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ココアとセンセーとアタシ


 アタシはぽかんと口を開けたまま佐藤センセーを見つめた。


「長谷川さん? 」

 センセーはオバサンに再度声を掛ける。


「わ、悪かったわね。

佐藤さんの知り合いのお嬢さんだったのは、最初に言って欲しかったわ……」


 オバサンはそう言うと、そそくさとその場から逃げるように行ってしまった。


 後に残ったのは、無残なアップルパイと、間抜けなくらい口を開けているアタシ、それとセンセーだ。


「井上、とりあえずアップルパイを片付けようか」

 そう言うとセンセーはしゃがんで、ぐしゃぐしゃのアップルパイを片付けてくれた。



 ――アップルパイ。


 ――アツムに食べさせようと一生懸命作ったアップルパイ。


 アタシは、なんだかすごく寂しくて、たまらなくなって思わず涙が零れた。


 涙って不思議なもので、泣こうと思ってないときに限って後から後から溢れてくる。


「? 井上? 」


 アップルパイを片付け終わった先生はアタシの方を振り返ると、泣いているアタシを見た。

 やだ、恥ずかしい。

 早く涙、止まってよ。そう思ったときだった。


 センセーはぽんっとアタシ頭に手を載せて「上手に作れてたぞ? 」と言いながらぐりぐりと頭を撫でた。



「せ……せんせえ――!」

 アタシは堪え切れなくなって、センセーに抱きつくと、思い切り声を出して泣きじゃくった。



*************



「大丈夫か? 井上」


 センセーはホットココアの入ったマグカップをアタシの前に出してくれた。


「ありがとう……ございます……」


 アタシは白い湯気の立つココアをふうふうと冷ましながらこくりと一口飲んだ。


 甘くて、とろりとする温かいココアに、アタシは安堵する。



 ……ココアの入ったマグカップが空になるころ、アタシはなんだか落ち着かない気分になっていた。

 ここ、センセーの部屋……なんだよね。


 エントランスで一向に泣き止まないアタシを落ち着かせるために、センセーは自分の部屋に連れてきてくれたんだけど……

いくらセンセーとはいえ、男の人の部屋に入っちゃうなんて、ちょっとまずいんじゃないのかな??


 ちらりとセンセーを見ると、彼は心配そうにアタシを見ていた。


 どきり。


 アタシの胸の鼓動は途端に早くなる。

 

 センセーは学校でよく見るスーツ姿じゃない。

 黒のパンツにパーカーというラフな格好だ。

 もともと童顔なので、いつもよりも若く見える。


「それにしても――まさか井上だと思わなかったから、びっくりしたぞ? 」


 センセーはそう言うとアタシの頭をぐりぐりと撫でた。


「誰か人を待ってたんだろ? まさか俺か?! なんてな――」


 そう言ってにかっと笑うセンセー。


 多分落ち込んでいるアタシを笑わせようとか思ってるんだろうけど、

そんなこと言われても笑えないって。

 なんだか逆にどきどきしちゃいますから!


「あ、あの。すみませんでした。

あのオバサンに急に色々言われちゃって、なんだかテンパっちゃって……。

センセーにも迷惑かけちゃって……」


 アタシはどきどきを悟られないように、ちょっと目線を下に落としながらお礼を言った。


「もう、大丈夫なので帰ります……」と言おうとした、まさにそのときだ。


 ぐ、ぐぅ~~~とアタシのおなかが鳴った……。


 こ、このタイミングで??!


 あ、あ、あ! ありえないんですけどぉ?!


 大きな音だった。


 絶対センセーに聞かれた……。


 アタシは耳まで真っ赤にしながら、ちらりと上目遣いで先生を見た。



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