表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イルマギア  作者: 鳴澤 衛
第二章
55/80

55 魔承師(1)

「着いたよ」

方陣移動で着いた先──。


──魔導術統率協会。



円錐の五つの建物が一定の距離で五角形の角を作って並び、それより高い円柱の建物が中央にそびえている。

合計で六つの建造物は、歴史を感じる懐古さがありながら、どこか斬新な印象もある。

アデラは、何処かでこの建造物と似た物を見たような気がして、眉を寄せた。

「クレサレッド教会と似てるでしょ?」

 ロジオンの台詞にアデラは、あっ、と気付き、宮廷に飾られている教会を模写した絵画を思い出した。

 教会は光を受けとめるような淡いクリーム色の建造物だが、こちらは反対の闇を吸収したかに見える色なのだ。

 色のせいなのか、こちらの方がより古く感じる。

「ロジオン様、この荷物は……」

「持ってくよ……ありがとう」

 付き添いで一緒に来たハインが、両手に抱えた箱をロジオンに渡す。


「──では、私は辺りを散策してますよ」

「一緒に来ないのですか?」

 そう言うアデラにハインはいやいやと、首を横に振った。

「私は出入りを許可されていませんから。この周辺は珍しい薬草などが自生していると言うし、研究がてらブラブラしています」

 確かに周辺は、人の手が入っていない原生林が繁り、辛うじて獣道があるだけのようだ。

「確かに、見慣れない草花がありそう……」

 人の気配もあり、手入れもされている大きな建物なのに、周囲は人が行き来できるように整備もされていないし、集落や町もない。

「大きな街の中心となって発展しているクレサレッド教会とは模様が違うのですね」

 アデラの疑問はもっともだとロジオンもハインも笑う。

「魔法で移動するから……道は必要ないんだ」

「──基本、魔力を持たない只人はやって来ないので。用事がある時は方陣移動で街や集落に出てしまうんです」

 成る程──アデラは頷いた。

 認められ、この魔導術統率協会に出入りする許可の条件の一つに『方陣移動が出来る者』が入っているな、と理解した。


 ──では、と、やたらにこやかに見送るハインを不思議に思いながら、アデラはロジオンの後ろを付いていった。




 持ちます、と主が手に持つ荷物を受けとる。

「ハイン殿、変わりましたね。魔導術統率協会の出入りに随分執着していたようなのに……」

 喜び勇んで入ってくるかと思いきや──自分からあっさり引き下がったのが、アデラ的に首を傾げる態度だったのだ。

「大方……外でエマと待ち合わせしてるんじゃない……?」

 エマは魔導の感謝祭に合わせて帰ってしまった。

 それから会ってないとしたら、久しぶりの逢瀬だ。

「付き合い始めたばかりだから……まだ、燃え上がり中だろうし」

 後は若い二人に任せましょう──ぼのぼのと、見合いの仲介人のようなことを言うとロジオンは先に進む。


 円錐型の建物の間を進み、ひたすら中央の建築物へ。

 空を仰いでみると、各建物から建物へ続く渡り廊下が何階かごとに造られている。

 徐に主が止まったので、アデラは視線を戻し先を見た。

 全身黒でまとめた出で立ちの──ドレイクだった。


「着きましたか。魔承師様がお待ちです」

 相変わらず慇懃な口調に、感情の出ない顔だ。


「ちょっと待って……これ……」

と、先に行こうとするドレイクをロジオンはひき止め、アデラから箱を受けとると彼に渡す。

「陛下からです」

 受け取った箱をドレイクは、まじまじと見つめる。

「生物……?」

「感謝祭の時に、他国から献呈されたものなんだけど……飼い方が分からないそうだよ……ドレイクなら分かるんじゃないかって……お譲りするそうです」

「……」

ドレイクは被せられたビロード生地を外す──すると空気孔が幾つか空いている木製の箱が姿を現した。

空気孔から中を確認し、ドレイクは呟いた。

「……オオヨロイトカゲですね」

「流石、ドレイク」

「感謝祭からもう十日も経ってるのですが、今までどうやって飼育を? 乾燥帯から温帯で、サバナ気候から砂漠気候でないと住めない生物ですよ?」

「宮廷にある温室に放し飼いして……様子を見ていたらしいんだけど……花を摘みに来たメイド達が、目撃の度に悲鳴は起きるわ……卒倒するわで」

「宮廷には不向きだと判断されて、厄介払いされに来たわけですね」

「ドレイクが宮廷に来て面倒見てくれるなら……と、陛下の御伝言です」

 

 暫くじっと空気孔からトカゲを見ていたドレイクだったが

「良いでしょう。他にも保護している在来種がいますから、一緒に面倒を見ます」

と、あっさりと承諾した。

「ドレイクなら……そう言ってくれると思ったよ」

 平坦な口調ながらも、どこか弾んだ口ぶりの主を見て

 

 ──確信犯──


とアデラは思った。




 建物内にも方陣があり、こちらのは何処にあるのか、はっきり床に明記されていた。

 一応階段があるが、あまり使われていないらしい。


 魔方陣の円上に三人乗る。

 すると直ぐに魔方陣が光り、光が消えた後は別な場所にいた。

 ドレイクとロジオンに続き、アデラも恐る恐る魔方陣から出る。

 そこは広い謁見場だった。

 エルズバーグの謁見兼大広間の倍はあるだろうか。

 床や壁は大理石とは違う無機質な材質で出来ており、灰色に近い色味を出していた。

 その色のせいか、昼間なのに全体的に薄暗く感じられる。

(最上階なのか)

 天井には青系のステンドグラスが美しい模様を作り、日光を受けて謁見場を照らす。

 ──夜に来るとさぞかし美しいのだろう──

 クレサレッド教会が昼の象徴のような造りで、協会が夜の象徴の造りにして『対』にしているのだと、宮廷の絵画を見ている時に、信心深い仕官から聞いたことをアデラは思い出した。



「ここでお待ちなさい」

 ドレイクが近くに控えていた男にトカゲ入りの箱を渡し、一言二言指示を出したようだ。

 男が返事をし、自分達に会釈をすると箱を持って引っ込んでしまった。

「……今の人、混じってるね……竜の血が……」

 ぼそりとロジオンが呟いた。

 ドレイク同様、全く人と変わりがなかったのに、どうして分かるのかアデラには不思議だった。

(そこが只人との違いなんだろうけど……)


 ドレイクは高砂に上がると、太いローブを引っ張る。

 すると高砂の後ろを被っていたカーテンが上がって、ステンドグラスの大きな窓が出現した。

 ドレイクは連なる窓を一つ一つ開ける。

 外の風が入り、濁った空気を追いやり、謁見の間が一気に明るくなった。

「──?」

 窓の向こうがバルコニーになっており、そこに人がいたようだ。

 立ち上がりドレイクと何か話し込んでいた。


 長い髪が光を受けて輝く。

 輝く色は青みのある銀髪にアデラには見えた。


「あの御方が、魔承師様でしょうか?」

「……見えるの?」

 ロジオンが振り替えって、後ろに控えているアデラを見る。

 主の表情は固い──と言うより無い。

 口調ものんびりだが、更に単調に聞こえた。

「ロジオン様……緊張されてます?」

 アデラの問いに素直に頷き答えた。

「魔承師の気が……凄い……建物に入ってからずっと……嫌な気じゃなくて、静かで安らかな波動なんだけど……」

 

 ドレイクが魔承師の手を取り、バルコニーから誘導する。

 長い銀髪が、濃紺のマントと共に揺れている。

 ロジオンとアデラは、その姿に見惚れた。

 目が離せないまま、ロジオンは話し続けた。

「僕が赤ん坊の時に会った以来で……顔、覚えていない……はずなのに……」

 左手に持つ三日月がシンボルの長い杖が、魔承師の靴の音と重なり、響く。

 透ける程に真白な肌。

 そこに映えるのは咲き誇りの蓮の花弁に似た色の唇。

 瞳は満月の光が、多く溶けたような輝く青。

「ロジオン……ですね?」

 透き通る声音が出る口は、揃った白く小さな歯が見え、小さく微笑む。

 身体を隠す服が、反って彼女の整ったラインを強調させているように思えるが、いやらしさより清らかさが全面に出るのは何故なのか。


 小さく頷くロジオンに、嬉しそうに魔承師は言う。

「魔承師・イゾルテです」


 ──と。





 ああ、知らないはずなのに知っている。

 この美しい人を。


 ──やっぱり、この記憶は


 僕が生まれる前の魂の記憶。


 一番大切な人だとの為だと

 なのに



 ──ああ、結局……不幸にした。



オオヨロイトカゲ http://www.sauria.info/pb/lizards/detail.php?id=3331781336 すげえです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ