全然わかんないよ。
「咲ってばアツムさんにアタシの名前喋ったんでしょ? 」
「名前? 」
……言ったような、言ってないような……アタシの曖昧な記憶は本当におぼろげで、どうしても思い出せない。
「ほら、ここに名前書いてあるじゃん?
それをみてアツムさんが声掛けてきたの」
チアキの指が指すのは、ちょうどおなかの横あたり。
そこにはハート形のネームプレートがあり、ローマ字で名前が書いてある。
部長が「指名とかされたりして~?」なんて冗談交じりに言ってたやつだ。
服が結構アレなので存在自体忘れてたけど、まさか本当に名前を見ている人がいるとは……。
しかも、アツムが見てたのかぁ。
なんだかフクザツ。
アタシが眉間にしわを寄せているとチアキは軽く笑いながら「咲が居ないから私に声かけたんだよ」と言った。
「咲の友達のチアキさんですよねって……そうそう、アツムさんってかっこよかったね!
咲が夢中になるのわかるなぁ。
だって咲のタイプの人なんだもん。
咲ってさぁ、結構面食いだよね――」
「で、アツムなんて言ってたの?
まだアタシアツムに会ってないんだけど」
チアキの言葉をさえぎってアタシはアツムの事を聞いた。
だって、アタシまだアツムの声だって聞いてないし……。
「あ、えーっとその……用事があるから帰るって伝えて欲しいって」
チアキはアタシから目をちょっと逸らして小さく言った。
「え? なんで?」
アタシはその場にへなへなと座り込んでしまった。
ちょっとは会えるかなって期待していたのに、なんか寂しい……。
「なんかちょっと前に言ってた……何てったっけ?
あの、親が決めてた婚約者とかって人? あの人絡みでちょっとごたごたがあったからって。
本当は今日これないはずだったんだけど、咲の顔を見たかったからって言ってたよ。
あ、後で電話するっても言ってた」
「なに? それ?? 何がどうなってるの??」
もう終わったはずの話が急に出てきて、アタシは頭ン中がぐちゃぐちゃになった。
チアキは「詳しいことはあとで電話するらしいよ」と言ってくれたけど、アタシは不安でいっぱいだ。
やっぱりアタシは『仮の彼女』のままだったの?
アツムに嫌われちゃったのかな……。
そんな事ばかり考えてしまう。




