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イルマギア  作者: 鳴澤 衛
第二章
50/80

50 感謝祭

今まで後回しにしていた話が続きます。

 エルズバーグの感謝祭は地区ごとに二日ずつ、ずれて行われる。

 国の面積が広すぎて、国をあげて行うと産業が一気に停止してしまう為だ。

 何せ、こうした年に数回の祭りには皆、仕事を休んで楽しみたい。

 店という店は一斉に閉めてしまう。もちろん食べ物を扱う出店なんかも。

 楽士や踊り子だって休んでしまう。

 そうなると、飲んで食べて歌って踊って──楽しむことが出来なくなるのだ。

 それで地区ごとにずれて行い、他の地区が祭りで休みの地区に出向き稼ぐわけだ。

 中には年中無休で働き、稼ぐ商人もいるが……。


(王族も似たようなもんだね……)

 ロジオンはそっと溜め息を付いた。




 宮廷を背に上がる花火を背景に、メインバルコニーに集合する王族。


 中央にはメインのロジオンの父である陛下。

 両脇・左には第一王妃が立ち、ずらりと第一王妃の嫡子達が並ぶ。

 第一王子のディリオン殿下夫妻とその子達。

 第二王子は他国へ婿養子に行ってしまったので飛ばして第三王子・アリオン夫妻とその子達。

 第四王子・エアロンが並ぶ。

 第一王妃が産んだ王女達は成人し、皆、他国や他の区域の有力者達に嫁いでいった。

 右には第二王妃が立ち、すぐ横には第五王子のロジオンに第六王子のユリオン。

 第六王女のリーリヤ、第七王女のアラベラ、第八王女のイレインが並ぶ。

 

 男子は名前に統一感を持たせたと言うが、返ってややこしい。

 ややこしいが名前に連帯感を感じるのか、仲が良い。

 しかも──今年はきちんとロジオンが『王子』として参加している。

 同世代の民衆の女の子達に絶賛に人気のある、第六王子のユリオンと似た顔が並んでいる。

 どよめきから歓声に、甲高い女性達の声──ロジオンは手を振りながら『王室スマイル』と言う上品な笑顔で、宮廷に集まってきた民衆に応えた。




 バルコニーでのお披露目の時間が終わり、王族達は陛下である父と二人の王妃、それと後継者であるディリオン殿下夫妻は晩餐会に出席するが、後の兄弟達は自由である。

 年に数回ある国をあげての行事には勿論、王族全員の参加義務がある催しがあるが、下に生まれた者ほど拘束が少ない。

 その点、ロジオンは五番目なので、まだ気楽なわけだ。


 バルコニーから室内に入った途端にロジオンは、ヘナヘナと踞った。

 じんわりと汗を掻き、しかめっ面である。

「ロジオン様!」

 控えていたアデラが肩を貸し、ロジオンはゆっくり立ち上がったが、背中を丸めたままだ。


「兄上、大丈夫ですか?」

 すぐ隣にいたユリオンも寄り添い、肩を貸す──が、華奢なので潰れた。

 慌てて、ユリオンの従者が彼を起こす。

「もう、兄様ったら力無いんですから」

 百合の名を持つリーリアが、代わりにロジオンに肩を貸す。

 身体を動かすのが好きな彼女は、普段から運動を欠かさない。ユリオンよりずっと安定している。

「フフフ……僕は竪琴以上の重い物を、持ったことが無いのさ」

 念入りに手入れされた銀の髪を掻き分け、ユリオンは言った。

 返す言葉が見つからないので皆、スルーする。



「ロジオン」

「陛下……」

 家臣達が大勢揃っている中では、例え親子でもわきまえなければならない。

 王室には面倒なしきたりや作法があることは、食客として師と渡り歩いていた頃から知っているロジオンだが、それが自分の身に起きると面倒くさい。

「負った傷が痛むようで……退出したいと思います」

 ロジオンの台詞に、父である国王陛下はウンウンと頷く。

「師との戦いとの傷だと聞いておる。……よくぞ打ち勝った! 魔導術統率協会の皆々からその様子を聞いて、父は……父は……!」

 腕を後ろに組んだままの体勢で立っていた父陛下は、くっ、と顔を上げた。

 ぷるぷると震えているところをみると、感涙しているらしい。


「ロジオンはまだ結婚が決まっていないから、深夜から始まる舞踏会には参加しなくてはならないが……痛そうだしなあ」

 代わりにディリオンがロジオンと話す。

「全治二週間で、一番腹部にきているから、まともな食事が取れないでいるのです」

 アデラが答える。

 ディリオンと補佐役のアリオンが顔を見合わせた。

「殿下、二ヶ月後には新年祭が控えてますから、それには必ず出席すると言うことで、今回は見送っても良いのでは?」

「……まあ、感謝祭は民衆のための祭りみたいなものだしな……」


 まだ感激に涙を流している父陛下は二人の王妃に任せて、てきぱきと指示を与えるディリオン殿下とアリオンを見て、取り合えず次世代のエルズバーグ国は安心だとロジオンは思った。


 その一方──。

「兄上! 今夜の舞踏会で兄上の武勇伝を詩にして歌いますよ!」

「いや、止めてそれ……」

 瞳を輝かせて迫るユリオンを見て、自分と似ているのがこう言うの──だと思うと、物悲しい気持ちになった。





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