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マスコットキャラはベア蔵くん

「あっ!」


ぶつかった拍子に、アタシは後方へ跳ね飛ばされバランスを崩した。


ぜったい転んじゃう!


いくら廊下が絨毯敷きで覆われていても、転ぶと結構……いや、かなり痛い。

周りを見るとなぜかみんなの動きが止まって見えた。

止まる?……いや、よく見ると止まっているんじゃなくてすっごくゆっくりなのだ。

まるで止まってるみたいに。

これってスローモーション? ってやつかな?

そういえば綾実が『動体視力がばっちりあると、ものがすごくゆっくりに動いているように見える』って言ってたっけ。


 アタシはそんなことを思いながら、ゆっくりと動く風景とは真逆の、どうしようもない体勢にがっかりする。

あぁ。

このまま転んだらたぶん足首ねんざしちゃうかも。

ねんざするのはちょっとこまるなぁ。

人があんまりいないのに、アタシまでリタイヤできないよね……。


でも、どうすることもできず、アタシは目をぎゅっと瞑った。


――ふわり。


あれ? なんか変。


どう考えてもアタシの体勢が修正されている。


「大丈夫? 」


アタシの耳元で心配そうに囁く声が聞こえた。


ふと気付いたんだけどアタシってば後ろから『ぎゅっ』ってされてて……。

あ、でもそのお陰で転ぶことはなかったんだけど、でも、ちょっとあのそのぉ……っ!

も、ものすごくラブラブな馬鹿ップルみたいな体勢なんですけどぉっ!!


アタシがなんとも言えなくて固まっていると、耳元でまた心配そうに声を掛けてくれる。


すっごく優しい声で、なんだかほっとしてしまうような、そんな感じなんだけど……。

でもでもっ! すっごく恥ずかしいんですっ!!

ほ、ほら……近くの人たちもなんか『あーラブラブですね』みたいな目で見ちゃってるしっ!


「せ、センセェ。アタシは大丈夫ですから……」

アタシは消え入りそうな声で顔を紅くしながらそう言うとセンセーはアタシをそっと離した。



「怪我がなくてよかったよ、それにしても駄目だぞ?

廊下を走っちゃ。それに前もよく見ないとな」


センセーはそう言ってアタシに目配せした。


アタシはセンセーの視線の先を見て、かなりあっけにとられてしまった。


「こ、これ……」


 確かにアタシは前をよく見て歩いて……モトイ、走ってなかった。

で、人にぶつかったと思ったんだけど、それはでっかいクマの置物。

毎年文化祭のマスコットキャラとして不動の地位を治めているベア蔵くんだったのだ。


人寄せとかわいらしいオブジェを兼ねて文化祭開催中は校舎内にたくさんの「ベア蔵くん」が点在している。

その中でもアタシがぶつかったのはかなりの巨体クラスのベア蔵くん。

これは部長が『ベア蔵くじ引き』で見事当てたやつだ。


「ホント、ぼやっとしてると危ないよ!

先生がいてくれなかったらヤバかったってっ!

なんつー勢いで激突してんのっ!」


 こつんとアタシの頭をたたいたのは、喫茶店から出てきたチアキ。


「ご、ごめん……」

 ぶつかったところまで見られていたとは……。

アタシはちょっとかすれた声で答える。


チアキはやれやれと言いながらぺたんとアタシの鼻の頭に絆創膏を貼った。


「ちょっと鼻のとこむけてたよ。

あと先生。

裏方の方手伝ってもらってもいいですか?

私たちだけじゃちょっと回らなくて……」


「繁盛しているみたいだもんな。

そういうことなら任せておきなさい!」


 そう言うとセンセイはにかっとわらってみせた。


 そろそろお昼時と言う事もあってか、アタシ達の喫茶店は結構なお客さんで溢れかえっている。



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