スマイルは0円です。
アタシは体をぐんと伸ばしてから、近くにあった注文票とボールペンををエプロンのポケットにしまうとウエイトレスさんの仕事に従事することにした。
営業スマイル。
営業すまいる。
――なんだかほっぺたのあたりが変に痛い。
営業スマイルって意外と大変なんだな~。
自然に微笑むってのはかなりむずかしい。
そんなことを思っていると、なかなかのイケメンくんがメニュー票を眺めている。
一人、なのかな?
それとも待ち合わせ?
近くの席の女の子たちがちらちらとイケメンくんのほうを横目で見ている。
川原さんとかアツムとかとはまた違うタイプ・・・。
そんなことを思っていたらそのイケメンくんに声を掛けられて焦った。
「あのすみません。
――お勧めBセットを一つお願いします」
「はい!
お勧めBセットを一つですね。
かしこまりました」
アタシはちょっと焦りながらも、ウエイトレスに専念する。
……笑顔はかなりぎこちなくなっちゃったけど。
「お待たせいたしました。
お勧めBセットです」
アタシが営業スマイルで注文の品を置いたとき、がしゃんという音が教室中に響いた。
「ぶ、部長?!」
驚いて振り向くと、部長が倒れている。
少し青ざめている彼女の顔は、まるで陶器で出来ているかの様だった。
「――ヒナっ!」
そう言って倒れている部長に駆け寄ったのはあのイケメンくんだ。
「……あ……ごめん、ユキ。
急に……ふらっとしちゃって……」
部長はか細い声でイケメンくんに話しかける。
「あんまり喋るな。
――もう大丈夫だから」
彼は部長を軽々と持ち上げると急にアタシに向かって言った。
「保健室は? 」
「こ、こっちですっ」
アタシは戸惑いつつも、イケメンくんを保健室へと案内した。
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「鈴木さん、あまり無理しては駄目よ」
保健の先生――滝田先生――は多少顔色のよくなった部長を嗜めるとゆったりと髪をかき上げた。
ちなみに鈴木というのは部長の名字で、『鈴木 比奈季』という。
「だって、みんながんばってるのに……」
部長は滝田先生に向かってちいさく抗議した。
「それが駄目なの!
あなたは体が弱いんだから、無理は駄目だと知っているでしょう?
それに、倒れられたら部のみんなだって驚いてしまうわ」
「……ごめんなさい……」
部長はアタシの方を見て、小さく呟く。
「大丈夫ですよ!
部長の分までアタシ達がんばりますから!!
だからゆっくり休んでくださいね! 」
アタシはガッツポーズを作って、やる気満々のアピールをする。
部長はふわりと笑うと「ありがとう」と言った。
ぶ、部長!
なんて罪作りな笑顔なのかしら!!
なんだかドギマギしちゃったアタシはふとイケメンくんの方を見た。
彼氏さん……なのかな?
部長の笑顔で少し顔を赤らめている彼。
すると彼はアタシの視線に気づき、ぺこりと頭を下げながらこう言ったのだ。
「不出来な姉がお世話になりました」
あ、姉?!




