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イルマギア  作者: 鳴澤 衛
第一章
42/80

42 復活(3)

 ピシ……


 僅かに聞こえる割れる音に気付いた時には、コンラートは封縛を解き、軽やかに宙を飛んでいた。

 両手に水の球体を抱いて──。

 ドレイクは球体に標的をあてた。

 一瞬にして水の球体は蒸発し気体に変わる──が、ドレイクは自分の失敗に舌打ちをした。

 コンラートの手まで干乾びてしまった。

 通常の人なら、熱いと感じるくらいで済むはずだった。

 だがコンラートが取り込んでいるのは、水の精霊。人より揮発率が高い。

 念頭に置いて威力を押さえて施行したが、思ったより過敏であったらしい。

 コンラートは池の中へ滑り込んで行った。

「閉じろ!」

 ドレイクが刹那、左から右へと腕を振る。

 池全体が光を放ち、瞬時に古代文字で形成された封印結界が池を覆う。

 ──だが


 パキィィィィン


と、乾いた音が、封された池から響いた。

「……なれの果てでも、高名な魔導師──と言うことですね」

 ドレイクが忌々しく呟いた。

 崩壊された結界から、飛び魚のごとく水が幾つも線を成して飛び上がる。

 それが鉄砲のようにドレイクに襲いかかってきた。

 先端が魚の口に似、パクパクと開けながら、水しぶきを上げて向かってくる。


 ドレイクは、竜の身体能力を発揮した跳躍で地を蹴り、木々の幹を飛び蹴り、襲いかかる水攻撃を避ける。

 誘導施行もかけているようで、それはドレイクの後を易々と追いかけてきた。


 水力で枝をなぎ倒し、葉や木の破片を巻き込み更なる凶器に仕立てあげる。

 ドレイクは方陣の場所を踏む──瞬時に姿が消え別な場所へ出現した。


 池の真上に──。


 誘導施行された水の凶器は、池の上の方陣にいるドレイクに向かって突き立てた。

 ──だがドレイクに当たる瞬間、彼の姿は消え、凶器と化した水は、勢いのまま己の住処の池に突っ込んだ。

 その勢いは津波を起こし、池の外にまで流れ出る。



「池の上にも方陣が……」

 アデラが、信じられない物を見たようにロジオンに告げる。

「水の王の力を借りたか……事前に用意していたか……だね」

 しっかりこっち見て、とロジオンに促され、アデラは再び自分の剣の刃の部分に目を向けた。

 手入れされた刃からは、僅かな月明かりと繰り出す魔法の起こす光で、アデラとロジオンの顔がうっすらと写っていた。

「ドレイクのことだから、水の精を切り離す策は出来てるだろうけど……その後のことを考えると……僕達も策を張っておく」

「はい」

「刃に写る僕の口の動きを見て……」



 ドレイクは動きを止めていなかった。

 魔法攻撃に取り込んでしまった木々の破片──物理攻撃まで加わった自分の施行した魔法。

 それが自身に戻ってきたことで、僅かに隙が出来た。

「上げろ!」

 ドレイクのめいで水中から飛び出てきたのは、コンラートだった。

 水に関与できるのは水の精霊──特に支配している王。

 事前にコンタクトを取り、精神の繋がりを依頼していた。

 身体憑依・精神支配とは異なったもので、精神感応と言われている。

 正体不明の化け物に変わってしまったコンラートが仲間を取り込んでしまっては、水の王も流石に静観している訳にはいかない。

 生来、臆病な一面を持つが、ドレイクならと信頼を得て精神に繋がりを持たせた。


“私の前で水の中で隙を見せたら、押し上げて池から放り出せ”


 ──かくてドレイクの思惑通りにいった。




 自分が支配した池から放り出されたコンラートは、地の上で呆然としていた。

 何が起きたのか気付いていないのは明らかであるが、それも短い間だと──。

 ドレイクは刹那コンラートに魔法を繰り出した。

 コンラートを取り囲む柵のような立体陣。

「ᚷᚱᛟᚫᚾ ᚫᚾᛞ ᚱᛟᚫᚱ(唸り、轟け)身体の奥底まで」

 ドレイクが施行した魔法は音波魔法。

 それも閉じられた狭い範囲内である。


 ウィィィイイイイン


 身が波打つような強烈な音波にコンラートは懸命に陣から脱出しようと、柵のような立体陣に手を掛けた。

 だが、更に状況を悪くしただけであった。

 音波を発しているのは、この立体陣の柵からであり、あまりの強烈さにブルブルと身体全体にくる。

 かなりの電流を受けているのと似た感覚で、身体が振動し肌が波打っていた。


「ぅっ、うっ、ぅっ」

 がくんがくん、とコンラートの身体が激しく揺れる。


「水の精はこのくらいの波動なら、風に波打たれる程度のもの。──だが、コンラート……元・人間の貴方はどうでしょうか?」

 ドレイクの口元が上がった。




 立体陣の中のコンラートがブレだした。

 二人いる錯覚。

 重なったり離れたりを繰り返し──ずるり、と人の形成した殻から出る何か……。


 ──コンラートだった。




 ──水の精から離れた。


 ドレイクは、左手を素早く握る仕草を取る。

 コンラートを閉じ込めた立体陣は、一瞬に細い柱となり化け物と化した身体を縛り付けた。

「王!」

 ドレイクが誰にともなく叫ぶ。

 離れて自由になった池の精霊だが、コンラートに精神を含む全てを乗っ取られ弱りきっている。

 自ら土に溶け、浸水し自分のある場所に戻るのにも絶え絶えで行っていた。

 また捕まってしまう──ドレイクは王に保護して貰う為に呼び掛ける。


 急に土に浸透するスピードが上がり、水の精は土に溶けていった。




「──!?」

 自分の左の握り拳が、意思に関係なく開く。

 破裂音に、コンラートが柱から解き放たれたことを知る。

「──ちっ!」

 ドレイクの左の掌が血で染まった。ボトリと中指が落ちる。

 掌に深く亀裂が入り、血が止めどなく流れていく。

 封印がまだ未完成のうちに解かれたことで、跳ね返りが来たためだ。

 忌々しく左手を振り、己の血を払う。


 水の精が離れたのは良いが、魂が自由になった分動きが格段に早い。

 そのことは長く生きてきた分、ドレイクは知っていた。

 逃がさない自信はあるが生前が高い魔力に、様々な魔法を駆使したコンラートだ。

 

 ──封じ込めて滅する方向が一番確実だが──

 

 (まだ準備が整わん)


 封じ込めるだけで手一杯か──。


 ドレイクは、先程とは格段に早いスピードで迫るコンラートを見て、そう思った。



「ᛒᛟᚱᚱᛟᛙ ᛁᛏ(借り給う)『戦女神パラスの鎧』」

『戦女神パラスの鎧』──物・魔の防御だけではなく、かけられた個々の能力も飛躍的に上がる魔法である。

 ただ、軍隊など大人数には施行が出来ず、一人の魔法使い・魔導師で一人しか出来ない。

 戦では大抵自分自身に施行する魔法であった。


 施行ギリギリであった。

 少しでも判断が遅れていたら殺されていたか、取り込まれていたか。


「自由だな! コンラート!」


 ぴったりと追い付いてくる影の顔がうっすらしか無いのに、にやりと笑ったのがはっきりと見えた。





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