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イルマギア  作者: 鳴澤 衛
第一章
45/80

45 亡異世界の呪文

「ウワッ!」

 身に付けているローブに足を取られ倒れる教皇に、僧侶達は慌てて駆け寄り彼を起こす。

「魔承師補佐! なんと言う無礼なことを!」

 僧侶の一人がドレイクに向け、怒りを露にした。

 勝手に躓いてそれを人のせいにするとは、余程こちらに非があると思わせたいらしい。

「周囲がめくらだと苦労しますね、教皇」

「ぬ……」

 教皇は老体を周囲の僧侶達に起こしてもらい、ヨタヨタと歩き出した。

「……付いてきなさい」

 ドレイクにそう声を掛けた。

「教皇、我々も……」

「お前達はここにいなさい!」

 付いてこようとする僧侶達に放った教皇の言い方は、思いもよらず けんのある言い方で僧侶達は一瞬にして固まる。

「魔導術統率協会から依頼が来ていたことを、何故すぐに話さなかったのだ! 何を置いても先に連絡をするよう常に申しているではないか!」

「し、しかし……感謝祭間近で教皇様共々忙しく……」

「魔導術統率協会の依頼は緊急を要することが多い。いつも、そう申しているはず!」

 もう良い──教皇は、何度も言い伝えた台詞にうんざりした様子でドレイクとその場を去った。


 ここ中央教区も、感謝祭の準備で夜遅くまで追われていた。


 教皇のいるクレサレッド教会は、魔導術統率協会と同等の古い歴史と伝統を持つ。

 その歴史故に矜持が高く、教会に保管してある、あらゆる文庫を出し惜しみする傾向があった。

 ──魔導術統率協会も知らない、未知の世界の書物も置いてある為に、急な危機の時には自分で考え・創るより余程早い。

 

 教皇は祭壇の裏側に付くと、自分の首にかけていた四角い金板を外す。

 祭壇の裏には、それがぴったりと収まる凹みがあり、教皇はそこに金板をはめ込んだ。

 すると、枠組みが出現し引き出しのようになり、独りでに開いた。

 

 そこには──数珠のような物が深紅のビロードの上に大儀そうに置かれていた。


 数珠とよく似ているが、数珠にはない人差し指と薬指と親指にも通すところがあり、手首の部分には留め金がある。数珠玉の大きさも普通の半分もない。

 これが教皇しか持てない、『知識の宝庫』と言う名の教本であった。

 教皇は左手にそれを嵌めると一言二言、言葉を述べる。

 これは呪文ではなく合言葉のようなものだ。

 すると大きな図鑑ほどの、透明の鏡のようなものが数珠の上に出現した。

「悪しき魔を払う言葉で宜しいのですかな?」

「『払う』だけでは駄目です」

「では、滅する方で……」

 教皇はそう言うと、その鏡に指を当て文字を書き出す。

 押すような動作をすると、鏡に色々な形の紋様が写し出された。

 ──それは異世界のあらゆる文字だとドレイクは知っていた。

 

 魔力を持たない者達の、亡世界だと言うことも……。


「ドレイク殿」

 暫くして教皇がドレイクに声を掛けた。

 焦燥の色が濃い。

「どうしました?」

「はっきり、滅すると記録している文書があまり見当たらないようです」

「退散だとまたやってくる。魂を消滅出来る呪文はないのですか?」

「──退散や祓い、除霊、淨霊に関する言葉は多く出てくるが……善でも悪でも命は尊いと言う教えがあるので、在るべき場所へ帰るようにしますが、帰れなくなるような魂の抹消までする呪文は、そもそも少ないのでしょう……」

 首を横に振りながらも教皇は、ドレイクの期待にそえる呪文を探した。

「……浄霊か封印でも構いません」

 仕方ない──そんな風にドレイクは、そっと溜め息をついた。

 時間がない。もうロジオンが数多く施行した円柱形封印魔法陣は終わる。

 異世界から封印陣を召喚できる『召喚封印魔方陣』が成功していれば良いが。

 あれは大分時間をかけないと難しいし、何より精神を消耗させる。

 コンラートの知らない、力のある異世界の者を探すのがそもそも大変だ。


「……これならどうです? ジャーハンと言う国の呪文です。はっきり消滅と記されてます」

「それで良い。もう時間が無い」

「他に浄化と封印の呪文も、幾つかお渡ししましょう」

 教皇が透き通る鏡に向かい人差し指をくるくると回すと、縮小し、数珠の上に収まった。

 ドレイクは自分の魔法日記を元の大きさに戻し、机の上に置く。

 教皇は数珠を嵌めた左手をひっくり返し、魔法日記の表紙にあてた。

「直接なので、申し訳ないが中身は後で修正を……」

 魔法日記に直接記憶させる方法の一つだ。

 この場合、たまに白紙の頁ではなく、別の、先に記した頁に紛れてしまう場合がある──それを教皇は言っていた。

「いつものことですから」

 吸い込む度に光を放つ魔法日記と、情報を送る時に規則的に光る数珠を見ながらドレイクは言った。



 数珠と日記から放出される光が急に消え、辺りは静かな薄闇に戻った。

「私は急がなくてはなりませんので、失礼します」

「強敵なようですな。お気を付けて」

 ドレイクの無くなった中指を見て教皇は懸念した。

 ドレイクは仮の姿になった日記を胸元にしまうと、足早に一番近い移動方陣に向かう。


「──ドレイク殿!」

 教皇の、弾かれたような大きな呼び声に後ろを振り替える。

「感謝祭が終わったら、魔承師様に近いうちにお時間を頂けないか御伝言を! ご相談があるのです!」

「確かに。伝えておきましょう」



 何か困ったことが周囲に起きているのだろうと予想がついた。


(だが今は……)



 ロジオンの身が案じられ、一刻も早く戻ることがドレイクの最優先事項であった。



私用で、次回の投稿は週末か来週になります。

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