聞き、俺は部屋へ入った。
「ん~。」
俺の前で大きく伸びをするシータ。
宿に着いた時よりも顔色が良くなっていた。
「良く休めたか?」
俺の問いかけに、シータは大きく“うん”と返事をした。
「体が軽くなった。
やっぱりベッドでちゃんと眠るっていいね。」
そう言ってベッドから立ち上がって俺の方へ歩いてくる。
足取りもしっかりしている。
いつもなら一晩寝た後でも足はふら付いていたのに、たった2・3時間ベッドで寝ただけでここまで回復する物なのか?
俺はそれを不思議に思った。
「カイトは?」
既にしっかりとした視線で俺に問いかけるシータ。
「今帰ってきた。
・・・・・・夕食、食べられそうか?」
「うん。早く話が聞きたいわ。お腹もペコペコ。早く行こう。」
久しぶりに見るシータの笑顔。
やっぱりシータにはいつもこう有って欲しい。
「行こ。」
そう言って俺の腕に腕を絡ませるシータの額にそっとキスをする。
そんな俺の瞳を見つめ、嬉しそうに微笑むシータに、今度は唇へとキスをする。
今度は頬を染めるシータ。
俺の可愛いシータ。
そんな可愛いシータを連れて、俺は部屋を出て食堂へ向かう。
このままここに居たら、離せなくなりそうだな。
そんな事を考えるだけで俺は幸せだった。
「あの棺の中には数百年前・・・・・・と言っても昔過ぎて誰もその年月を把握していないらしいが、その昔にこの町が魔物に襲われて住民がただこの町の存続に絶望を感じていたとき、一人の若者が立ち上がった。」
定食を注文して、直ぐにカイトの話は始まった。
「その若者は状況を冷静に分析し、自分達が絶望を感じれば感じるほど魔物が増えていくんではと考えて、皆に気持ちを強く持つように言ったんだ。
そして皆で力を合わせて町の周りに防御用の塀を作るように指揮をし、せめて足を持ち歩いて来る魔物だけでもと防いだ。
だんだんと減ってくる魔物に、町の人間たちは再び希望を抱き、そして町は救われた。
若者はその後町長となり、人々に愛されて長く生きた。
そしてその若者が死んだとき、あの棺に入れられたんだ。
町を救った英雄として。
そして、再び同じような状況に陥ったときに希望を持って立ち向かう事を忘れないようにとその棺を大切に奉った。」
丁度食事が運ばれてきて、香ばしいお肉の香りと、かぐわしいきのこの香りが私達の食欲を刺激した。
「英雄様のお話ですか?」
料理を並べながらにこやかに宿の女将が話しに入ってきた。
「今日は丁度鹿の肉が手に入ったんだよ。
きのこは裏の林で育ったもの。
この町はまだ生きている。
それもすべて英雄様のおかげ。
周りの町が消えて言っているのは知ってるけど、この町は大丈夫。
英雄様の心が皆の胸にあるからさ。
心で負けちゃいけない。希望を持っていれば、魔物に負けないのさ。
そりゃぁ、他の町から流れてきた・・・・・・貧しく、心の荒れた人間が私達の生活を苦しめたりもするけれど、それに心が負けちゃいけないって皆知ってるんだよ。
あんた達、旅をしているならこの町以外の人間にも英雄様の心を伝えておくれ。
絶望に負けてしまわない様に、ってね。」
胸を張って英雄様の話をする女将に、私はこの町の強さの訳を知った。
「勿論です。」
カイトの真剣な、力強い返事を聞いて、女将は満足そうに調理場へ戻って行った。
「そういう事。」
そして私たちに順番に視線を送ってそう言った。
女将さんの言葉が全てを教えてくれた。
「けど、結局精霊はどうしたらいいんだろう。
この町ならこのままで精霊は大丈夫な気もする。
けど、この町の人からは疲れも見える。
だから絶対大丈夫なんて言い切れないよね。
だったらいっそ眠りに付いた方がいいのかな。
でも、そうしたら確実に守りの力も弱まるよね。」
そう。
この町の人達なら大丈夫。
そう信じたい。
けれど、”もしも”を考えてたら。
旅の途中で見てきた人気の消えたいくつかの村や町。
こんなに頑張っている人達のこの町があんなになってしまうなんて嫌だ。
今でさえ疲れが見える。そんな状況で、精霊の守りを無くす事が良いのか。
どちらを取っても大きい不安が有る。
「明日、朝、直接精霊に聞いてみよう。
町をずっと見守ってきた精霊にね。」
カイトが私の頭をクシャッと撫でて優しく微笑みをくれた。
「冷めないうちに食べよう。」
精霊の心を聞こう。
私も心で負けないよ。
頷いて見つめる先のカイトは、やっぱりやさしく微笑んでくれいた。




