6・卵と巨匠とセンセー?!
しばらくして、佐藤センセーが調理室に入ってきた。
「お、ちゃんと身支度できてるな、関心関心。
すぐ部活始めるから、手をちゃんと洗っておけ」
そういうとセンセーも身支度を始めた。
昨日のエプロンとは違う、モスグリーンのやつだ。
三角巾は白で、昨日との違いがイマイチわかんないけど。
アタシとチアキは石鹸で丁寧に手を洗い始める。
食べ物を扱うときはきちんと手を洗いましょう。というのはよく聞くけど、
実際のトコロ、面倒くさいな。なんて思ってた。
だって火を通したらなんでもおんなじジャン?
でも、センセーは『食べる人のことを考えてきちんと手を洗うんだぞ』と昨日言ってたっけ。
――アタシの料理を食べる人――
アタシの場合、やっぱアツムだよね~。
アタシは手を洗いながら、ちょっとニヤニヤとしてしまう。
早く料理上手になれるようにがんばるぞう!!
「よし、準備できたな。今日はお菓子を作るぞ。
みんなの大好きクッキーだ」
センセーはそう言うと、クッキーの作り方を黒板に書き始める。
たぶん、アタシに分かりやすくするためだと思うんだけど、
卵の割り方まで書いてあるのがちょっと恥ずかしい……。
「咲。卵はあんたに任せるよ」
隣にいた千秋がアタシに言った。
「え? なんで?
チアキのほうがうまいじゃん。
アタシはやりたくないなぁ~」
昨日、散々な結果だった『卵割り』はできればやりたくない。
「なに言ってんの。
練習あるのみでしょ?
料理上手な人なら『片手』で割っちゃうんだからね! 」
「か、片手で? 」
両手でやってもうまく割れないアタシには、
それはもう神の領域ってやつだ。
そんなのは『巨匠』とか言われる人の技であって、
アタシたち、一般ピーポーには関係ないってやつなんじゃ??
「多分先生も割れるんじゃないかな? 」
チアキはそう言うと、「先生って卵片手で割れるんですか? 」と質問した。
センセは黒板にレシピを書きながら「ああ、出来るけど? 」と言う。
き、巨匠がこんな近くにいるとは……、佐藤センセー恐るべし!