2・入部希望します!
「お邪魔します~」
アタシはそういうと、料理部の部室に入る。
料理部は、その名の通り料理をする部活だ。
部室は「調理室」で放課後この部屋の前を通ると、
なにやらいいにおいがしてくる。
でも、この日は何故かいいにおいはしていなかった。
あれ?
しんと静まり返った調理室には誰もいない。
「今日部活休みなの? 誰もいないんだけど」
アタシが思ったことをチアキが的確に言う。
「そう……なのかな? 」
アタシはがっかりした。
だって料理上手になるための第一歩がすでになくなってしまったのだから。
「えぇ~! そんなの困るよ!
アタシの料理上手の道は??
素敵な奥さんになる野望はどうすればいいの?! 」
とりあえずアタシはチアキに文句を言った。
「そんなこと、私にいわれてもねぇ。
とりあえず、今日は出直そうよ」
チアキはヤル気なく呟く。
するとそのとき後ろから声を掛けられた。
「ん? もしかして入部希望者か? 」
聞き覚えのある声にアタシとチアキは後ろを振り向いた。
そこにはアタシたちの担任の先生、佐藤先生が笑顔を振りまいていた。
「佐藤先生? 」
「お、なんだお前たちか。
どうした? もしかして入部希望とか?
うちの部は今三年しかいないから、お前たちみたいな若者が入ってくれると
かなり助かるなぁ」
佐藤センセーは右手であごを触りながら、私たちを見る。
「部活って……センセーはどこの部なんでしたっけ? 」
アタシが質問すると、佐藤センセはちょっとオーバーアクション気味に
肩を落としながら言った。
「ホームルームの時とか、結構言ってたんだけどな。
上の空だったのか?
全く仕方のないやつだなぁ。
先生は料理部の顧問だって何度も言っただろ? 」
「そ、そうだったんですか。
すみません聞いてませんでした」
アタシはちょっと悪かったな、と思ってぺこりと頭を下げた。
「そんなことより先生。
私たち、料理部に入部希望なんです。
特に咲。
この子の料理下手を、料理上手にして欲しいんですよ」
少し意地悪に、チアキは言った。
「なに?!
本当に入部希望だったんだな!! 」
先生は満面の笑みを浮かべて、アタシたちを見る。
その先生少年のような笑顔に、アタシは少しどきりとした。
べ、別に浮気とか、そんなんじゃないんだけどね。
アタシはアツム一筋だし!
だいたい、女子高では、男の子いないので、
ちょっと歳が若くて、背丈が高ければ普通の顔であってもキャーキャー言われる存在になる。
佐藤先生も例外ではなく、他の生徒からきゃーきゃー言われている。
まぁ、センセーって普通に見てもルックスは結構上。
アタシから言わせるとかっこいいってよりは『かわいい』の部類に入ると思う。
背は高いけど童顔で、笑うと結構あどけない少年のような顔になるので、
生徒は「そこがすてき! 」とか「守ってあげたくなる」とか(本人は知らないだろうが)色々言われている。
それが今、ちょっと分かった気がする。
近くで先生の笑顔を見ると、その、なんていうか、「守ってあげたくなる」と言う気持ちも分からなくもないって言うか……。
いやいや!
アタシはアツムのかわい~~彼女さんなのだ!
べつの男になんかドキッとなんてしちゃいけないんだってバ!