3・アタシのレベルは・・・
「じゃあ、これで二人は正式に料理部の一員だ!
おめでとう! 」
なにがめでたいのかは分からないけど、入部届けを書いたアタシたちに、
センセーは人懐っこい笑顔を振りまく。
だ・か・ら! その笑顔は毒なんだってば~!
「そういえば、今日は部活休みなんですか? 」
チアキがまじめな顔で先生に質問をする。
そういえばそうだ。
なんで今日は部活やってないんだろ?
「うちの部は三年しかいないんだよ。
だから、三年生が修学旅行に行ってしまえば先生しか残らないだろ?
先生だけ居ても部活にならないから、休みにしてたんだけど、
お前たちが入ったから、明日からでもがんばるか!
放課後、エプロンと三角巾を持って部室にきなさい。
先生がレクチャーしてやるからな」
先生は何かうきうきしながら、話をした。
そういえば修学旅行は今日から一週間の予定だったな。
場所は確か――京都。定番といえば定番だよね。
「明日からって……なにを作るんですか?
私はほどほど料理できるけど、咲は目玉焼きも作れないんですよ? 」
げ。
そこは言わなくてもいいとこなんじゃない??
アタシは恥ずかしさのあまり、少し俯いた。
「そうなのか? 」
センセーはあごを右手で触り、何かを考えている。
「よし! 分かった! 」
そう言うと、アタシに青いエプロンと三角巾を手渡した。
「え?? なんですか?? 」
「井上がどんな目玉焼きを作るのか、ちょっと興味あるな。
レベルも知りたいし、今から作ってみろ」
センセーは爽やかに笑っている。
ってか、この感じ……なんか似たようなこと最近あったと思うんですけど??
嫌、とは言えないこの状況。
アタシは仕方なく手渡されたエプロンと三角巾を身に付ける。
それにしても、なんかこのエプロンちょっと大きいな。
「先生、このエプロンってもしかして……?」
「あぁ、俺のエプロンだけど? 」
チアキの質問にセンセーはこともなげに答える。
ちょっとまて。
なんかアタシ恥ずかしいんですけど?
「咲、そのエプロン先生のだって」
チアキはアタシにわざと言った。
聞こえてたから、知ってるってっ!
わざわざもう一度言うことないのに!
アタシは少し顔が赤くなった気がした。
いやいや。
それは気のせいだ。
もし気のせいじゃなかったら、それはその、
今から苦手な料理を二人に披露しなければならないからに違いない。
うん。きっとそうだ。
アタシは自分にそう言い聞かせた。
けして、センセーを意識してるんじゃーないんだから。ね?
そして、アタシは目玉焼きを作った。
いや、作ろうとした。
結果は、実に散々なもので、チアキは涙を流しながら
おなかを抱えて笑い転げている。
センセーはというと、アタシの肩をぽんと叩いて一言。
「よし! 明日から特訓だ! 」だそうで……。
アタシは明日のことを思うと、思い足取りで家に帰ったのだった。