「世界の異変と婚約」
今、ある国のある森に住む精霊が一人消えようとしている。
数十年前までこの森も沢山の緑の木があり、沢山の人々がこの森に立ち寄っては季節のめぐみを受けていた。
けれど、その人々を狙った賊が現れ、沢山の人々が襲われた。
そしてある国はその賊を討伐する為に森ごと焼いてしまった。
そして、賊と一緒に森とそこに住んでいた精霊も消えてしまった。
この“精霊が消える”という事件はこの国だけの話ではなかった。
世界各国で精霊たちは次々に消えている。
それに伴い、国同士の戦いも増え、世界は不穏な空気に包まれようとしていた。
けれど、そんな中、そんな空気とはまだ無縁の国もあった。
「姫様っ!姫様!!」
侍女のククルの声が聞こえて来た。
さすがククル。
私がここにいる事にすぐ気が付くんだもの。
「姫様、出てきてください。
ファスト様がおさがしですよ」
最後の言葉に、私はビックリして木の陰から姿を表す。
「・・・・・・やっぱりここにいたのですね。」
場所は庭園の中心。さくらの木の下。
ここは私の大好きな場所。
この木にはこの城を守る精霊が住んでいる。
ハッキリと姿を見た事は無いけれど、ここに居ると心が安らぐ。
「ファスト兄様が?」
私はさくらの木の幹に手を添えながらククルに声を掛ける。
「はい。自室まで連れて行くとの約束をいたしましたので、どうぞ、お早めに。」
ゆっくりと私に近づいて私に手を差し伸べながらククルはそう言った。
「さぁ」
そう言って私の手を優しく取ると、ゆっくり自分の方に引き寄せ、ハンカチを取り出すと私の涙に濡れた頬を優しく拭ってくれた。
「全く私のお姫様は」
そう言ってクスクス笑いながら私の頭や服に付いた土やさくらの花びらを優しく落としてくれる。
「ねぇ、とうとう兄様は婚約するの?」
私はそんなククルに抱きつきながらそう聞いた。
「姫様、私達の耳に入る殆どが、事実に沿わない噂ばかり。
先ほど姫様が耳にしたのもそんな侍女たちの話。
真実はファスト様が持っておられます。
・・・怖がってはいけません。
全ては真実を知る所から始まります。
もしその真実が姫様を悲しませる物ならその時こそは私がこの木の下で慰めてあげます。
さぁ、まずはファスト様の所へ。」
ククルは私を抱く手にギュッと力を入れると、自分の体から私を起こした。
優しいククル。
そして、大好きなククル。
ククルは決して私を甘やかしてばかりはくれない。
けれど、それはククルの愛情だって知ってる。
私はククルに大きく頷いて見せる。
このクル王国の第一王子のファスト兄様が、いつまでも独り身で居られる訳は無いと私だって知っている。
私だっていつかはどこかへお嫁に行く日が来るんだという事も。
物心つく前からずっと好きだった優しいファスト兄様。
誰にも負けない頭脳と、剣の腕前も私の自慢。
そして誰よりも私を大切にしてくれていた。
そんな兄様が、いつか私よりも大切にする誰か決める日が来る事を知った時から私の恋は始まった。
年を重ねるに連れ、兄様は逞しく、かっこよくなっていった。
そんな兄様が大好きで大好きで、私は現実を忘れ兄様の隣で幸せにすごして来た。
たまに現実を思い出し悲しい夜も有ったけれど、そんな日はククルが傍にいてくれた。
そして朝になればファスト兄様が私を幸せにしてくれた。
・・・・・・そんなファスト兄様に婚約の話が持ち上がった。
今までだって、何度も何度も来ていたけれど、今回は違う。
城の皆が浮き足立っている。
きっと話が進み始めているんだ。
20歳を迎えようとしているファスト兄様には遅いくらいのお話。
私にだってこれまで何度も結婚の話は来ていた。
けれど私はファスト兄様が結婚する日までファスト兄様と一緒に居たいと決めていた。
これから私たちはどうなるんだろう。
――――不安――――
・・・・・・けれど、やっぱりこのままではいけないよね。
「やっぱり私の姫様は素敵です」
歩き出した私に、ククルは優しくそう言ってくれた。
兄様の部屋をノックする。
「・・・シータ?」
兄様の声が聞こえ、私は返事をする。
コツコツと兄様の足音が聞こえて扉が開く。
「お待たせして、ごめんなさい。」
私を見つけて歩み寄ってきてくれたファスト兄様に私は俯きながらそう言った。
「かまわないよ。」
そう言っていつもの様に私の手を引き、自分の方に引き寄せる。
「ククル、ありがとう」
そしてククルに声を掛ける。
ククルはそんな兄様に一礼をすると、その場を去って行った。
「大切な話があるんだ。」
ククルが去って、更に心が不安で押しつぶされそうな私に、兄様はそう言って私を椅子へ座らせた。
「シータ。泣いていたんだね。」
私のあごに軽く指を掛け、私の顔をゆっくり持ち上げる。
そして泣きはらした私の瞼に優しくキスをしてくれた。
優しいファスト兄さま。
私が泣くと、いつもこうして優しくしてくれる。
・・・けれど今はそれも辛い。
再び流れ出す涙。
そんな私をファスト兄様は優しく抱きしめた。
「シータ、その涙の訳を聞いてもいい?」
私の体がビクッと震える。
「その涙は、俺のせい?」
私は答えられずに居た。
アルファ兄様を困らせる訳にはいかない。
「その涙が俺のせいだとしたら、俺は嬉しいんだけどな。」
えっ?
「・・・・・・俺はお前が好きだ。
妹として。そして、一人の女性として。」
私はビックリして顔を上げた。
ビックリするくらい真剣な表情の兄様。
私を一人の女性として好き?
信じられない様な言葉。
けれど兄様の真剣な瞳がその言葉が真実だと教えてくれている。
私はファスト兄様の瞳に吸い込まれる。
「・・・兄様。」
私は震える手で兄様の頬に手を触れる。
そんな私の手に上から覆い被さる様な大きい兄様の手が重なる。
「シータの聞いた俺の婚約の話。
今まで度々話は来ていたけれど、お前がもう少し大きくなって 自分で将来を考えていける年になる迄と断り続けていた。
けど、もうそろそろこのままの状況では居られない年になってきた。
シータが俺を選んでくれるなら、俺はお前を絶対に幸せにしてみせる。
全ての障害から、お前を守りたい。
けど、シータが俺を兄としてしか見られない様なら俺は今回の婚約の話を受けるつもりだ。
ゆっくり考えてくれて構わない。
自分の心をよく見つめて、自分の正直な気持ちを聞かせて欲しい。」
一言一言想いを込めて兄様は私に自分の気持ちを伝えてくれた。
夢のような言葉。
考える時間なんて必要ない。
私は兄様に抱きついた。
「兄様、私もずっと兄様が好きだった。」
兄様は私をギュッと抱きしめてくれた。
「幸せにするよ。」
耳元で聞こえるファスト兄様の声が、いつもよりもとっても優しく、そして甘く聞こえた。
兄様と私はその日のうちにお父様とお母様に私とのに婚約の許しを貰いに行った。
兄弟での結婚は余り前例が無く、お父様とお母様は少し考えていた様だったけれど、基本私に甘く、私が他所の国へ嫁ぐよりはと了解をしてくれた。
「こんなご時勢、本当なら他国との繋がりを強くする為に、自国内での婚姻なんて勿体無いんだけれど、幸いこのクル王国は他の国と違って荒れて来ている訳では無いし、あなたたちの幸せがそこにあると言うなら、私達は祝福しましょう。」
双子ジノとジル兄様も祝福してくれた。
「おめでとう。
アルファ兄様とシータなら、この国が他の国の様に荒れて行く事も無いだろう」
そして、私達は晴れて婚約をした。
1年後への結婚を夢見て。
拙い文章ですが、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです!!
小説は一応最後まで出来ています。
順次修正をかけつつ掲載していく予定ですので、よろしくお願いします。




