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イルマギア  作者: 鳴澤 衛
SS
73/80

ドレイクの温室

 魔導術統率協会の魔承師補佐のドレイクの一日は、温室の管理から始まる。

 魔承師・イゾルテは諸事情で魔導術から自由に出れない。

 そんな彼女の心の安らぎになるように、空中庭園やいくつかの植物園の温室に、図書室や娯楽施設まで整っている(残念なことに娯楽施設は内容的にイゾルテはお気に召さなく、魔導術統率協会に所属している者達が利用している)

 各施設にはそれぞれ担当が数人いて、順番に管理をしているが、ある一つの温室だけは、ドレイクがやっていた。




 温度も最適だ。

 ドレイクは腕まくりをすると、木製のバケツを持って温室に入る。

 バケツの中には、低熱量・高栄養の笹身肉が大量に入っていた。

 入って数歩──草木をかき分けドレイクに近付く、地を這う音。

 それが、かなりの数だと重なりあう足音で分かる。

 ドレイクを中心に、その音はピタリとやんだ。

 代わりに舌舐めずりに似た音が耳に入ってきた。

 ドレイクを囲むそれは

 トカゲ

 カメレオン

 イグアナ    の面々



「食事です」

 ドレイクは爬虫類達に対しても慇懃な態度は崩さない。

 ──しかし、物腰は人の女性に対してより柔らかい。

 やはり、より自分に近い種族だと意識しているからなのか。



 一匹一匹に丁寧に肉を口に運んでやる。

 そのついでに体調管理も怠らない。

「アントニオ、あまり食欲がわかないようですね」

 アントニオと呼ばれたトカゲはオオヨロイトカゲ──以前、ロジオンが連れてきたトカゲと同種類である。

 何か言いたげに、チョロチョロと舌を出すアントニオの顎に指を当てる。

「……成る程、分かりました。彼女に私からも、もう一度話しておきます」

 人生(?)相談も引き受ける。


 温室には様々なは虫類達が生活を共にしている。

 ドレイクと言う一目置かれた仲介者がいる為か、大した抗争も縄張り争いも無い。


 今度はカメレオン用の食事を放してやる。

 主食の昆虫である。

 毎回放すと、食べきれなかった虫達が温室の中で大量発生をするので、適度に回数を調節する。

 果物を好むのもいる。

 実る種の木々も植えているので問題はない。


 彼らは以外と綺麗好きだ。

 掃除も欠かせない。

 広い温室なのでそれなりに大変だが、トカゲやカメレオン達はドレイクを尊敬しており、自分達の王のように見ている。

 ドレイクの助けになるように、自主的に綺麗にしているようだ。

 ドレイクが人間であったら、ここまで信頼をされなかったであろうし、統率もしていなかっただろう。


 ドレイクが竜だからこそ──である。


 一通りの仕事を済ませ、箒と塵取りを持って出入り口に進む。

 丁度ヤシの木の下を通りすぎようとしたドレイクの肩に

 どさり

と乗っかって来た者がいた。

「──イサベル」

 ロジオンが連れてきたオオヨロイトカゲだ。

 つぶらな瞳でじっとドレイクを見つめる様子は、待ちわびた恋人との再会に感激をしているように見える。

 反対にドレイクの態度は冷静でそっけない。

「何度も言っていますが、貴女の愛をお受けできません。棲む世界も種類も身体の大きさも違いすぎます──何より、貴女を一人(?)の女性と見れないのです」

 ドレイクのその台詞にイサベルは、チロチロと舌を出し鎧のように固い鱗のついた身体を擦り寄せる。

「愛人としてでも恋人としてでも、一晩の相手でもお受けできません。同じ種のアントニオが貴女を愛していますよ」

 ドレイクのその、つれない言葉にイサベルは傷付いた。

 彼の肩に乗ったまま固まり、つぶらな瞳を潤ませる。

 ドレイクは箒と塵取りを片手に持ち帰ると、彼女を肩から下ろした。

「待って」

 そう言わんばかりに彼女は、ドレイクの足にまとわりつく。

「イサベル、あぶな──」

 ドレイクの言葉が途切れた。

 言葉もなく、じっと地を見つめる。


 敷き詰めたように群を成す

 トカゲ

 カメレオン

 イグアナ

 しかも──全て雌。


 チロチロと舌を動かす音が大合唱となって、温室に響いている。

 その瞳は常人からは皆つぶらで純粋に見えるが、言葉の分かるドレイクからは、その辛辣な内容に唖然とした。

 執拗なイサベルの求婚に、他の雌達が一気団結して彼女を責めている。

 

 ──これはまずい

 弱肉強食の世界

 へたをすればイサベルは、夕方には骨と皮だ。

「お待ちなさい、一対大勢とはあまりにも卑劣です」


 ──彼女の味方をするつもり?!──


 そう言わんばかりに、雌達の痛い視線を一気に受けてしまい、ドレイクは思わずたじろぐ。

 何故そうなるのか?

 多勢で責めるのが悪いと言っているだけなのだ。

 物言いを付けたければ、正々堂々一対一で行えば良い。

 何故、女性はどの種も団体行動を取りたがるのか?


 ──黙ってなさいよ!──


 ドレイクにはそう聞こえた。

 一触即発の緊迫した中、横のヤシの木から聞こえるトカゲの舌音にドレイクは耳を傾ける。

「──ドレイク様!」

 更に上から声がし、見上げると天窓からフレンが顔を出していた。

 ドレイクは咄嗟にイサベルとヤシの木に隠れていたアントニオを掴むと、地を蹴りヤシの木をバネにし 跳ぶと、フレンが開けた天窓から外へ出た。





「相変わらず女性達に人気ですね」

 ドレイクと同じ竜の血を持つフレンが、笑いながらイサベルを受けとる。

 ドレイクは、フレンに笑われたことなど気にも止めていない。

「アントニオとイサベルを別の温室に入れておく」

「それって……強引では?」

 イサベルが、アントニオのことを意識していないことをフレンも知っていた。

「構いません。アントニオは少々強引さに欠けているようですので。二人っきりになればイサベルも他に目をくれる者もなくなりますから」

「そういうものですか?」

 自分の腕の中にいるイサベルが、ドレイクの移行を拒絶するように暴れた。

「嫌がってますよ」

 フレンは言葉まではっきりと聞き取れないが、意思は分かる。

「《ぎゃー! いやー! 私は貴方の卵を生みたいの―!》と言ってるように聞こえます」

「……アントニオは私に《強気でいく》と言いました。まあ、頑張りなさい」

 どんな個体でも性格はあるものだと、フレンは染々と頷いた。





「──さて、次はヤモリ・イモリ達の食事と掃除をせねば」

「俺も手伝います」

 二匹を別の温室に入れた二人は遅れを取り戻そうと、箒とちり取りを持ち、すばやく歩いた。

 


 ──魔導術統率協会にいる時のドレイクは朝から忙しい。



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