4・明日の準備
「はぁぁぁぁぁ~~っ」
アタシは何度目かのため息をついた。
何度考えても恥ずかしい!
ありえない!
最悪!
おなかを抱えて笑っているチアキは、まあ、置いておいて。
センセーのあの、かわいそうになあって感じの目!
その後の、「明日は特訓」とかって言うセリフ!
まるで、スポコンみたいじゃないですかー!!
大体、特訓って何やるの?
また玉子焼き(もどき)でも作らされるの??
う~ん。憂鬱だ……。
そんな気分のまま、アタシは制服をベッドに脱ぎ捨て、
長めのTシャツにレギンスというラフな格好に着替え、下に下りていく。
「ねえ、おかーさん。
アタシのエプロンってどこだっけ? 」
台所で忙しそうに夕食の準備をするおかーさんに声を掛けた。
「え? 咲のエプロン?
……あったっけ? 」
おかーさんは振り向きもせず、おなべの火を弱火にする。
この匂い……。今日は煮物だな。
「エプロン、なかったっけ? 」
「あんた料理全くしないからねえ。
あ、確か美季がエプロン持ってたわよ。
それを借りたら?
――それにしても、どういう風の吹き回し?
咲が料理でもするの? あ、もしかして――」
「ガッコウで使うの。
じゃあアタシ美季に聞いてくるよ」
アタシはおかーさんの話をあわてて遮った。
なんかいらないことまで、根掘り葉掘り聞かれそう~!
危ない、危ない。
アタシは階段を上がって、自分の部屋の隣にある美季の部屋の戸をノックした。
あ、ちなみに美季ってのはアタシの妹。
ちょっと生意気な13歳の中学生なのだ。
「美季居る? 」
「なに? 居るけど。 勉強してるから邪魔しないでくれない? 」
ほらきた。ドア越しに聞こえるのは不機嫌そうな返事。
生意気娘め! かわいくな~い!
アタシは美季の話を無視して勝手に部屋の中に入る。
「ちょっと! まだ良いって言ってないでしょ?
勝手に中に入ってこないでよね」
美季はシャープペン片手に文句を言う。
ほんと生意気だ!
ちょっと前までは『お姉ちゃん。おねーちゃん』ってアタシにくっついてきてたのにぃ!
「……エプロン明日使うんだけど、美季の使わないエプロン貸してよ。
おかーさんが美季に借りろって言ってたし」
「えー。お母さんがそう言ったの?
……仕方ないなぁ。
ちょっと貸すだけだからね? 汚くしないでよ? 」
美季はぶつくさ文句を言いながら、アタシにエプロンを貸してくれたけど、
エプロンはそもそも服を汚れから防ぐのが目的なので、汚くしないでと言われてもちょっと困る。
ん?
「ねえ美季。
これ以外のエプロンってないのかな? 」
「ない。
あと、私は勉強中なの。
出て行ってよね」
そう言うとアタシにくるりと背を向けて、勉強を再開した。
仕方なくそのエプロンを借りて、部屋に戻ってきたものの……。
「なんつーか。少女趣味? 」
アタシは美季から借りたエプロンをまじまじと眺める。
全体はピンクのチェック。
そしてフリフリに白いレースのオンパレード。
――ありえない――
こんな恥ずかしいエプロンをして、佐藤センセーと特訓?!
か、かなりありえないんですけどっっ!!