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チラシとメイドと王子様

「俺にもチラシもらえるかな? 」

 不意に後ろから声をかけられて、アタシは営業スマイルで振り向きながらチラシを渡した。


「どうぞ来てくださいね」そういいながらその人物を見ると……。


「か、川原さん! 」

「やぁ。 やっぱり咲ちゃんだったんだねー」


 にこにこと笑顔で笑う川原さんはやっぱりカッコイイ。

 だってほら、女の子からの視線がなんかいっぱいきてるし。

 ……痛いくらいに。


「咲ちゃんとこは猫耳メイド喫茶なんだ」


 川原さんはチラシとアタシを見比べてなぜかうんうんと頷いている。


「こ、これは……アタシの趣味とかじゃなくて――あの、先輩たちの希望と言うかなんと言うか……」

 

 自分の姿を改めて思い知らされちゃったアタシは、なんだかとっても恥ずかしくて思わず顔を赤くした。


「似合ってるからいいんじゃない?

咲ちゃんかわいいし! 」


 川原さんはお日様みたいな笑顔をアタシに向ける。


 うわー。なんかまぶしいです!

 

 ――王子様マジック? なのかな?

 あんなに恥ずかしくてたまらなかったこの衣装だけど、川原さんが『似合ってる』って言ってくれただけで全然恥ずかしくなくなっちゃった。


 う~~ん。不思議。


「あ、咲ちゃんたちがメイドさんなら、翼は執事みたいな格好?

それとも……メイドさん? 」


 語尾のほうは笑いをこらえているので良く聞き取れなかったけど、川原さんはセンセーの服装に興味があるらしい。


「メイドさんだったらびっくりですよ。

センセーは普通の格好ですよ? 部員じゃなくて顧問なんだし」


 アタシがそう言うと川原さんはさも残念そうに「なぁ~んだ!」と口を尖らせた。


「アイツ俺が『文化祭のチケットくれ』って言ったらさ、『絶対やらねー』って言って、ホントにくれなかったんだぜ?

だから絶対変な格好してたりするに違いないって思ったのになぁ」


「え? じゃあチケットは……? 」


 アタシがそう言うと川原さんはニコニコしながらチケットの半券を見せた。


「なんか会社のヤツがチケット持っててさ、拝み倒してもらったんだ。

本当は一緒に行こうと思ったんだけど、いやだって言われちゃって…」


 川原さんは少し苦笑いをした。


 ――アタシ、また余計なこと聞いちゃったのかな――?

 そう思った瞬間川原さんはにやっと笑ってこう続けた。


「『ナンパばかりする奴と一緒に行けるか。恥ずかしい』ってね。

翼にもよく言われるんだけど――俺そんなにナンパばっかしてないんだけどなぁ。

ちょっと女の子とお近づきになりたいだけで!」


「……それを世間では『ナンパ』って言うんですよ」


「あ、やっぱり?」


 川原さんはアタシの頭をぽんと軽く撫でて「じゃあチラシ配り頑張ってね」と言うと爽やかに去っていった。


 ふと周りを見ると、女の子たちの視線は川原さんに釘付けで……。

 ナンパなんてしなくても女の子の方から寄ってきそうな気がするんだけどな、なんてぼんやり思った。



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