44 在する者達
『召喚封印魔法陣』
異世界の者から封印魔法陣なる物を召喚する。
以前からコンタクトを取っている者なら召喚は容易いが、今回はコンラートが接していない異世界の者を探し、交渉をしないとならない。
──間に合うか?
詠唱と共に精神を離脱させ、遠く彼方へと飛ばす。
勿論、闇雲ではない。
魔法使いとか魔導師とか魔力とか──馴染み深い『魔』の世界への介入。
──ナゼ、『魔』ナンダイ?
また声が聞こえる。今度は先程と少し声音が違った。
──何故、我々ニ『魔』ガ付イタ?
──遠イ昔、魔法使イトカ魔導師ナンテ名称ナド無カッタ
後から付いたんだ。
──ソウ、後カラダヨ
じゃあ……
──『魔』ヨリ召喚シヤスイ世界ノヲ探シナヨ
精霊界?
──違ウネ
神界?
ゲラゲラと幾人もの笑い声が重なる。
──神界ト言ウ異世界ガ、在ルト思ウンダ?
違うのか?
──今デ言ウ神界ハ、後デ命名サレタ世界
……無いのか。
──知ラナインダネ
──全クダ
──仕方ナイサ、時ガ経チ過ギテイル
──只人二、都合ノ良イヨウニ世界ガ創リ変エラレタ
──コノ、世界ハ──
「……!?」
集中が途切れ、精神が戻る。
それでも、頭の中で自分に語りかけてくる幾人かの声に、ロジオンは釘付けになってしまった。
──知リタクナイカ?
──コノ世界ノコト
──異世界ノコト
──イヤ、一番知リタイノハ
「……お前達は誰だ?」
*
時間差施行で幾重にも施行していた、最後の円柱形封陣が破れた──。
ドレイクはまだ戻ってこない。
ルーカス達の入魂も今だ続く。
ロジオンが、異世界への呼び掛けを途中で止めた。
何か不都合でも起きたのか?──ロジオンはこめかみを押さえたまま、狼狽えていた。
すぐ近くに今、最も警戒しなくてはならない化け物が──コンラートがいるのに──。
《ロジオン──》
ロジオンが我に返った視線の先には、既にコンラートが覆い被さろうと、闇より暗い闇の触手を広げていた。
「ロジオン様!」
コンラートの肩から腰にかけ、斜めに直線の空間が出来た。
間髪入れず、反対の肩から逆の腰にかけても。
アデラだった。
自らを主張するようにマインゴーシュは、金色の光を放つ。
ドレイクがアデラのマインゴーシュに『光聖』の念を入れた為だ。
二回の攻撃に弾みが付いた身体は、三回目の攻撃をかける。
二つのマインゴーシュを宙で合わせて、両手で柄を掴むと頭上から真っ二つに切り付けた。
「ア……デラ? ……『戦女神パラスの鎧』?」
「ロジオン様! ご無事ですか? 何ともございませんか?」
アデラはロジオンの肩を掴み、わさわさと前後に揺らす。
ぼんやりとした様子で自分を見つめる主に、アデラは不安を感じたためだ。
視線は合ってるのに、心有らずで彼方に在るように見えた。
「ロジオ……!」
「──アデラ!!」
急に正気に戻ったようにアデラに怒鳴るロジオンに、彼女はホッとする間も無かった。
再生を果たしたコンラートが、あっという間にアデラを池に引きずり入れたからだった。
「くそっ!」
ロジオンも池の中へ飛び込んだ。
*
夜の池の中は、闇の色を引き込み暗いはずなのに──。
薄明かるい。
ああ、そうか。
月明かりと
アデラに施行されている『戦女神パラスの鎧』だ。
身体全体がボンヤリと光る姿をすぐに見付けることが出来て、施行してくれたドレイクに感謝した。
ロジオンは、逃れようと暴れているアデラに追い付こうと、必死に手足を動かす。
アデラが手に持っていたマインゴーシュで、自分を掴む影を確実に切り裂いた。
先程の剣の扱い方と言い、見事だ。
水の抵抗力も頭に置いて剣を扱っている。
技術を見ると、アサシンとしての才は十二分に兼ね備えている。
コンラートから離れ、こちらに向かって浮上してきたアデラの腕を掴み、自分に引き寄せた。
顔が近付き、視線が重なる。
(──えっ?)
突然、自分の身体が硬直し、ロジオンは焦った。
身体が吊った?──いや、そんなんじゃない。
意識が、深い海の底に引きずり込まれる感覚に背筋が凍った。
(──精神支配!)
何故だ? アデラ?
(まさか! アデラは魔力を持っていない、出来るはずか無い!)
でも目が合ったのは、見つめたのは彼女しか──
アデラの瞳を見て、ロジオンはまさか、と自分を疑った。
アデラの瞳の中に映る自分の姿──。
(違う!)
そう感じた。自分なのに自分じゃない。
アデラの瞳の中の自分が笑った。
「──!?」
──駄目ダナ、丸ッキリ冴エナイネ
──力ノ使イ方ヲ教エテヤロウ
──ナニ、少シノ間、身体ヲ借リルダケダ──
誰かに頭を掴まれた気がした──刹那、ロジオンの意識はそこで途絶えた。